藤津亮太のテレビとアニメの時代
第19回 ハイターゲット作品の増加の背景
藤津亮太
1968年生まれ。アニメ評論家。
編集者などを経て、2000年よりフリーに。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)。編著に『ガンダムの現場から』(キネマ旬報社)など。アニメ雑誌、そのほか各種媒体で執筆中。
ブログ:藤津亮太の 「只今徐行運転中」 http://blog.livedoor.jp/personap21/
今回は’90年から’95年までのTVアニメについて検討する。
’85年に終わったアニメブーム以降、アニメの放送本数は減少していたが、’89年からふたたび放送本数は上昇に転じる。
’90年から’95年までのTVアニメ番組放送状況
■上記表はクリックで拡大します。
年間放送本数(動画協会調べ)
1983年 75本
1984年 78本
1985年 55本
1986年 63本
1988年 61本
1988年 70本
1989年 77本
1990年 85本
1991年 85本
1992年 91本
1993年 70本
1994年 86本
1995年 87本
’90年にはアニメブームの最中である’83年、’84年を上回る本数のアニメが放送されている。そして’93年に一旦、放送本数は落ち込むものの’90年代前半は80本台後半で推移している。
’88年からの上昇は、ファミリー向け作品の増加が大きな理由であるのは見た通りで、’90年代に入っても大きなトレンドは変わらない。
’82年~’84年と比べると、プライムタイム(19時台)の放送作品は減少。アニメブームのピークであった’83年には春・秋ともに21本のアニメが19時台に放送されていたが’90年代に入ると以下の通りに推移する。減少の大きな理由はフジテレビ、日本テレビで19時台のアニメが減ったからだ。
1990年春 15本
1990年秋 14本
1991年春 14本
1991年秋 15本
1992年春 14本
1992年秋 13本
1993年春 12本
1993年秋 12本
1994年春 12本
1994年秋 11本
1995年春 11本
1995年秋 11本
一方、ハイターゲット作品(とハイターゲットと考えて差し支えない作品)の推移は次の通り。またこの時期のキーとなるテレビ東京でのハイターゲット作品放送本数も付記した。
1990年春 6本(テレビ東京2本)
1990年秋 4本(テレビ東京2本)
1991年春 8本(テレビ東京4本)
1991年秋 7本(テレビ東京4本)
1992年春 6本(テレビ東京3本)
1992年秋 4本(テレビ東京1本)
1993年春 7本(テレビ東京2本)
1993年秋 5本(テレビ東京1本)
1994年春 7本(テレビ東京2本)
1994年秋 10本(テレビ東京3本)
1995年春 12本(テレビ東京4本)
1995年秋 12本(テレビ東京5本)
’90年代前半に(かつてほどではないが)少しずつハイターゲット作品が増えていることがわかる。
この変化は’80年代後半に増えたキッズアニメから少し「上の年齢層」を狙った企画へのシフトとして現れている。
いくつか例を見てみると。
『緊急発進セイバーキッズ』の枠が『テッカマンブレード』『疾風!アイアンリーガー』へと変わり、『覇王大系リューナイト』へとつながっていくライン。あるいは 『丸出だめ夫』から『幽々白書』『忍空』へ、『きんぎょ注意報』から『美少女戦士セーラームーン』へといった変化。『スーパービックリマン』も後番組は『GS美神』である。
1995年になると、情報番組とバラエティだった日本テレビ19時台に、よみうりテレビによる『ストリートファイターIIV』と『魔法騎士レイアース』が並ぶのもこうした流れの中の出来事ととらえることができる。
これらは’80年代後半のファミリーアニメ、キッズアニメを見てきた’80年前半生まれ世代を(メインもしくは視聴者の上限に)想定していると考えられる。
’85年にアニメブームが終わり、その後のファミリーアニメ、キッズアニメの時代が視聴者の再養成期間となり、それがハイターゲット作品に挑戦するといった環境を整えるに至ったのが’90年代前半の状況といえる。
その象徴といえるのが’92年の『美少女戦士セーラームーン』のヒットだ。
『セーラームーン』はそのメインターゲットである少女層にもヒットしたが、同時にそうではない年齢の多いアニメファンの心も多くとらえた。アニメブーム以降、これほどの規模のムーブメントでアニメファンが盛り上がったことはなかった。
ここでハイターゲット作品を打ち出しても、ついてくるファンの存在が可視化したといってもいい。
このムーブメントが’95年の『新世紀エヴァンゲリオン』の大ヒットへとつながり、さらには’90年代後半から始まる「深夜アニメの時代」の扉を開くことになるのだが、その前にいくつか確認しておきたい「予兆」がある。
次回はその「予兆」について。