気鋭のアニメ制作会社「絵梦(えもん)」 日本本格参入から見えるものとは? 代表取締役・李豪凌が語る

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「HAOLINERS」という言葉をご存じだろうか。中国のアニメーション制作会社「絵梦(えもん)」が設立したアニメーションブランドの名前であり、日本ではこのブランド名で2016年12月までに4タイトルのテレビシリーズが放送されている。絵梦は現在、オリジナル作品の他、中国の大手インターネット企業「テンセント」の運営するポータルサイト「テンセント動漫」で人気を博すWebコミック作品を原作としたアニメーション制作を中心に行っている。また、HAOLINERSブランドを冠してはいないが、テレビアニメ『霊剣山』もテンセントが原作であり絵梦も製作に関わっている。

日々放送・配信あるいは劇場公開されるアニメーション作品はアニメーション制作会社なくしては生まれない。スタジオジブリをはじめサンライズ、Production I.G、スタジオ地図、京都アニメーションなど、現在では国内に622社が存在し(※アニメ産業レポート2016参照/日本動画協会調べ)、そのほとんどは日本の資本で運営されている。海外となるとディズニーやドリームワークス、あるいはワーナーブラザーズといった北米の大手スタジオはよく知られているが、中国のアニメーション制作会社に詳しい人間は非常に少ないのではないだろうか。

吉祥寺にスタジオを構え、これからも継続的に日本でアニメーション作品の放送を行っていくという「絵梦」。その代表取締役社長であり、自身も監督などを手がける李豪凌氏に、「そもそも絵梦とは?」という基本的な質問から、日本でどのような制作会社になることを目指しているのかなどをうかがった。
[取材・構成:細川洋平]

絵梦株式会社 | 絵夢(エモン)株式会社
www.haoliners.jp/

■ネット配信参入で急成長した絵梦

――はじめに絵梦とはどういうスタジオなのかうかがえますでしょうか。

李豪凌(以下、李)
ひとことで言えばアニメーション制作会社です。2013年までは中国のテレビ放送を中心に制作してきて、2013年末にネット配信が爆発的に発展すると、絵梦もショートアニメでネット配信に乗りだしました。ショートアニメというのはタブレットなどで手軽に観られるアニメとしてちょうどよかった。インターネット環境が整った今はより長い尺の作品も手がけています。

中国は日本以上に放送倫理規定が厳しい国です。放送局の方針と視聴者のニーズに差が出て来てしまいます。そこでネットが発達し、実際は多くの視聴者がタブレットや移動端末で配信番組を楽しんでいます。

――ネットは相性がよかった。


そうです。ネットは投資家が運営している以上、自由ですから観客の見たいものに純粋に投資が行われます。実際ネットアニメがはじまってから、中国は新たなアニメーション文化がはじまりました。絵梦はそのはじまるタイミングで参入でき、さまざまな先手を打った結果、多くの投資家に重要視される会社になりました。

絵梦としては今後、いい作品をどう生み出していくのか、どうやってみなさんに知っていただくのかをとにかく考えていきたいです。中国は手描きの2Dアニメが主流ではありますが、一時期3Dにこぞって傾倒したため2Dアニメの技術が少し遅れているんです。ですから日本や韓国の技術を学ぶため、絵梦は2015年に韓国へ進出し、次に日本へ来ました。ゆくゆくは中国と日本の関係を密にして、日本の優れた物語やアニメーターを中国にも紹介したいと考えています。大まかな絵梦の歩みは以上です。

――李社長ご自身はどういった経緯でアニメに興味を持たれたのでしょうか。


中学生くらいの時から『スラムダンク』など観ており元々アニメは好きだったのですが、大きなきっかけは大学生の時に訪れました。テレビアニメ『最終兵器彼女』を見て、非常にショックを受けたんです。悲しい物語でしたが、自分にとってインパクトが大き過ぎてその後一ヶ月くらい沈んでしまいました(笑)。そこで、アニメ作品というのは誰かに大きなインパクトを与えたり、気持ちや世界観をガラリと変える力を持っているんだと実感したんです。アニメーションを作るということは有意義で価値のある仕事なんだと思いました。

――まさにガラリと変わったんですね。


ええ。それで大学では建築を学んでいたのですが、アニメ業界に身を投じました。最初は上海にあるテレビ局に行き、やがてテレビ放送向けのアニメ監督をするようになりました。中国のテレビ局はエリア毎にありますから、上海エリアに向けて放送していました。その後、絵梦に移ったというわけです。

■日本のアニメ業界に感じた壁

――業界に入るきっかけというのはやはり世界共通なのですね。それでは話題を変えて、東京絵梦のことを伺わせてください。今年一年、絵梦では日本のテレビでアニメシリーズの放送を行ってきました。どういった成果があったのでしょうか。


この一年、日本ではいい面、悪い面含めて豊かな経験をさせていただきました。海外の会社がいきなり日本市場に飛び込んで右も左も分からないままやっていたわけですから。アニメーション制作の運用を中国と同じ感覚でやろうとしましたがなかなかうまくいきませんでした。それでも私たちのオリジナル作品やテンセント(中国の大手インターネット企業)を代表する作品もある程度のクオリティを保ちつつ放送できました。利益だけではなく損失もありました。ここには私たちだけの問題ではなく、日本のアニメ業界にもいくつかの問題点があるように思えます。新しく市場に入る人間が避けて通ることはできないものでした。今後はこれらの経験を活かして成長していきたいと思います。

