文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情- 第3回「2010年 北米マンガ業界10大ニュース」

9. 非日本産オリジナルmanga出版が一部を除いてほぼ消滅

2010年は、非日本産のオリジナルmanga、通称「OELmanga」が絶滅した、と言われる年となった。

21世紀以降のmanga人気を受けて、かつては数社を除いてほぼすべてのmanga出版社が日本産作品のライセンスを購入するだけでなく、自社オリジナル作品の出版に取り組んでいた。前回のコラムでも触れたが、非日本産のmangaは「OEL manga (Original English Language manga)」とも呼ばれ、日本産mangaに影響を受けた多くの若手manga家は出版の機会を与えられてきた。

しかし現在ではオリジナルの作品を出すmanga出版社は一部を除いてほとんど無い。非日本産のオリジナル作品をかつて積極的に出版してきたTokyopopもハーパーコリンズ社との提携で、同社の小説のmanga化作品は出すものの、オリジナルを出すことはほとんどなくなっている。

この傾向はここ数年のもので、特に昨年に限ったことではない。しかし2010年、最も人気がある北米出身manga家のひとりスヴェトラナ・シマコヴァの次回作がオリジナルではなく、人気小説のmanga化と発表されたのは、ファンを落胆させただけでなく、出版社が北米産オリジナル作品の出版を避けている現在の状況を端的に表していると見ることが可能だ。

出版社が過去オリジナル作品を積極的に出そうとした背景には、ライセンスした作品と違って、オリジナル作品は(作者との契約によっては)そのプロパティーを出版社が管理できるというメリットもあったと思われるが、ライセンスを買うよりも製作にコストがかかり、なおかつヒット作品がうまれにくい現状では、オリジナル作品の出版は既に名前が知られた作品をmanga化することに比べるとリスクが高く、費用の回収が見込めないということだろう。

10. 大手スキャンレーション・サイト運営停止&拡散

2位として取り上げた「スキャンレーション対策で日米マンガ出版社共同声明発表」の後、実際にスキャンレーション・サイト最大手One Mangaがその運営を7月末で停止したことは大きなニュースだった。

最盛時には月間11億ものヒット数を記録し、Googleによるアクセス上位1000位内にランキングした同サイト(12)は、多くのグループが作成したスキャンレーションをまとめて提供する「アグリゲーター・サイト」とも呼ばれるものである。

その後、One Mangaに次いで大手と言われたManga Foxが一部の作品の削除を発表し、その他の大手サイト、例えばManga Helpers、Manga Traders、Manga Toshokanなども運営の全面的な停止、もしくは大規模縮小を表明した。

しかし発表とは裏腹にManga Foxは7月に削除したコンテンツを10月に復活させ、新作の掲載も次々と進めている。Alexia(ネットのリサーチサイト)によると、Manga Fox はOne Mangaが活動を停止した昨年の7月頃から急激にアクセス数を伸ばし、One Mangaが存在していた頃には全世界のアクセス数で2000位ほどだった順位も、現在では1200位ほどに上がっている。

One Mangaに代表されるアグリゲーター・サイトでは月間のアクセス数が数百万を超えるところも珍しくなく、サイトの広告で収入を得る以外に、読者に寄付を募ったり、会費を要求するところもあった。大手アグリゲーター・サイトのマンガを読むための、スマートフォンの有料アプリすらも販売されている。子どもを含む一般の読者がサイトを見ただけでは「違法だ」と認識できなくても、仕方がないと思われるものも多い。

One Mangaはその運営を停止しているが、その運営者はサイト名を変えて新たなアグリゲーター・サイト運営を始めているとも言われているし、実際にスキャンレーションは今でもネット上に無数に存在していて、その総数が日米出版社の対スキャンレーション共同声明後どのくらい変化したのかは、知る術は無い。

しかし共同声明が無駄だったわけでは決してない。例えばスキャンレーションの法的違法性について、その認識の薄い読者に理解を促すだけでも意味がある。スキャンレーションを一掃することは無理だとしても、今のようにマンガの作品名で検索すると、合法サイトよりもアグリゲーター・サイトに先に誘導されるような状態は個人的には到底望ましいとは思えず、様々なレベルで協力体制や対策が取られることを期待したい。

次点 大手書店チェーンBordersの経済的苦境

mangaを多く扱う北米第2位の書店チェーンBordersの経済的苦境を伝えるニュースから年末から続けて入ってきて、manga業界を心配させている。Bordersは過去10年に渡って出版社と協力しながら書店でのmangaの棚作りに力を入れてきており、Borders傘下のWaldenbooksと共に21世紀に入ってからの北米でのマンガ人気に多大な貢献をしてきた。manga出版社によっては、出す本の40%がBordersを通して売られているとの話もあり(13)、Bordersがもし倒産したら、北米のmanga業界に与える衝撃は計り知れない。

以上、2010年北米manga業界の10大ニュースをおさらいしてみた。暗い話題の多い10大ニュースとなったが、現在のmanga業界の状況をある程度見通せる内容になったはずである。最後まで長い記事におつきあいくださった読者の皆さま、ありがとうございました。今年もよろしくお願い致します。

12 アニメ!アニメ!「海外違法マンガ配信最大手 違法コンテンツ削除へ」2010年7月24日
http://www.animeanime.biz/all/2010072501/

13 ICv2 “Borders Woes a Blow to Manga” January 12, 2011
http://www.icv2.com/articles/news/19149.html