集英社のデジタル戦略 海外戦略 鳥嶋専務が語る

 雑誌や書籍が個別企業を取り上げ、その戦略や経営を語ることは珍しくない。しかし、出版社が自らのビジネス戦略や経営を語ることはあまりない。国内の多くの出版社は非上場企業であり、大きな発表を行う時は自社メディアを利用する。外に向かってものを語る必要をあまり感じてなかった業界だからだ。
 そうした点で11月12日に東京・秋葉原UDXにて行われた集英社 専務取締役鳥嶋和彦氏の講演は、貴重な機会だった。毎週300万部を送りだす大型雑誌「週刊少年ジャンプ」を擁し、マンガビジネス最強とも言える集英社のビジネスの一端を聞けたからだ。
 講演はコンテンツ統合イベント コ・フェスタ(JAPAN国際コンテンツフェスティバル)のイベント「電子書籍・コミックサミットin秋葉原」の企画のひとつだ。

 当初は「デジタルコミックの海外展開」と発表されていた鳥嶋氏の講演のタイトルは、「集英社のデジタルコミック戦略」と変えられて、より広範囲な書籍のデジタル化についてとなった。個別の戦略を語る前に、まず基本戦略を理解して貰うとの意図があったように見える。
 鳥嶋氏の挙げたデジタルコンテンツへの認識はシンプルだ。インターネットの特性をアーカイブとコミュニケーションの大きくふたつに分け、そのふたつをビジネス的に拡大して行く。例えばアーカイブでは、マンガをコマ単位でデータベース化して二次展開するといったアイディアも紹介された。コミュニケーションでは書籍でのマンガは読者が自ら探しに来たが、ネットではユーザーに対して積極的に作品をプッシュする必要があるとする。

 そうした基本認識を経たうえで、海外ビジネスについても大きく言及した。やはり大きなテーマは、近年、海外で深刻な問題になっている海賊版とその対策である。
 鳥嶋氏は海賊版を海賊船に例え、それに対抗するには海賊船より魅力的な豪華客船を用意する、出版社が自ら正規情報を発信する必要性を強調する。出版社ポータルの価値を高めることでそれが可能になるとする。そして、将来的には日本での雑誌発売とほぼ同時のデジタル配信の実現を目指すと述べ、それは可能だと自信をみせる。

 また、講演の中では海外戦略のひとつとして、重要なプロジェクトも明らかにされた。集英社だけでなく、国内主要37出版社で組織するデジタルコミック協議会の協力のもと、北米市場向けた日本マンガのポータルサイトを構築するというものだ。
 このサイトでは来年春にスタート、年内にもβ版のオープンを目指す。無料マンガの定期配信やマンガ関連情報を送りだすものになる。これまでは海外の出版ラインセンシーに任せきりだった作品プロモーションを日本から自分たちで行う。自らがより積極的に海外市場に関わりたいという意志の表れだ。
 少年ジャンプに関しては、先日、集英社、そして小学館グループの北米関連会社VIZ Mediaが北米でのiPad向けのマンガ配信をスタートしたばかりである。こうしたことも併せると、集英社が様々な方法で海外電子書籍ビジネスをよりアクティブに展開しようとしていることが分かる。

 しかし、こうした野心的なマンガのデジタル出版は、専ら海外先行のようだ。講演会では、日本での対応についての質問もでたが、「海外はマンガに触れるチャネルが少ないため、日本ではマンガにアクセスするチャネルは多い」との答えだった。国内でのマンガのデジタル出版にはやや慎重な様子だった。
 だが電子書籍、電子マンガに対するニーズが国内で決して弱いわけではない。仮に海外で連載マンガのデジタル同時配信が始まれば、海外で出来て、なぜ国内で出来ないのかといったより数の多い国内のユーザーの信頼を失う可能性はないだろうか。電子書籍の重要なファクターがコミュニケーションであるならば、コミュニケーションの基盤である信頼感を失うことはビジネスに置いて致命的だ。

電子書籍・コミックサミットin秋葉原 http://ebookmanga-summit.com/