歴史エンターテインメント新潮流で語られた『刀語』の伝染力

■ 鳥羽プロデューサー、『刀語』におけるツイッター活用の極意を語る

 この後、コーエーの北見健プロデューサーが登壇。北見氏は、ゲームで歴史を描くという点に焦点を当て、講演を行った。北見氏によれば、同じゲームといっても歴史表現においては、ジャンルごとにかなり違うとのこと。
 例えば、シミュレーションゲームにおいては、史実や伝承に基づき、様々なエピソードを取り入れることに注力するのに対し、アクション性を重視した『戦国無双』シリーズの場合はよりキャラクター性を重視するといった具合だ。また、先日リリースされた、『維新の嵐 疾風龍馬伝』についても言及。幕末の大きな流れを様々なコンテンツで示しプレイヤーが龍馬になりきるということを目指したという。

 そして満を期して登壇したのが『刀語』シリーズの鳥羽洋典プロデューサー。冒頭は同作品のアニメ化に至るまでのいきさつを語りながら、アニメという表現上どのように工夫したかについて現在公式ホームページ上でアップされている映像を見せながら解説した。
 ここで、鳥羽氏は、『刀語』はこれまで紹介された他の作品群のように史実に基づいたものではなく、時代劇という雰囲気や設定は抑えつつ、あくまでも架空の時代劇、すなわちファンタジー時代劇であることを強調。四季崎記紀が作り上げた伝説の刀探しの物語りを12話に分け、鑢七花と奇策士とがめの2人で集めていくという、話そのものは、「刀を集める話」、アニメとしては、「アクションもの」と手短にまとめた。

■ 個人や一群像を時代の流れと共に物語として描いている『刀語』も大河だ

 また、本作品をアニメにする上でのチャレンジとしては、「大河アニメ」というアニメ形態だったと鳥羽氏。月一回、1冊づつ発売された原作を60分ものとして月に一回放送しなければならなかったとのこと。結果として、関東ではフジテレビが、関西では毎日放送が放映するという、週一、3か月間、同系列局でといった昨今のテレビアニメ放送の常識を覆したとその独自性を強調した。
 原作が1月には1月のエピソード、というように季節に合わせ作品が発売されてきたことをうけ、アニメにおいても10年1月の放送分から、1月の物語に当たる「絶刀鉋」の放送が出来たという。季節感や背景の変化も現実に合わせられ、12月は最終話の放送を実現したという。フジテレビ、毎日放送とともに放送編成という点のみならず、視聴者側にとっても月1という慣れない放送タイミングで視聴し続けることもチャレンジだったと鳥羽氏。

 「大河」の意味は、「個人や一群像をその時代の流れの中で完結すること」と定義を示しつつ、『刀語』においても、とがめや、七花を中心に時代に翻弄されながら12本の刀を集める様を描くことにこだわったと鳥羽プロデューサー。その結末に何が待ち構えているのかということもふまえ、『刀語』は十分「大河」を冠するに値する作品だと強調した。
 このような背景を踏まえつつ、制作者側の視点からも『刀語』の特徴について言及。本作は、プロデューサーである鳥羽氏が33歳、フジテレビ側のプロデューサーは、鳥羽氏より年下という具合に非常に若いスタッフ構成だったと鳥羽氏。監督である元永慶太郎氏の40代を除いてはみな30代前半から20代だったとのこと。結果的にこれらの若い人たちがプロモーションにあたって新しい試みを積極的におこなっていくこととなった。

 作品自体も深夜アニメ枠で放送されたということから、ターゲット自体も制作者側の同世代かそれより年下である10代後半に視聴してもらうためにどうやって作品の良さを伝えていくかという点が大きなテーマだったと、鳥羽氏。これまでの経験から、いまの10代後半から20代の人たちにとってのメディアの中心はインターネットであると分析したうえで、彼らは基本的に誰かが発信する情報をネット通じて収集していると推測した。従って、制作者としてもそのうえに乗っかりながら情報を流す必要があるとの思いから、『刀語』はかなりネットに注力を注いだという。公式サイトに加え、ツイッターを積極的に取り入れていったのだ。これが制作者サイドでも新たな宣伝媒体として注目されておりテレビアニメに限らず、車、映画などの宣伝でも使われてきているとのこと。実際に情報発信する側からの印象としてツイッターはまさに「電子口コミ」であると鳥羽プロデューサーは評価した。

 更にこのシステムの強みは情報を拡散するだけでなく、テレビを見ながら実況が出来る点にあると鳥羽氏。これにより、テレビ番組を中心としたコミュニティが形成されていたと分析した。即ち仮想空間で皆と一緒にテレビを見ているという状況をつくりあげていると現状だ。「それが非常に力がある」と鳥羽氏。
 ひとりで見るのであれば録画で済ましてしまう、または誰かからDVDを借りてしまうところを「皆と一緒に見る」という「疑似体験」が味わえるのでリアルタイムで見るということに対して優先度があがると、鳥羽氏。「このリアルタイムに付加価値をつけることはテレビ媒体にとっても重要だ」(同氏)。実況は、制作者も放送中、リアルタイムに番組の裏話をつぶやくと同時にファンのつぶやきを見ながら、感想を吸い上げて今後に生かすということが出来るようになったという。
 結果的に送り手と受け手の直接的なコミュニケーションがとれるという点が宣伝媒体として非常に面白いとした。特に若者をターゲットとした番組にとっては非常に重要であるとツイッターのポジショニングも同時に明示した。

 また、一般的に時代劇という言葉からくる先入観を払しょくするために様々な施策をとったという。まずはイラストだが、竹氏による小説用原版イラストと比較しアニメのイラストは色みや、デザインの双方において質的に遜色ないところまで高めたという。それにより「時代劇は古い」、「地味」といった一般的なステレオタイプを打ち砕いたという。また、時代劇とはいいながらもキャラクターが動くというところがアニメの強みであることから絵をつかうことによって時代劇が持つリアルな要素をなるべく避けたと鳥羽氏。むしろ、時代劇がもっている要素を記号化し、それらの中から必要な要素だけ取り入れていったという。
 同時に実写では見せることが出来ないスピーディーな展開を視聴者に見せる事を強く意識したとのこと。刀で海を斬り裂いたり、鮫をさばいたりというシーンを見せながら、実写では不可能な、または実写にしてしまうとどうしてもウソっぽく見えてしまうシーンでもアニメならではの手法を使うことでスピード感、爽快感、スケール感を表現できるとアニメの醍醐味について語った。

 最後に時代劇自体が時代に翻弄されながらも生きてきた人たちの物語であり、そのような視点からすると『龍馬伝』や『坂の上の雲』、『信長の野望』とも相通ずる所があると鳥羽氏。生きてきた人の魅力、キャラクターの魅力をどこまで表現できるかが作り手としての土台であると思っていると語った。
 以上、本稿では、『刀語』を中心にクリエイターズサミット②の講演内容を示したが、史実を忠実に示そうとした『龍馬伝』、『坂の上の雲』に対し、歴史の可能性時空間を示したコーエーの数々のゲーム、『歴史』をモチーフに若年層にも訴求するデザインとキャラクターの作りこみとそれを訴求しうる情報発信について言及した『刀語』と「歴史」を題材とした作品の多様性には舌を巻くものがある。このような多種多様な作品の存在は、長きにわたる文化の継承や時代の流れによる大きな変化を経験している日本人にとって、「歴史」こそがコンテンツ産業において最も大切な切り札なのではと思わせる。これからの歴史創作の展開が楽しみだ。