アヌシー2010とヨーロッパのアニメーションの現状 第2回

写真:伊藤裕美

■ヨーロッパの若手登用
 ヨーロッパの映画祭コンペティションの多くは若手の登竜門だ。アヌシーのMIFAの「Creative Focus」には、若手の斬新なアイデアを求める制作会社やプロデューサーらが集まる。プロジェクトコンペティションから完成作品も次々に登場し、コンペティションで脚光を浴びている。若いアニメーターは、単なる作業者として扱われるだけでなく、新企画のパートナーとしても目されるということだ。
 ローヌ・アルプ地域圏のアニメーション専門校、La Poudrière(ラ・プードリエール、http://www.poudriere.eu/en/)を例に、若手登用を紹介しよう。開校10年を迎えた同校は、在校生数十名という小規模で、伝統的アニメーションを中心に、監督・演出家などを輩出する。アヌシー・フェスティバルの前フェスティバル・ディレクター、故ジャンリュック・ジベラ氏の元で映画祭のアシスタントディレクターを務め、米国のAnimation World誌のオンライン版を立ち上げた、アニック・ツニニェ氏が校長を務める。その卒業生は、自主制作の短編だけでなく、テレビシリーズや長編の新企画でも責任あるポストに就いている。
 たとえば、アニメーション制作会社Folimage(フォリマージュ、http://www.folimage.fr/)の『Ariol』は人気のこども向けコミックスをテレビシリーズ化したもので、09年11月からTF1で放映が始まった。その企画はラ・プードリエールを修了した、女性アニメーター二人が提案し、デザインや演出を担当する。制作中のテレビシリーズ『Michel』も、ラ・プードリエールを修了した男性アニメーター二人が原案、デザインからアニメーション制作まで任される。劇場公開の長編企画では、2007年に修了したベンジャマン・ルナー氏は、Les Armateurs(レザマトゥール、http://www.lesarmateurs-lesite.fr/)の『Ernest et Célestine』の共同監督に起用された。
 ヨーロッパの高等教育機関は “リーダー”の育成を目的にし、プロ意識の高い人たちが卒業する。さらに、独立系プロデューサーを中心に企画が始まるので、柔軟な人材登用できると考えられる。このように若手の登用があるから、MIFAが人材発掘の面でも、“共同制作のセットアップ”の場としても機能するのである。

■“アヌシー”と東京・練馬区
 アヌシーを含むローヌ・アルプ地域圏の映像産業クラスター「Imaginove(イマジノーヴ)」は、フェスティバルのアヌシー、ゲームのリヨン、アニメーションのヴァランスなど、独自に実績を持つ映像産業の複数の中核都市が連動しつつ、それぞれに強化を図る。地域中核センターとなるのが、アヌシーに拠点を置くCITIA(動画センター、http://www.citia.org/)だ。アニメーション、インタラクティブコンテンツ、マルチメディアのクラスター促進と、それによる産業や文化の振興を目的に、文化、経済、人材育成を総合的かつ効率的におこなう。アヌシーのフェスティバルとMIFAの運営はCITIAの傘下にある。
 昨年4月にアヌシー都市圏およびアヌシー市は、東京・練馬区と「アニメ産業交流に関する合意」を交わした。国際ビジネス支援、人材育成、イベント提携、事業・研究開発の相互支援を掲げ、情報交換と相互協力をおこなうこととなった。70社もの制作会社が集積する練馬区とのビジネス連携を期待したCITIAであるが、1年を経た今日でも、目立つ成果が現れていない。練馬区の関係者は「アヌシーの副市長との朝食会」で満足したのか、提携進展に関する発表をすることなくアヌシーを去った。CITIAが編集するローヌ・アルプ地域のアニメーション情報誌「EN iMAGES.mag」は、アヌシー市長のメッセージとして「昨年、東京23区の一つ、練馬区と提携の調印をした」と日本との関係を短く触れただけだ。
 CITIAディレクターのパトリック・エヴェノ氏は現時点で可能な事業として「9月にアヌシーに開校する、ゴブラン校(GOBLINS、http://www.gobelins.fr/)の分校、CGアニメーションスクールに練馬区から留学生を受け入れる」とする。MIFA最終日の6月11日、イマジノーヴはプロデューサーらのミッションを中国へ派遣した。練馬区が留学生の交換で提携の体を保とうする間に、中国とフランスの連携は歩を進めているかも知れない。

第3回最終回へ続く