藤津亮太のテレビとアニメの時代
第21回 ’96年から’00年まで 深夜放送以外の変遷
藤津亮太
1968年生まれ。アニメ評論家。
編集者などを経て、2000年よりフリーに。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)。編著に『ガンダムの現場から』(キネマ旬報社)など。アニメ雑誌、そのほか各種媒体で執筆中。
ブログ:藤津亮太の 「只今徐行運転中」 http://blog.livedoor.jp/personap21/
まず前回の訂正から。
前回『BLUESEED』の座組について、下のように記述した。
プロデューサーとしてクレジットされているのはテレビ東京の岩田圭介とASATSU-DKの杉山豊。NASはASATSU-DKの子会社なので、企画としてクレジットされているBSProjectの中に、NASが加わっているのではないか。
これはALLCINEMAとWikipedeiaの記述をクロスチェックしてNASの参加という内容を記したのだが、この部分についてビデオパッケージのほうのクレジットではNASは入っていないという指摘をいただいた。だから一旦、NASの参加という部分は省き、
企画に「BSProject」という名前があり、タイラープロジェクトと同様にキングレコードを中心とした組織であることが想像できる。
とする。
この変更でも、この時期のいくつかの作品を通じて「製作委員会方式」が本格的に始まっていくという原稿の流れに変わりはない。
さて、今回は’96年から’00年までの、深夜放送以外のアニメの変遷を見たいと思う。
この時期の特徴は次の通り。
■下記表はクリックで拡大します。
[1996年-2000年 テレビアニメ番組放送一覧]
1)夕方の再放送枠がついに消滅する。
’80年代後半に一旦は減ってドラマとバラエティの再放送に替わっていた夕方の再放送枠だが、’90年代に入ってまた少し数を戻した。そして’90年代後半に入った段階ではまだ1日につき最大3枠はあった夕方の再放送枠だが、日テレに一つ、フジテレビに一つに落ち着き、2000年秋には、テレビ東京の「ポケモンアンコール」枠を除いてなくなってしまう。「ポケモンアンコール」は現行放送中の作品の再放送であり、通常の意味での再放送とはかなり意味合いが異なる。
2)夕方・プライムタイムの作品の固定化が進む
動画協会の調べによると、’90年代後半の年間放送本数は次のように推移している。
1996年 85作
1997年 86作
1998年 132作
1999年 149作
2000年 109作
改めて説明するまでもなく放送本数の増加は、1クールの深夜アニメの増加によることが多い。むしろ、表を見ればわかる通り、夕方とプライムタイムのアニメの放送本数はテレ東を除く各局のアニメ枠の内容がかなり固定されてきたことがわかる。
日テレは月曜日19時台に『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』と金曜日夕方の『それいけ!アンパンマン』。
テレ朝は金曜日19時台『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』
フジは水曜日19時の少年ジャンプ作品。プライムではないが日曜の18時~19時の『ちびまる子ちゃん』『サザエさん』は’90年代前半から不動のラインナップとなっている。
ちなみに、フジでは水曜日19時台に2番組編成していたが19時台後半の『るろうに剣心』が時間帯移動し終了後はバラエティになり、一枠減少となった。テレ朝では、『美少女戦士セーラームーン』を放送してきたテレ朝の土曜日19時台が’97年秋よりバラエティにかわってしまった。そのかわりに18時台にアニメを集めるも、’00年秋にそのアニメ枠も消えてしまう。
そのほか夕方枠の作品の時間も見ると、各局とも夕方・プライムタイムで放送できるアニメ作品は週3番組程度ぐらいというバランスで固まってきているようでもある。
唯一の例外はTBSで、土曜日17時台に積極的にアニメを編成している。これは同社がこれまでにアニメを積極的に編成していなかったから開拓の伸びしろがあった、ということなのかもしれない。この時点では土曜18時はMBS枠ながら特撮枠(平成『ウルトラ』シリーズ)で、「土6」として注目のアニメ枠となるのは21世紀に入ってからになる。だがその前にあたる時期に「土曜夕方はアニメ・特撮」という視聴習慣を根付かせる時期がそれなりに長くあったというのは大事なことだろう。
3)日曜朝の番組枠が増える
テレ朝とテレ東が積極的に日曜朝の放送枠を開拓し始める。これはプライムよりも、子供が確実に家にいてチャンネル権を握れる時間帯を開発しようという流れと見られる。
またこの時期に、テレ東は18時台をアニメ枠として積極的に開発し、ハイターゲット作品を含むアニメを流し、「アニメのテレビ東京」を明確に打ち出してくる。ただし、この時点ではプライムにかかる作品もまだそれほど多くない。
このように番組表を見ても、『美少女戦士セーラームーン』『新世紀エヴァンゲリオン』といった大ヒットの余波が、日中の番組表を見ているだけではなかなか伝わってこないのがこの時期の特徴ともいえる、
つまり’90年代後半がアニメブームだとしたら、主戦場は完全に深夜アニメにシフトしており、それは「普通の人」にとっては見えざるブームであった、ということができるかもしれない。