劇画タッチの質感を3DCGでどう実現したのか? 『ケンガンアシュラ』制作スタジオが解説

アニメ制作を目指す次世代のクリエイターを育成するべく毎年セミナーイベントを開催してきた「あにつく」。

2020年の今年は会場をライブ配信の場に切り替え、「あにつく2020オンライン」と題して2020年9月25日から27日までの3日間開催された。

NETFLIXオリジナルアニメとして制作された格闘アクション『ケンガンアシュラ』のCGセクションを語る「『ケンガンアシュラ』CG制作セッション」が開催されたのは3日目の27日。

アニメーション制作を担当した株式会社ラークスエンタテインメントと、CG部分の作業を請け負ったexsa株式会社からそれぞれスタッフが登壇し、おもにCG制作に関する制作過程を紐解いた。

 

▲アニメ『ケンガンアシュラ』のPV。

 

■『ケンガンアシュラ』はなぜCGで作られたのか?

セミナーで登壇したのはラークスエンタテインメントの福島涼太氏(CGディレクター)、西入俊雄氏(CGディレクター)。そしてexsaからは池口裕児氏(CGプロデューサー)、齊藤博一氏(モデリングディレクター)、山﨑雄太氏(コンポジットディレクター)の計5名。

最初のテーマは「『ケンガンアシュラ』はなぜCGで作られたのか?」。

この問いに対しCGディレクターの福島氏はこう語る。

「原作コミックは描き込みの密度が高く、しかも格闘アクションを劇画調のテイストを描いているため2Dではカロリーが高過ぎる。そこで予算やスケジュールを考慮しCGで制作することになりました。

CGモデルなら作画のクオリティーが一定水準保たれますし、背景含め作業時間の圧縮につながります」

▲コストを度外視しただけあり、コンセプトアートの段階ですでに原作コミックのキャラクターの質感が再現されている。

 

■劇画の質感を再現しつつ、品質と効率の両立を目指す

 

原作コミックのキャラクターは、ギザギザとした影や「かけ編み」と呼ばれる網目模様のシルエット表現など、劇画調の醍醐味である描き込み要素がとても多い。そしてそれが本作独特の雰囲気を形成している。

 

ラークスエンタテインメントが作成したキャラクターのコンセプトアートはその画風を3Dで表現するため、3Dのモデルにレタッチを加えながら原作コミックの再現に挑戦した。

結果、そのビジュアルが監督に採用され、本番でも同様の表現で3D化されることになる。

 

そうやって完成したコンセプトアートをもとに、今度はexsaで本番のキャラクターが開発された。

コンセプトアートの段階ではコストを度外視していたが本番ではそうはいかない。手間を省くことはもちろん、「動かすこと」で発生する数々の問題を解決するために試行錯誤が繰り返された。

 

もっとも頭を悩ませたのは、やはり「かけ編み」に代表される筆のタッチだ。

 

本来ならどのカットでも、どのキャラクターでも一定の網目でなければならない。しかしキャラクターの表面に影の表現などを貼り付ける「テクスチャー」と呼ばれる素材では、キャラクターによって網目の大きさが変わったり、キャラクターを動かす際に引っ張られたり変形したりしてしまう。

 

その部分は手間をかけて修正するしかなく、また完全に克服できていないため今後のアニメ制作の課題として残った。

▲筋肉の影の部分は色分けだけでなく、細かな斜線や「かけ編み」などが描き込まれている。アニメではそれをそのまま立体モデルで再現した。

 

コスト圧縮と効率化については以下のような方法が取られた。

 

まず数多く登場するキャラクターを、痩身タイプ、筋肉質タイプ、筋肉隆々タイプの3パターンに分けてベースとなるモデルを作成。

もっとも時間がかかるUV作業を軽減するとともに、「かけ編み」、ダメージ表現のテクスチャー、汗表現のテクスチャーをどのキャラクターでも使えるよう共有化した。

 

UVとは3Dモデリングにおける座標のこと。3DCGで立体物を作成する場合、3Dでそのまま作業できない場面がある。そんな時に3DCGを一旦、組み立て前のペーパークラフトのように、平面に展開してから作業をすることになる。これがとても面倒なのだ。

 

その部分を解消するため、共有できるUVやテクスチャーは可能な限り使いまわせるよう素材化した。

またダメージ表現や汗もその都度3Dモデルに書き込まなくていいよう、貼ればいいだけの「テクスチャー」と呼ばれる素材をあらかじめ作成した。

 

