北米マンガ事情第6回TOKYOPOPの北米manga事業撤退

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情-
第6回「manga出版社TOKYOPOPの北米manga事業からの撤退」

椎名 ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員として勤務中。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

 

先月の4月15日、アメリカのmanga出版社TOKYOPOPが、5月31日付けで北米でのmanga出版事業から撤退することを発表した。TOKYOPOPは21世紀に入ってからの北米manga人気を語る上で欠かせない存在であり、次々と新しいプロジェクトを発表し業界やファンに多くの話題を提供してきた出版社でもある。今回のコラムではTOKYOPOPのmanga出版事業からの撤退を簡単にまとめてみたいと思う。

まず強調しておきたいのは、4月に発表されたTOKYOPOPの北米におけるmanga事業撤退が「TOKYOPOPの倒産、またはすべての事業からの完全撤退ではない」点だ。TOKYOPOPの発表によると、ロスアンジェルスにあるオフィスを閉鎖し北米でのmanga出版は止めるものの、ドイツのTOKYOPOPは出版、ライセンス事業を続けるという1

そしてTOKYOPOPが今後、北米でmanga関連の事業をまったくしないのかと言えば、それはわからない。TOKYOPOPのメディア部門とされるTOKYOPOP Media LLCはそのまま残る(と思われる)ため、TOKYOPOP Media LLCが、TOKYOPOPオリジナルの(もしくはライセンスされた)manga作品に関して、版権など(デジタルメディアを含む)何らかのビジネスを続けていく可能性はある。

しかし、現在刊行中の作品の今後、例えば完結していない作品の続刊はどうなるか等については、事業撤退発表時に「今後数週間以内に発表する」とされていたが、この原稿を書いている5月19日現在何も公表されていないままだ。

<TOKYOPOPのmanga事業撤退の背景>

2006年 ロサンゼルス アニメエキスポでのTOKYOPOPの出展ブース

TOKYOPOPは北米のmanga市場において、2002年~2004年をピークとして大きな存在感を示してきた。そのTOKYOPOPがmanga事業から撤退する理由について、外部からはただ推測するしかないが、やはり大きな原因として、業界2位の書店Bordersによる会社更生法申請を挙げることができるだろう。

北米のmanga市場は、そして北米でのmangaブームは2002年以降Bordersと共にあった。かつてアメリカでコミックスは、コミックス専門店で売られる比重が高く、一般書店での流通量は少なかった。コミックスやmangaの販売において、一般書店という販路を新たに開拓したのはTOKYOPOPではないが、mangaに力を入れてくれるBordersというパートナーを開拓したのはTOKYOPOPだった。

Amazonの売上がこれだけ取り沙汰され始めても、TOKYOPOPの編集者がHP内で「オンライン書店での売上は、全体のほんの一部に過ぎない」2との趣旨のコメント出すなど、ネット上でない“リアル”の書店の売上はTOKYOPOPにとって重要だった。恐らく他のmanga出版社にとっても同様だろう。
しかも特にBordersはmangaを棚に揃えることに対して積極的だった。その割合は下がっていたとは言え、今年の1月でもBordersを通して売られるmanga売上は業界全体の20%以上に達していたと言われるほど3、manga市場で欠かせない書店だったのである。

2006年にアニメDVDを多く扱っていたビデオ販売チェーン店Suncoastの親会社Musiclandが倒産した際、日本産アニメの業界全体が大きく落ち込んだことがあったが、その時もアニメ業界全体の売上の20%がSuncoastを通して売られていた4。その後、業界の老舗Central Park Mediaがそのあおりを受けて大規模リストラを行っている。

そして、今度はBordersが今年の2月に会社更生法を申請し200にも及ぶ店舗を閉鎖すると発表したことで、TOKYOPOPの経済状態が一気に悪化したのは想像に難くない。Bordersでの取り扱い量が多く、月々の出版点数も多いTOKYOPOPにとって、Bordersの事実上の倒産は返本の山とその支払いのみならず、返本の保管という点でも大きな負担を意味していた。結局、その数週間後TOKYOPOPも、多くの社員を解雇しリストラを行っている。

つまりニッチな市場と言えど、北米manga市場で大きな存在感を示していたTOKYOPOPがmanga出版を止めたこと自体は、Bordersの会社更生法申請の後では、それほど驚きではなかったとも言える5。しかも、もっと言うとBordersの営業不振がこれほど表面化する以前から、TOKYOPOPの経営難は既に2008年ごろから話題になっていた。

1 “TOKYOPOP Closing” April 15, 2011 http://www.icv2.com/articles/news/19869.html
2 現在ではTOKYOPOPのHP自体がなくなってしまったので、以下のサイトの要約を参照した。
 ”Tokyopop’s Senior Editor On Why Series Go On Hiatus” February 26, 2011
 http://www.siliconera.com/2011/02/26/tokyopops-senior-editor-on-why-series-go-on-hiatus/
3 ICv2 “Borders Woes a Blow to Manga” January 12, 2011 http://www.icv2.com/articles/news/19149.html
4 “Musicland Blowback, Part 2 Impacts in Every Category” ICv2 January 13, 2006 http://www.icv2.com/articles/news/8062.html
5 例えば、こちらのブログ(“Tokyopop: A Lament?” Manga Zanadu, March 6, 2011 http://manga.jadedragononline.com/blog/2011/03/06/tokyopop-a-lament/ )
では、TOKYOPOPがmanga出版を止めると発表する1ヶ月以上前に「TOKYOPOPは(DCコミックスのmangaレーベルで、昨年事業を停止した)CMXの道を辿っている。」と書いている。

2ページに続く TOKYOPOPのmanga事業撤退の背景(2)