マンガの世界展開の鍵はアニメ配信?アニメとマンガの海外市場の今【IMART 2021 レポート】


マンガ・アニメの未来をテーマにした国際カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)の第二回が2021年2月26日(金)と27日(土)にかけて開催された。

本記事では、2日目に行われたセッション「マンガ・アニメ 海外最新事情いま世界のエンタメ業界で何が起きているのか」のレポートをお届けする。日本アニメが配信の普及によって世界的に人気が高まる中、マンガの人気も高まっている。マンガをめぐる世界の状況も目まぐるしい変化を遂げている中、どのような未来が考えられるのか。北米マンガ事情に詳しい椎名ゆかり氏(翻訳者・ライター、東京藝術大学非常勤講師)と堺三保氏(文筆家・翻訳家)が議論した。

セッションは椎名氏のプレゼンからスタート。椎名氏は北米での日本マンガの人気の上昇について説明してくれた。

2020年の北米市場でのマンガ売り上げでは『僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)』が圧勝。2021年1月に入ってもその傾向は変わっていないが、ある変化に気がついたという。それが『ヒロアカ』以外の作品の1巻が複数ランクインしていることだ。これはアニメ配信の影響で新規に単行本を購入している人が増えているためだという。

北米では数年前から日本マンガの売り上げが飛躍的に伸びているのだが、一巻がこれだけ上位にランクインして新規読者が数多く参入しているということは、さらなる上昇が期待できるということだろう。

続いて日本の市場についてのデータを椎名氏は提示した。2020年の国内マンガ市場は、90年代の少年ジャンプ黄金期時代を超えたという。これはコロナ禍でデジタル市場が急伸したことが大きな原動力になっている。

しかし、これでも現在のデジタルマンガ市場の全ては測れていないという。なぜなら、広告収入型のマンガサービスやサブスクリプション型のマンガサービスが統計に含まれていないからだ。実際のデジタルマンガの市場規模は統計以上にもっと大きいと推察される。

続いて北米のデジタルマンガ市場について説明してくれた。北米におけるデジタルコミックの売り上げは全体の9%ほどでまだまだ盛り上がっていないのが現状のようだ。しかし、これも買い切り型のデータが基になっているため、全体像の把握は容易ではないという。

北米のデジタルマンガ市場では、独立系プラットフォーム、縦読みスクロール型のサービスの急伸、そして集英社と講談社の戦略の違いが鮮明になってきているという特徴が挙げられるそうだ。

椎名氏はとりわけ縦読み型のサービスの急伸に注目する。代表的なアプリ「WEBTOON」は年間1億を超えるアクセス数を記録、1500万人のアクティブユーザーを抱えているという。この市場では日本マンガ的なルックの作品ばかりが人気ではないそうで、最も人気のある作品はニュージーランド出身のレイチェル・スマイス氏の『Lore Olympus』という作品で2020年1月時点でアクセス数2億9900万を記録、TVアニメーションの製作が進行中だそうだ。

また集英社は自社で「少年ジャンプ+」アプリを展開しているが、講談社はローカルの配信サービスにライセンスを下ろしてマルチ展開をしており、2社のデジタル戦略の違いが鮮明になっていると指摘した。

全体的にはアメリカでも、やはりコロナ禍でデジタル市場は急伸しており、中でも広告型の縦読みサービスの人気が高まっているようだ。椎名氏は、見開き・コマ割りの日本タイプのマンガがなくなることはなく、縦読みと共存するだろうと見解を述べるが、縦読み市場に対して日本の存在感が薄いのが気がかりで、もっとアプローチしても良いのはと所感を述べた。

そして、北米市場の特徴として人気タイトルがアニメ化されたものに偏っていると指摘。日本マンガはアニメ化されていないものの中にも優秀な作品は数多い。今後は非アニメ化タイトルをいかに浸透させるかも重要になってくると語る。

さらに新たな動きとして、日本人作家に『アナと雪の女王』のコミカライズをアメリカ市場向けに描き下ろすVIZメディアの新たな展開も紹介してくれた。北米市場で人気の種村有菜氏が手掛けたそうだ。

椎名氏のプレゼンを受けて、堺氏は、日本ではマンガは大人も読み、細かくセグメントされているが、アメリカではマンガは大人が読むものではないと思われていると指摘。マンガに対する感覚は日本の60年代くらいのままなのだという。それが近年変わってきているのは、やはり配信の普及が大きいと語る。なぜなら、Netflixなどの配信サイトではアニメと実写作品がフラットにカタログ化され、接触機会が増えるからだという。そこからマンガへの印象も変わってくるのではないかというのだ。まずは、そこから広げて、マンガは大人が読むべきものではないという社会的認知を変える必要があると堺は力説する。

モデレーターの数土氏は、配信市場の成長によって日本アニメのプレゼンスは間違いなく向上していると語る。堺氏は、この競争はNetflixとディズニー+をそれ以外くらいの3勢力ほどに集約されるのではないかということがアメリカでは語られていると紹介した。

堺氏は重ねて映像配信がマンガ市場の鍵をも握ると主張。そして、日本マンガもハリウッドで映画化するなら実写が良いだろうという。マーベル作品の認知が向上したのも実写シリーズの大ヒットによるものだからだ。

そして、堺氏は日本アニメは日本の常識に囚われすぎているので、世界に目を向け、人種や宗教、ジェンダーなどの問題にも気を配った作品作りをすべきだと語る。今後5年くらいで配信市場の競争は激化していくので、この5年でいかにプレゼンスを高めるかが勝負だという。

とはいえ、海外で何が受けるかを意識しすぎてもいけない。世界で配信されると言っても全世界でヒットすることを意識しなくても、どこかの国で意図せずヒットが生まれることがあるのが配信市場のユニークな点なのだと堺氏は語る。

椎名氏は、集英社が自社でジャンプ+を立ち上げ、英語でも配信していることで視聴データを得られることが強みになるのではと語る。各国ごとに視聴データが蓄積されていけばマンガの展開も変わってくるのではないかと述べた。

マンガもアニメも海外展開が重要な時代に入っている。日本国内は人口減少期に突入しており、市場規模もそれにともない縮小せざるを得ない。海外市場を前提にしないと成り立たない時代になっていくだろう。その意味において、本セッションで語られたことは大きな意味を持つだろう。