マンガ・アニメのアーカイブの現状と課題―何を残し、なぜ残すのか?【IMARTレポート】

マンガ・アニメの未来をテーマにした国際カンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)」が11月15日から17日にかけて豊島区役所で開催された。カンファレンスでは24のセッションが開かれ、教育やテクノロジー、マーケティングやジャーナリズムなど様々な分野について活発な議論がなされた。

本稿ではそのうち、16日に開かれたセッション「マンガ・アニメの何を残すのか、なぜ残すのか」の様子をお送りする。
日本が世界に誇れるマンガやアニメといえども、実はその保管、アーカイブは不充分なところも多い。特にアニメにおいては、ひとつの作品で段ボール数十箱から百箱以上もの膨大な作画・資料が発生してしまうため、保管場所がなく廃棄されてしまうことも珍しくない。

マンガやアニメはいったいどのように保存され、後世に残されているのか。集英社デジタル事業部の岡本正史、プロダクションI.Gアーカイブグループの山川道子、明治大学米沢嘉博記念図書館職員で、マンガ研究家のヤマダトモコさんの3人が登壇し、その実態が明かされた。


まずプロダクションI.Gの山川は、「既にセル画の扱いを覚えている人はほとんどいなくなった。それを撮影台に乗せて操作をできる人もいないし、フィルムを扱える人も少なくなった。社内ではつい20年前のことだが、消えかかっている文化がある。それが何であったかを残すという気持ちで個人的にやっている」と挨拶した。


企業的な考え方としては、続編を作る需要が生まれた時のため、社内の人材育成で活用できるようにするためにアニメ資料のアーカイブがされている。
映像そのものは複製可能なもので、テレビ局をはじめたとする納品先にも保存されているが、原紙や制作時のデータは制作会社しかないものだという。特に近年デジタル作画が増えてきていることで、展示品としての原画が再注目されている。

こうした需要や必要性があるにもかかわらず、制作会社の多くでこうしたアーカイブ化が進められていない。アニメスタジオは小規模のところも多く、その余裕がないためだ。


山川は、「国で残す決断が遅れているのはなぜか」と前置きながら、それは「産業として情報をクローズドにしてきたことで、研究者が育つ土壌がなかったのではないか」とアニメ業界側の問題を指摘した。

研究者がここに登場する理由については、「博物館や美術館や図書館ではそれぞれに専門の学芸員がおり、しっかりとした分類法が多数ある。これを支えているのはそれを必要としている研究者が多いからだ」とも付け加えた。


では、プロダクションI.Gで残されているものとは何か。「商品・宣伝に利用できるもの」、「クオリティが高いカット」、「新人教育に利用できるもの」、「会社や作品の特徴が表れているもの」――これはつまり金銭的な価値が少なくても、今ここで残さなければその技術が継承できなかったり、後の商品開発ができなかったりするもの。こうした4つのものは運用すべき資料群として保管されている。

一方で、「印刷物でデータがあるか、スキャンすればいいもの」、「物語上印象に残らないカット」、「社外、海外に作画を依頼したカット」、「モブシーンのカット」、「作画用のCGプリントや、CGの用の原画のコピーがあるカット」、「大判カット」の6種類のものは破棄されている。
こうすることで、経験上利活用に大きな支障は出ず、原画・動画に関しては全体の5%まで削れたという。


保管する分量であるが、アニメ1話30分作品でカット袋が350袋ほど発生し、段ボール約5箱になる。これが1クール13話になると65箱。
I.G.では現在約2800箱が保管されている。こうした膨大な量になり、保管すると倉庫代で圧迫するため、資料を残せない制作会社が多い理由になっている。


アニメの制作工程は近年細分化の傾向があり、どこからどの資料がどういう目的で発生したかも把握する必要がある。
こうした経験から見えてきたものは、専門家の育成が必要であること、活用を念頭に置いた保管方法の検討が必要であること、業界内外で利用しやすくする制度が必要であること、これら3つを山川は結論としてまとめた。


続いて集英社の岡本は、マンガの制作史から話を始めた。今でこそパソコン上にデータがありそこから印刷されるマンガであるが、原稿の完成から印刷までの間に手間がかかっていた。


戦中から戦後にかけての活字主流だった時代、マンガは亜鉛版と活字組版を組み合わせて作られていた。亜鉛版で絵の部分を生成し、セリフの部分を糸ノコで切り取っていたという。



その後、1950年代ぐらいからフィルムを使用した製版に切り替わっていく。これは写真と同じような方法で、絵の部分にセリフは写植していく方法で、2010年ぐらいまで続けられていた。
現在ではAdobeの組版ソフト「In Design」でデジタル化されている。マンガは独自の書体ルールがあり、さらにそれも出版社ごとに違うため、時間がかかった経緯がある。



アーカイブに関しては、現物のアナログと、デジタルの両方で保管されている。デジタルのほうはデータベース化もされ、これまで300万ページ以上のコミックスの製版データと、1万点以上のマンガ誌掲載のカラー原画スキャンや撮影RGBデータがある。
これを始めたもうひとつの理由としては、製版フィルムが年々劣化する性質があるからだ。


こうすることで、出版物を海外で出版する際にデータを渡す部分、そしてもうひとつがここ10年で急速に進んでいるマンガのデジタル配信に活かされている。
マンガの配信においては、収蔵している作品の7~8割は活用されており、高い運用率も特徴だ。アナログなものは、出版された全ての雑誌や単行本が社内の資料室に保存されている。


明治大学米沢嘉博記念図書館では、マンガとサブカルチャーの専門図書館で、約14万冊の蔵書数がある。単行本や雑誌だけでなく、他の同様の図書館と連携しながら、マンガ原画のアーカイブも実施している。マンガ原画は約1400点、アニメ原画は約50箱に及ぶ。


蔵書の全ては寄贈品で運用されているのも特徴だ。資料は一冊ずつポリ袋に入れてその上に蔵書印やバーコードが付与されている。また現在、没後20年を迎えたマンガ家・三原順の原画のアーカイブ作業を進めているという。


アーカイブすることでデジタル配信というさらなるビジネスに繋げられている集英社をはじめとする出版業界に対し、アニメ業界はアーカイブできる企業も限られ、利活用できる対象も内向きであり、収益化に結びつけられていない現状が浮き彫りとなった。


アニメ原画のアーカイブは今後どうあるべきか、I.Gの山川は、「組織構造上、アーカイブは制作管理部門であり、資料で収益をあげて維持をする考えの部門ではいまのところない。ただ、活用していきたいとは思っているので、活用のハードルを下げてもらうために、著作権法やデジタルアーカイブ推進基本法などといった法改正を国会でしていただけると活用しやすくなるのでは」と法整備の必要性を訴えた。
[河嶌太郎]

国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)