20Kmを0mに…距離を感じさせないCGスタジオの拠点構築とは?サンジゲンのシステム開発部が明かす

9月28日、アニメ制作技術に関する総合イベント「あにつく2019」がUDX GALLERYにて開催された。本記事では、サンジゲンによるセッション「20Kmを0mに 距離を感じないCGスタジオ拠点構築」の模様をお届けする。


講師を務めたのは、システム開発部部長の金田剛久氏と、システム開発部システムチーフの中村公栄氏。

サンジゲンは、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』や、今年公開の劇場版『BanG Dream! FILM LIVE』など、セルルックな3DCGによる作品作りを得意とするアニメスタジオ。
2006年3月に数名体制でスタートした同社は、現在総スタッフ数が208名にも上り、制作スタジオを東京、京都、福岡、名古屋に有すなど、その規模は国内最大級。

本セッション内では、同社が2019年5月より新たに開設した、東京都立川市の第2スタジオのシステム構築を振り返った。
リモートワークステーションの導入や、ロスレス(圧縮により画質が損なわれない)な配信映像による作品チェックが可能な環境など、スムーズなスタジオ間連携を実現したシステムのメリットと注意点が語られていく。


立川スタジオ開設にあたって、システム開発部に様々なことが求められた。クリエイティブ系スタッフの大半が常駐し、本社と連絡を取りつつ、映像配信によって編集作業や完成映像のラッシュチェックも行える環境だ。


ひとつの作品を地方スタジオと連携して制作しているサンジゲン。その従来の遠方拠点構築は、各スタジオに簡易的なストレージサーバーが置かれており、本社のサーバーから随時必要なデータを転送してもらうというシステムだった。
しかし、100人規模のスタッフが常駐し、編集や映像確認作業までも行える新スタジオ実現のためには、従来のスタイルからの刷新が求められたという。

そこで、システム開発部が導き出した解決案が、「専用線接続」、「リモートワークステーション」、「映像IP伝送」の3つである。


まずは専用線の導入だ。100名以上のスタッフが常に本社のレンダーファームやワークステーションを使用し、さらに劣化の抑えられたロスレス画質での映像確認まで可能な環境の実現ともなれば、大きな帯域と短いレイテンシ(※転送要求を出してから、実際にデータが送信されてくるまでの遅延時間)の回線が要求される。

その厳しい条件を満たすのが、通信事業者がクライアントの拠点間接続などのために貸与する専用線だ。
これを使用することで、他の利用者と帯域を共有することで速度が制限される公共回線などとは異なり、常に安定した帯域・レイテンシの回線でスタジオ間を結ぶことができる。


今回のケースでは、安定性とコストのバランスを考慮して事業者選定を行った結果、月30万円という破格のコストパフォーマンスで、10Gbe(帯域幅10Gbps、転送速度1.25GB/s)の専用線を導入したという。

上手くすれば高速なインフラを確立できる専用線だが、注意点も語られた。
地図での直線上の距離が20kmだとしても、その通りに引かれるとは限らないのだ。遠方を経由して引かれた場合は回線の性能低下に繋がるし、たとえ理想のダークファイバー(敷設されている未使用の光ファイバー)が存在しても、空きがない場合もある。

新たにダークファイバーを敷設する際、敷設自体は事業者が無料で行うものの、工事までに半年待ち……ということもある。スタジオ設立において、それは現実的とは言えない。
そのため、講師陣はインフラ構築の際、回線事業者への確認を注意深く行うべきと語った。

2ms以下のレイテンシに、10Gbeの帯域を持つインフラを構築したシステム開発部。次の課題は、リモートワークステーションの導入だ。


立川第2スタジオには、サンジゲンのコンポジットセクション(3DCGにおける仕上げの工程を行う部署)も移転されている。
そんな中、ワークステーションの存在する本社と立川間で大量のCG連番画像やムービーデータのやりとりを行うと、回線の帯域を使い切ってしまうのではないか……そんな懸念がシステム開発部にはあった。

その解決のために検討されたのが、VDI環境だ。
VDI(デスクトップ仮想化)とは、ユーザーが使用する端末の機能を最小限に留め、ソフトウェアやデータをサーバー上に集約し、処理を行うシステムのこと。
今年11月にローンチ予定の「Google Stadia」などのクラウドゲーミングシステムにも、このVDIの仕組みが用いられている。


以前から膨大なフロア電力などの改善のため、クリエイターが自席からサーバールームのワークステーションにアクセスするVDI環境に興味を持ち、テストを行っていたシステム開発部は、今回のスタジオ設立に当たって、シンクライアントと物理ワークステーションを直接接続するリモートワークステーションの環境を導入した。ラックマウントワークステーション「Dell 3930 Rack」、PCoIP接続カード「Teradici PCoIP Card」、接続用のクライアント「ELSA VIXEL S250」といった機材を20セット、立川スタジオに導入。

リモートワークステーションの利点として、遠方スタジオのデータ量や電力量など、インフラ周りの強固さを過剰に要求されないことが挙げられた。
さらには、落雷などの瞬断によるデータロスもなく、障害対応も少し楽になったという。

ただし、サーバールームの電力、空調能力はそれなり以上の要求値となることや、遠隔操作でワークステーションの電源ON/OFFをする方法に関して考慮する必要があるとのこと。


最後の課題が、遠隔地と同時にラッシュチェックを行う環境・機材の整備だ。
配信と言っても、ただ映像を受信できれば良いというわけではない。マスターになる映像のチェックを行うため、タイムラインに忠実であることは絶対。
音や色調に差異が生じることなど、もってのほかである。

そこで導入されたのが、LANケーブルで映像と音声のやりとりが行えるが行えるIP伝送機材「AJA IPR-1G-HDMI」(受信機)と「AJA IPT-1G-SDI」(送信機)だ。


本機材を使用すれば送信側がラッシュ環境の映像をSDI/HDMIケーブルで機材に入力することで、LANを介して受信側へと送ることができる。

映像IP機材の中には、AJAIP~のように、劣化のないロスレスで絵と音の一致を保証する製品があり、それらを使用することが推奨されていた。
また、今回の機材の選定理由としては、セグメントを超えたアドレス取得が行えることも理由にあったという。

そして、講師陣が映像IP伝送の注意点として特に強調していたのは、とにかく帯域を消費し、数msの遅延で絵と音が途切れてしまうため、現状では専用線しか選択肢がないという点だ。
さらに、基本的にマルチキャストの機材が多くユニキャスト対応機材が少ないため、ユニキャストで接続したい場合は機材の選択肢が絞られてくるということにも触れていた。




こうして、新たなるシステム・機材の導入によってサンジゲン立川スタジオは本社とのスムーズな連携を実現し、設備の投資削減と、設備構築スケジュールの簡素化を実現したという。
最後に、講師陣は今回導入したシステムの注意点を改めて出しつつ、“これがないと何も始まらない要素”として、遠隔拠点間通信での低レイテンシ環境の重要性を改めて強調した。
[山田幸彦]

あにつく2019