ヒラリーの最大スポンサー ハイム・サバンの軌跡 最終回 パワーレンジャーが日本で注目されない理由

豊永真美
[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]

[パワーレンジャーとハイム・サバンが日本で注目されない理由]

Photo by Bob Riha, Jr./Saban Brands via Getty Images
Photo by Bob Riha, Jr./Saban Brands via Getty Images

最後に、ハイム・サバンが世界でそれなりに注目されているのに、なぜ日本であまり注目なかったのか考えてみたい。

■ メディアも扱いに苦慮

2016年の米国大統領の予備選の報道にあたり、毎日新聞の発信箱(2016年1月12日)「大富豪の代理戦争」でサバンを「エンターテインメント系の実業家」と報じている。字数制限がある記事の中で趣旨が別のところにあるため、説明を省いたのかも知れないが日本人が理解しやすい「スーパー戦隊」の言葉を使っていない。
一方、パワーレンジャーについても報じた一般紙はある。過去には産経新聞で「米で人気の「パワーレンジャー」 海外で“進化”した戦隊シリーズ」(2012年12月30日)として、パワーレンジャーを紹介している。
最近では朝日新聞が2016年5月11日に「(リレーおぴにおん)テレビの時間:25 特撮作品、世界を視野に」というタイトルで、1993年以降パワーレンジャーに関わっている坂本浩一のインタビューを掲載している。その中で「日本国内であまり認識されていないのが残念なのですが、日本発で世界で最も成功したコンテンツの一つだと思います。」と語っているが、2016年5月という大統領予備選の真っただ中なのにも関わらず、この記事の中でサバンとクリントンの関係には触れられていない。
おそらく日本ではサバンの政治活動とパワーレンジャーの関係があまりにも突拍子過ぎ、その双方に焦点を合わせた記事が書きにくいのであろう。また、政治記者が「パワーレンジャー」というものをあまり理解していないのかもしれない。

とはいえ、東映もバンダイナムコもパワーレンジャーの人気を隠していたわけではない。バンダイナムコはバンダイ時代のIRから自社の海外市場動向として必ずパワーレンジャー(スーパー戦隊)の売上が述べられているし、東映の戦隊ものの生みの親である吉川進が日本経済新聞(2010年8月25日)「特撮戦隊 私が生みの親」で「パワーレンジャーは桁違いの利益を東映にもたらした」と語っている。
スーパー戦隊を放送していたテレビ朝日に至ってはパワーレンジャーを日本の地上波で放送していたことさえあるのだ。
その視聴者の中にはパワーレンジャーのあまりの改変ぶりに怒る者もいた。例えば、岡田斗司夫は1996年の「オタク学入門」(太田出版)で「サバーン社は、タイトルクレジットに日本人クリエーターの名前を1つも入れなかった。」と抗議している。

つまり、パワーレンジャーが米国で人気ということは、日本では隠匿されていたわけではないが、大きな注目を浴びることはなく、結果、殆どの人が知らないということだったといえるだろう。この背景には、日本のスーパー戦隊ファンからの反発を恐れたということもあるかもしれない。東映やバンダイのIR資料にはちゃんとパワーレンジャーのことが言及されており、隠匿されたわけではないが、積極的にスーパー戦隊ファンにアピールすることではないと判断されたのだろう。

■ クールジャパン政策でも無視?

もしパワーレンジャーの成功が認識されるきっかけがあるとしたら、第一のきっかけはクールジャパン政策が始まったときだろう。経済産業省にコンテンツを担当する専門の課、文化関連情報産業課(メディアコンテンツ課)が設置されたのは2001年1月で、2001年3月には「メディア・コンテンツ産業活性化研究会報告書」が発表された。その報告書には海外展開の例としてポケモンが掲載され、パワーレンジャーについては触れられていない。
2004年4月に発表された「コンテンツ産業の国際展開と波及効果」では、ポケモンに加えいくつかのタイトルの国際展開の事例が挙げられており、パワーレンジャーについても小さい文字で一言言及されている。ただし、パワーレンジャーのリメイクの経緯などについては書かれていない。同じ資料に映画「リング」のリメイクについては書かれているが、おそらくは「リング」よりはるかに経済的成功をおさめた「パワーレンジャー」には詳しい言及がないのだ。
2001年の時点では、経済産業省もパワーレンジャーを知らなかったと考えられるが、2004年時点ではパワーレンジャーの存在は認識されている。その上で、あえてパワーレンジャーの成功を追求しなかった。役所側がパワーレンジャーを過小評価していたのかもしれない
もっともこれは、日本企業に配慮したことかもしれない。東映、バンダイはパワーレンジャーにより経済的な恩恵はうけたが、俳優や音楽も差し替えられているので、日本で恩恵が及ぶ範囲が少ない。このようなことがあまり大々的に喧伝しない理由の一つだったかもしれない。

