STEVE N’ STEVENはアニメ業界に何をもたらすのか 後編

「共感市場」とコミュニケーション

アニメとコミュニケーション、現在のアニメ業界は、映像そのものよりもその周辺が急拡大している。神山監督自身も『東のエデン』では、そうしたアプローチをとって来た様に見える。
しかし、監督によれば、そうした動きは、作品の映像の力をより強くする手段ともなるようだ。映像と映像の外の関係についても伺った。

■ 周辺を拡大することで、映像はまた主役になるはずだ

AA
コミュニケーションと聞いた時に、『東のエデン』で起きた一種のムーブメント的なものを想像しました。個人的には、現在アニメは映像自体からお金を取るのが難しくなり、コミュニケーションからもお金を取るしかないと思っていいます。コミュニケーションを壮大につくり上げて、プロジェクトに反映されていくというのはありますか?

神山 
『東のエデン』の時に、若干そのモデルケースが入っていたと僕は思っています。一番象徴的だったのはノブレス携帯で、NECさんの次期開発モデルとしていくつか挙がっていた携帯を作品に登場させました。けれども残念ながらNECさんからあの携帯電話が発売されることはなかった。
ただ今後も同じようにコンセプトモデルの携帯電話を使うことがあれば、そこに新しいビジネスが発生する可能性があるわけじゃないですか。逆にこちらからデザインを提供してもいい、そういう広がりができる道筋が偶然出来た。
もうひとつはこれまでアニメファンが比較的縁遠かった、ファッションです。『東のエデン』の主人公 滝沢朗が着るのと同じ洋服を販売したんです。
3万円のジャケットがトータル800着売れました。(販売をした)パルコさんの中で、単体でそれだけ売れたものはこれまでなかったそうです。その結果、滝沢朗三種の神器といって、ブーツとジーンズと、あと後半のパートで彼が着ていた別のジャケットも追加で発売しました。アニメとしては珍しい、別業態にうまく作品が流れ、映像以外で話題をつくることでビジネスの広がりを持たせることが出来ました。

AA
それは、作品にもフィードバックするものですか?

神山
僕は監督だから映像そのものが主役である時代をいつも取り戻そうと思っています。これもOVAの時に一瞬あったんだけど、敗れ去りました。デジタル化された時には個人作家が作品を作れる可能性が広がって、そこに挑んだけど無理でした。そうしたなかでパッケージがだんだん売れなくなって来ました。
そうした時に、それでもやっぱり映像が主人公であってほしいとの思いから、作品を語る幅を持たせれば、映像がまた主役になるはずだという発想を持ちました。
映像の外のことを一生懸命やっていると、一見は映像そのものが主役じゃないビジネスに手を広げているように見えるかもしれない。けれど、「あの携帯欲しいよね」という会話で、結局『東のエデン』を語ってくれているわけです。
作品を語るには何かきっかけがいるんです。そこで作品のこと以外でも語れるようにした方がいいじゃないかと、いろいろ仕掛けをした。これもタイアップではないけど、僕が好きなオートバイを出すとか、(キャラクター原案の)羽海野チカさんが好きな洋服を出すとか意図的にすることで、それに気付いた人が、「あれってどこどこのメーカーのだよね」と、作品以外のことを語りながら、でもそれは作品を中心に語ってくれている。

AA
作品が中心核になってどんどん広がっていくということですよね。

神山 
そうですね。例えば僕の作品じゃないけど、『けいおん!』は、もっと上手くそれを成功させているんじゃないかな。主人公の持っている楽器を買いたいとか、使ったペンを買いたいというのは、スタッフが感覚でそれをやっているところがすごいんですね。
でも、僕がいまこういうことを始めれば、じゃあ、その取り回しは古田さんにやってもらおうとか、石井プロデューサーや、他のプロデューサー陣にやってもらおうと、そういうかたちで出来るんじゃないかと考えています。

■ 「すべての顧客を観客に」

AA
今回の『Xi AVANT』では、映画を宣伝する中で、Twitterやサイトを利用してどんどん増幅していくところがあったと思います。そうしたことも今回の会社に含まれますか。

古田 
お客さんはいま「顧客」と「観客」という二面性を全員が持っています。何かを楽しむ観客でもあり、同時に物を買い、サービスを享受する顧客です。
この二面性に対していままでアニメーション業界は観客へのアプローチに偏っていたし、広告業界は顧客というアプローチに偏っていました。でも、人は顧客と観客で切り離せるものではないはずです。
だとしたら、まず観客として好きになってもらい、その後に顧客として今度はそれを買ってもらう、商品を使ってもらう。一気通貫したかたちでコミュニケーションを設計しないといけません。
その観客をつくるビジネスは、アニメーション業界、そして神山さんが行っているものです。ファンとは観客の一番進んだ姿じゃないですか。一番強い観客の姿です。神山監督と石井さんと組むことで、まず観客を作ります。

AA
リリースにはもうひとつ「共感市場」というキーワードもありました。これに関係するものでしょうか?

古田 
僕らのスローガンとして、「すべての顧客を観客に」というのがあります。普通は逆なんです。顧客にはお金を払ってもらわなければいけないのに、わざわざ観客にしてどうするんだという感じです。一方で、これは僕の持論でもありますが、基本は三角ビジネスが一番いいんですね。三角ビジネスとはどういうことかというと、テレビCMであればクライアントがいて、ユーザーがいて、消費者がいます。つまりユーザーはテレビ番組を観るのにお金を払ってないけれども、企業がテレビCMとしてそこを払います。

古田 
この三角ビジネスが、みんなが一番気持ちよくお金を払いながら回るんですね。なぜかというと、直接これを買ってよと言われたら、すごく対価を気にします。けれども三角ビジネスだとそこが互いにずれていくのであまり厳しくならないんです。
この三角ビジネスがいまネットのソーシャルで起きています。例えばFacebookの「いいね!」というコマンドです。つまり、自分は買わないけど、人に「いいね!」と勧めるルートができたんです。企業や商品の「いいね!」情報が回れば、こちらにコミュニケーションを取ったにもかかわらず、別のユーザーが買うという現象が起きるわけです。

AA
観客が広がると同時に、ユーザーがどんどん広がっていくと。

古田 
そうです。顧客と観客というとらえ方が今後、ソーシャルネットワークの発達のおかげで必ず必要になってきます。それを「共感市場」と名付けました。

AA
最後にお聞きしようと思っていたことですが、これがそのままSTEVE N’ STEVENのメッセージですね。

古田
「すべての顧客を観客に」、今の立ち上がり時の会社のスローガンですね。

AA
いい言葉ですね。今後の新しいビジネスの創造を期待しております。
本日は大変お忙しい中、ありがとうございました。