――問題点とはどういったものでしょうか。


コミュニケーションはまず大きな問題です。それから習慣・文化の壁を感じました。そして、法律です。日本に来て驚いたのですが、請け負いの契約をする際、契約書を交わさないんですよね。私たちにとっては紙が一枚あるかないかだけで身を守る手段の有無に関わると考えています。日本は口約束だったり、契約書があっても内容がアバウトだったりして、後々問題に発展しかねないなと思いました。

もうひとつ大きかったのは投資です。中国では会社で仕事をしてくれる人には十分な福利厚生と十分な給料を用意するんです。日本で会社を運営するノウハウがほとんどありませんでしたから、いい環境で働いてもらおうとかなり人件費に投資をしました。後から日本のアニメーターさんは一つの会社に正社員として働くことがほとんどないと知りまして、そうだったのかと。この一年はいろんな問題にぶつかりました。

――いい関係を築けるような相手には出会えましたか?


テレビアニメ『霊剣山』を担当しているスタジオディーンさんや、大きな会社ではないながらも『チーティングクラフト』(※)を制作したBLADEさんなどは非常にポジティブな関係を築けましたし、信頼しています。また『TO BE HERO』(※)で日本語監修をしてくださったワタナベシンイチさんも常にコミュニケーションを交わしていろいろなアイデアを出してくださいました。

※『チーティングクラフト』『TO BE HERO』の2作品はHAOLINERSブランドのアニメーション作品。2016年10月~12月まで1話あたり10分程度の作品として、同一時間帯で放送された※『TO BE HERO』(監督・李豪凌)は中国で制作され、日本語監修を『エクセル~サーガ』などで知られるワタナベシンイチが担当した

■インターネット企業・テンセントの資本力

――日本と中国でアニメーション制作のスピード感の違いは実感していますか?


中国も資本市場なのでスピードを要求されます。中国では投資したお金が少しでも早く形になってお金に還元されてほしい、という投資家の考えがあるわけです。一方で、私たち監督やアニメーターからするといい作品が作りたいのでじっくり時間をかけたい。我々は極力スピードを上げて制作すると同時に、長期的な投資が必要だと気づいてもらう努力をしました。2013年のショートアニメからはじまって3年。徐々に投資家の方でも短期の投資と、長期的な投資の両方が必要なんだと理解が広まっていって、今では長期的な投資にもちゃんと目を向けてもらえるようになりました。

――長期的な投資ではリターンも遅くなると思いますが、中国の投資家たちは何で回収しているのでしょうか。


大きいのはモバイルゲームです。あとはアニメ映画。そのどちらも同時に企画を進めたりもしています。モバイルゲームは中国で本当に巨大な市場となっています。テンセントはそこで回収します。

――絵梦は現在、テンセントが所有するIPを用いた作品を次々に発表しています。テンセントと組む利点はどのようなところにあるのでしょうか。


一番の強みはユーザー数です。テンセントは「WeChat(微信)」や「QQ」といったコミュニケーションアプリの開発元で、ユーザー数は中国一を誇ります。例えば「WeChat(微信)」のユーザーは中国に6億人います。

――おお、凄まじい数ですね。


一度に6億人に知ってもらい遊んでもらえる。すごい数ですよね。それは強みです。テンセントが運営している漫画サイトもそれだけのユーザーに訴えることができるわけですから、漫画家も集まってくるんです。
もうひとつの利点は長期的な商品開発を行っている会社である、というところです。テンセントは「QQ」をリリースしてからじっくり育て上げ、成功させた後、「WeChat(微信)」をリリースするなど堅実なんです。それはアニメや漫画に対しても同様で、長期的な投資をする思想や、巨大資本という基礎体力があるため、じっくり待ってくれる、というところですね。

■各スタジオとの連携を強化し”共同体”へ

――現在、日本で放送されている絵梦作品には、上海絵梦が制作したもの、東京絵梦が制作したもの、日本の別スタジオで制作したものとありますが、今後はどうなっていくのでしょうか。


今後は、国を超えて全ての関連スタジオを共同体として連携しながら作品作りをしていきたいと思っています。まだリンクを構築できていませんが、例えばアクションパートは中国のアクションがうまいアニメーターに描いてもらって、別のパートは韓国のチームに描いてもらう、といった形でやっていきたいと考えています。

――2017年は、絵梦をどのように成長させていきたいとお考えでしょうか。


日本でテレビシリーズの放送は継続してやっていきたいと思っています。特に企画から十分に準備を進めて。これまでを振り返った反省として、焦りすぎて制作スピードを上げすぎたことがあるんです。プロジェクトができあがってから声優さんを探し始めたりということを今までは行っていましたが、今後は企画段階でキャスト・スタッフふくめてそろえる。宣伝などもより効果的な方法を考え、長くいいものができるよう、スケジュール管理をしていく予定です。

また、ゆくゆくは社内の体制を整えて、日本にたくさんいらっしゃる優れたアニメーターさんと手を取り合って一緒にやって行けたらと思います。当初は京都アニメーションさんのように、チームで団結して作品を作る、ということをイメージしていました。まだまだ課題は多いですが、手厚い福利厚生としっかりした給料を用意してみなさんには協力していただきたいという気持ちは今後も変わらず持って行きたいと思います。

不慣れなところもありますが、日本のアニメ業界に受け入れて下さるよう、努力していきますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします。

■ドキュメンタリー動画
「中国アニメスタジオ エモンの物語 ~さらに一歩先へ~」