■ サバンの政治的な動きには関心なし?

筆者は2004年にアニメプロデューサーとして長くサバンと働いていたブルノ・ビアンキ(2011年死去)と話したことがある。そのときビアンキは「なぜ日本のアニメがもっと人気があった70年代から90年代にかけて、日本の政府関係者はインタビューにこないのだろう」が不思議がっていた。確かにフランスで日本のアニメが全盛となったのは80年代からクラブ・ドロテが終了する1996年までである。だが、日本アニメの人気は日本の行政関係者の目を引くことはなかったようだ。サバンも「日本の政府関係者にコンタクトされない自分」を感じていただろう。
それでも、フランスでの日本アニメの人気は1990年には別冊宝島で「変なニッポン」として特集され、1998年には清谷信一が「Le OTAKU フランスおたく事情」(KKベストセラーズ)を上梓するなど、それなりに認識されていた。
 
ところがパワーレンジャーの人気は日本では無視されている。スーパー戦隊が若手俳優の登竜門の一つとなってからはことさらに、「日本の俳優が出てこない」パワーレンジャーは「なかったもの」にしたいかのようだ。

■ サバンを知ることは大事

クリントン夫妻が関わっているクリントン財団では、ビル・ゲイツ夫妻やハイム・サバン夫妻に加えて、ノルウェー、豪州などの外国政府からも寄附を受けている。このような夫妻のやり方は、一部からの非難と懸念を受けていることも事実だ。
日本政府が、ヒラリーと関係を構築するのに、サバンを使うことは必須ではない。むしろ、寄付者を通じて関係を構築することはあらぬ疑いをもたらすことにもなるだろう。
だからといって、サバンとクリントン夫妻との関係を知らないでいることはないだろう。きちんとその関係を知ることはとても重要なことだ。

さらに日本にとって重要なことは、サバンがどうやって日本のコンテンツで儲けたかということだ。サバンの財産は日本のコンテンツを元手に各国の放送局の売買を通じて構築したもので、日本のコンテンツそのものが巨大な富となったわけではない。それでも、コンテンツの権利関係を明確にし、取扱いやすい形にすることは重要だろう。さらに、日本政府がすることは、各国政府と良好な関係を築いて、日本のコンテンツの理解を深めてもらうことも必要であることがわかる。
「ミラキュラス」のように複数の国が共同制作をし、各国に「取り分」を与えることも重要なようだ。その過程で、日本の製作者にとって不本意な形で改変されるかもしれない。
パワーレンジャーの世界的な成功は東映やバンダイが、改変を受け入れたことでもたらされたものだ。コンテンツの成功を金銭的なもので図るのであれば、東映とバンダイの姿勢は賞賛されるべきものだ。
今まではおそらくは日本のファンからの不満の声もあり、パワーレンジャーの成功を声高にいうことはできなかったかもしれない。しかし、サバンの軌跡を見ていくと、時には、改変しても金銭的成功を得ることは重要かもしれない。大事なのは金銭的なことが重要か否かをきちんと判断していくことだ。

もしクリントン大統領が誕生したら、そのときは最大の支援者であるサバンのことをさらに理解する必要が出てくるだろう。おりしも2017年3月には劇場版パワーレンジャーが公開予定である。製作はハイム・サバン。クリントンが大統領となったらなら、プレミア上映に出席する可能性も高い。その時、日本の関係者は何か感じるのだろうか。