そういった細かな準備を重ねることでコストと作業時間の圧縮をして、力を入れるべきシーンとそうでないシーンのメリハリをつけ、臨場感ある格闘アニメを制作した。

 

■実際の動きを参考にしたリアルな格闘シーン

 

格闘シーンの制作にあたり、監督は原作コミックのコマとコマの間の、描かれていない部分もきちんと映像化したいと考えた。

 

しかしとくに格闘技に通じていてるわけではない制作スタッフでは、コマとコマの間を補完できるほどの知識は持っていない。そこで実際に格闘技をしている人間を10人ほど招いて協力してもらうことにした。

 

その際、当初はモーションキャプチャーで動きを取り込むアイデアがあったという。しかし機材をつけてアクションをするのは難しく、結局は6方向から撮影してそれを参考資料にした。

 

もちろん映像を収録するだけでなく、実際に作画スタッフを立ち会わせることで、格闘家同士の打ち合いや気迫などの「空気感」を肌で感じさせた。

 

ちなみにプロジェクト開始当初はコアメンバー限定で実際にプロレスを観戦したという。

試合会場の空気感や相手をマットに叩きつけた時の「バシン!」という衝撃音など、単に参考にするだけでなく、迫力ある格闘ショーはその後の作業でもモチベーションを上げる効果をもたらした。

▲劇中では締め技や寝技も登場するため、機材を装着するモーションキャプチャーでは対応できない。

 

これまで強いこだわりを熱弁してきた『ケンガンアシュラ』制作現場。しかし学生へ向けてのテクニックとしては、すべてに「こだわり」を発揮するのではなく、力を入れるべきカットとそうではないカットの区別をつけるようアドバイスする。

 

クリエイターとしてはすべてにこだわりたいのが本音だ。それがたとえ一瞬のビジュアルであっても。

しかしプロとして作業をする上では、リソースや時間的なコストにも気を配らなければならない。

 

一瞬しか映らない場面でも、アップになる「目立つカット」なら見栄えのためにこだわるべき。しかし目を凝らして意識しなければならないほど細かいカットならあまり手間暇をかけるべきではない。

 

すべてはメリハリだ。

視聴者が気づいてしまうかどうかを基準に、どこにリソースを割くべきなのかを考える。

それもプロに必要な「適正」だと教えてくれた。

 

■素材化と仕様書の作成で生産性を高める

 

複数の素材をひとつに合成する「コンポジット」は、アニメ制作では終盤にあたる作業だ。スケジュールの影響をもっとも受けやすく、作業時間があまり取れないパートでもある。

 

そのため効率と生産性を求め、エフェクトなどをアセット化し、どんなシーンでも、どんなエフェクトでもすぐに引っ張り出して組み込めるようにしていた。

 

例えば殴り合うシーン。パンチの猛烈なラッシュを繰り出す際、迫力ある映像にするためパンチの軌道を示すエフェクトを入れていた。それはその場面だけではなく、流用できるなら積極的に流用し、その都度新規でエフェクトを作る手間を省いていたのだ。

そのほか生産性を高める工夫として作業の仕様書を作成した。

ひとつの作品につき、通常はひとりの人間が継続してコンポジット作業をする。しかし『ケンガンアシュラ』は制作期間の関係でスタッフの入れ替わりが多かった。

そこで、そのたびに作業説明をする手間をはぶこうと、山崎氏は仕様書を作成して労力を軽減させようとした。

 

仕様書の目標は「作業にあまり詳しくなくても、一読しただけである程度のクオリティーが達成できるもの」。

読むだけで大変なページ数ではあるものの、結果として一定の効果があったという。

▲仕様書では作業手順などを細かく説明したため、見ただけでうんざりするようなページ数になってしまった。

劇画調の質感を出しつつ、アクションシーンの多い物語を臨場感たっぷりに描き切った『ケンガンアシュラ』。

その裏では数えきれないほどのチャレンジが繰り返されていたのである。

《気賀沢昌志》

 

あにつく2020

https://www.too.com/atsuc/2020/

 

アニメ「ケンガンアシュラ」公式サイト

http://kengan.net/

 

exsa株式会社 公式サイト

https://www.exsa.jp/

 

株式会社ラークスエンタテインメント公式サイト

https://www.larx.co.jp/

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