「中国アニメ講演旅行で感じたこと」 氷川竜介

■ 風景が喚起するアニメ的な感興

 さて、講演中でもっとも会場からのリアクションを感じた図版は、加工前の銀座の風景であった。観衆がそれまでアニメ作品中の未来社会だと思いこんでいたものが、現実に存在しているものだと示されたときに、やはり驚きの感覚が生じたのであろう。これは狙いどおりであった。「実は実写よりアニメ作品の方が、作家の目を通した日本の風景を文化として深い観点で伝えられるのではないか」ということが、「背景にまつわる話」を主体にした理由だったからだ。
 それをふまえて、「吉浦康裕監督が今回初めて訪れた『中国の風景』に非常に深い関心を示している、そして企画中の次回作のインスピレーションを確実に受けた」という話をすると、非常に大きな反応が感じられた。
 特に吉浦監督が不在の広州と香港では、実際に監督の撮影した写真を投影し、「作家の目で見た中国の風景」とはどういうものになるのか、「論より証拠」で示すようにしてみた。「日本のアニメには、作家の価値観がこのように反映している」ということを、ほぼリアルタイムで実証したわけだ。しかも被写体は聴衆にとっては見慣れた「中国の風景」なのだから、それを異化して見せることもまた「文化交流」のひとつのかたちであるに違いない。現地で考えついたアイデアではあったが、大きな功を奏したと思う。
 講演中に受けた質疑には、「中国のアニメーションを良くしていきたい」「何をすればいいのか」「日本とのコラボレーションの可能性は?」という類のものが多かった。もちろん真摯に思うところを回答したが、その本格的な回答は今後、日中の間で発展的に深められるであろう価値観の交流を軸にして得られるものであろう。そうした文化交流の一助になれたのであれば、幸いである。
 今回の機会をいただき、講演実現に尽力された国際交流基金のスタッフと、現地の日本国領事館の方々、そして吉浦康裕監督に深く感謝します。

写真いずれも[撮影:氷川竜介]

※吉浦康裕監督のブログ スタジオリッカ Diary 2010年12月7日分
http://www.studio-rikka.com/diarypro/diary.cgi?date=20101207にもレポート掲載



中国アニメ講演の日程
(写真はクリックで拡大します。)

《上海》11/27着、11/29発

●上海の印象は「未来都市」。林立するビル郡に圧倒された。密度の粗密感と高低差が風景に感じられる。万国博覧会の直後だったため、その名残が多く見られる。

中国へは初の渡航で、現地へは深夜着。翌朝最初にテレビのスイッチを入れたら、日本製で中国にも関係の深いアニメ『ドラゴンボールZ』が流れてきて驚いた。

上海環球金融中心(地上492メートル)から見下ろしたところにビッシリと建ち並ぶ工業団地を発見。吉浦監督が激しく反応する。

団地のレベルに立ってみると、そこは生活感あふれる空間。筆者は昭和30年代、40年代に暮らした社宅を思い出した。日本の高度経済成長期とバブル経済期が合わせて来ているかのような印象を受ける。

観光地にズラリと並んだいかにも怪しげな土産物。

上海空港で見つけた清掃用の重機。まるで『機動警察パトレイバー』の世界なので、さっそくTwitterに写真を流したら、やたらとウケた。

《重慶》11/29着、12/1発

●重慶の印象は「建築ラッシュ」。日照時間が極めて短い霧の都だが、空港からホテルまで全箇所が建築工事中でトラックがひしめいていた。

街中でよく見る風景。ガレキ・アパート・高層ビルによる3レイヤーが、そのまま「過去・現在・未来」み見えるという話は後の講演にも取りこんだ。

ニューヨークを模したという高層ビル。夜になるとLEDを中心にした電飾の光が輝きながら動く。空気が煙っているので、フィルタを何もかけなくてもアニメの撮影効果みたいな写真が撮れる。

川に沿った崖を利用して作られた商業施設。独特のライトアップがされているため、まさに異世界だ。しかし実は右上のヤグラにスターバックスの緑のロゴが見える。

昔の重慶は民家が積層したような光景だったそうで、その記念碑が建っていた。「“千と千尋の動く城”みたいですねー」と、つい言ってしまった。

重慶大学での講演。アニメーション専攻、日本語専攻、芸術専攻の学生が対象。授業に使われている3DCG室なども見学した。

講演後、吉浦監督はサイン攻めになっていた。

《広州》12/1着、12/3発

●白く煙った水墨画のような重慶から来たため、空港から降りたとたんに「色が多い」と驚く。アジア大会直後のため、花などもきれいに飾ってある。南下したため温かく、防寒具が不要に。

広州で売られていた雑誌。萌えキャラの絵柄は日本風を熟知している。アニメ雑誌の表紙は早くも『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2010年10月放送開始)でビックリ。

「萌画集」という題名がスタンドで目をひく。A4判ハードカバーの体裁に、コスプレ動画データのディスクまでついて36元。

広州の曁南大学のキャンパスを歩く学生たち。女子にメガネが目立つ。講演はアニメーション専攻の学生を対象に芸術学院ホールで行った。

宿泊したホリディ・インのホールで行い、予定の200名を大きく上回る350名が来場したため、追加で椅子を出すことに。

講演を行う筆者。

《香港》12/3着、12/5発

●香港は大陸と異なる雰囲気で、簡体字ではないため漢字も読める。四都市中もっとも高密度で、雑多で猥雑な印象もあった。

日本玩具の輸入店。早くも超合金魂の「宇宙戦艦ヤマト」が入荷していた。日本で買い漏らしたものをうっかり購入しそうになったが思いとどまった。

小さい店舗がひしめく、秋葉原に似た雰囲気のビルがいくつか。レンタルケースの展示も存在した。

露天商はクリスマス一色だったが、子ども向けのシャツを見ると各国混合のキャラ。羊のキャラは中国で大ヒット中の「喜羊羊(シーヤンヤン)」。

香港の会場は、香港大学の港大保良社区書院レクチャールーム。主に日本語学科の生徒が中心だった。

椅子も用意されていたが、客席と遠い感じがしたので後半は立って講演を。 

香港のみ少し時間があったので、カメラを抱えて散策を。某アニメで見たようなカンバン風景。

ちょっと路地に入っただけで、ポスターをズラリと貼った光景が実在しているので笑った。犬ではなくて猫だが……。

ダメ押しのように街のあちこちで「押」の字のカンバンを発見。「質屋」という意味だそうです。

香港の全景。ケーブルカーで山頂に登って撮影。

香港のアニメ雑誌。普通にコンビニ(セブンイレブン)で買える。表紙は「蒼穹のファフナー」で「桃井晴子」の文字も。西崎義展氏の追悼記事が、日本のどんなアニメ雑誌よりも早く載っていて驚いた。