世界のアニメーション教育の今。フランス屈指のアニメ学校の“あえて自由につくらせない”ワケ【IMARTレポート】

マンガ・アニメの未来をテーマにした国際カンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)」が11月15日から17日にかけて豊島区役所で開催された。カンファレンスでは24のセッションが開かれ、教育やテクノロジー、マーケティングやジャーナリズムなど様々な分野について活発な議論がなされた。


本稿ではそのうち、16日に開かれたセッション「世界のアニメーション教育の今――フランス・ゴブランの場合」の様子をお送りする。

いまアニメーションの現場を担う人材の育成は世界的な課題となっており、国内でも専門学校だけでなく、大学でも教育する動きが進んでいる。
そんな中、フランス・パリにある国内屈指のアニメーションスクール・ゴブランが、アメリカの大手動画サイトであるNetflixと産学連携することが6月ニュースになった。果たしてどういった狙いがあるのか。

そこで「ゴブラン」のアニメーション学科長を務めるモーラ・マルギン(Moira Marguin)が来日し、その狙いと教育の内容について明かした。Netflix側からも、アニメチーフプロデューサーを務める櫻井大樹が登壇した。


モーラは、まずフランスのアニメ市場がアメリカ、日本に次ぐ世界第3位であることを話し、なぜこのような市場が形成されているかを解説。歴史的にフランスはアニメーションの発祥地であり、エティエンヌ=ジュール・マレーが1882年に写真銃を発明。これが映画撮影機の原型となった。

続いてエミール・レイノーが1877年に「プラキシノスコープ」と呼ばれる回転のぞき絵を進化させたアニメーション機械を発明。88年にはこれをスクリーンに投影する装置「テアトル・オプティーク」を発明した。92年には、これを用いた世界最初のアニメーション作品『哀れなピエロ』を上映した。


それからルイ・リュミエールが映画を発明し、「世界初の職業映画監督」と呼ばれるジョルジュ・メリエスによって、映画作りというものが本格化する。そしてエミール・コールが実写部分を含まない、絵から起こしたアニメーションを世界で初めて制作した。

こうしたアニメーション誕生の地という歴史に加え、フランスという風土が文化的多様性を重視し、カルチャーを大事にしていることが一つの理由として考えられるという。
1946年には、フランスの映画行政を管轄する「国立映画・アニメーションセンター(CNC)」という協会が誕生している。これは文化の多様性を保護することが目的で、動画全般を対象にしている。


当時のフランス大統領、シャルル・ド・ゴールが創設したもので、戦後アメリカの映画文化の影響を強く受けたことがきっかけだった。
この協会が設立されたことで、TVや映画館に50%の割合でフランス制作の作品を上映する必要があるというルールが定められ、フランスの文化保護に役立っている。国内制作の作品に対して、手厚い補助金制度を備えていることも特徴だという。

現在のフランスのアニメーションにおいては、例えば『怪盗グルーの月泥棒』などのような世界的な有名なアニメ作品であっても、実はフランスのスタジオが下請けしている作品も少なくないという。


さらに近年ではNetflixのようなインターネット配信サイトが充実してきたことによって、コンテンツの多様性が広がり、活躍の場も広がっている。
例えば大人向けのゴブランで大人向けのアニメを制作しているが、TVでこれを放映しようとするとなかなか難しかったものでも、こうした動画配信サービスだと容易に配信することができるようになったという。

ゴブランの教育は実際どうなのか。ゴブランは1974年に設立。フランス最古のアニメーション学校となっている。卒業生も多く、毎年アメリカのピクサーやディズニーに人材を供給し続けている実績がある。
その就職の強みは、卒業半年以内で100%の卒業生が就職し、その就職先も大半がアニメーション関連の職種に就いているという。


教育の内容としては、アニメーターのスキルを育成するものからディレクションや背景アートの美術、絵コンテのスキルを育成する授業もある。他にも、業界の内容を理解するための授業も創設している。


ゴブランは常に業界とのパイプを築いており、95%の教職員が、業界の前線で働いている実務家を連れてきている。卒業制作作品の審査も、こうした実務家教員が行っているという。

座学の授業は少なく、学生たちにプロジェクトを与え、制作の実践を通じて学ぶ手法を採っている。
このプロジェクトはチームで進められ、チームワークも重視している。理由は単純で、社会に出てアニメ制作で必要なものが、チームワークだからだ。

この一環として、全ての学生に対してインターンシップを必修としている。また、監督やシナリオなど、学生の志望職種にかかわらず、学生自身の手でキャラクターアニメーションが作れるカリキュラムを課している。


学生に課題を与える際にも“ゴブラン流”が光る。学生に自由にやらせるという課題はなく、例えば既にあるキャラクターを使って課題を制作しろというようにしているのも特徴だ。
これは仕事としてやる以上、自由に制作できる場面はまずなく、むしろ特定の制限下で常に結果が求められるからだ。業界に即応できる人材育成を常に心がけているのもゴブランの特徴だ。

学生が制作するアニメーションのうち、音響の部分はパリ音楽院などと連携し、そこで作曲を学んでいる学生に楽曲提供を受ける体制になっている。
学生はフランスだけでなく、世界中からの留学生で構成されていて、ひとりひとりの国籍が異なる制作チームもあるほどだ。世界中の学校と提携を結んでおり、2020年春からは、東京藝術大学に学生を送る予定だという。


全体的なカリキュラムとしては、フランス語と英語のコースに分かれており、学士に相当する3年のコースと、その後大学院修士相当の2年制のコースがある。卒業の免状もあり、それぞれに相当する学位(Batchelor of ArtsとMaster of Arts)の取得も可能だ。


最後に、ゴブランとNetflixが提携する狙いについて明かされた。提携する内容は、ゴブランの学生をNetflixの東京オフィスでオリジナルアニメ制作チームに派遣するというもので、アメリカではない点が重要だ。

この狙いについてNetflixの櫻井は、「日本の学校を卒業した人は、なかなか日本のアニメ業界の外に出ていかないし、外からの受け入れも門戸を閉ざしているようなところがある。ただ、それでも日本に関心を持つ学生が多く、交流作りができないかと考えたのがきっかけ」と話した。


モーラも「ゴブランは18ヶ国からいま学生が来ており、様々な学生がいる。その中には日本を文化に惹かれ、就職先に希望する学生もまだまだいる」と話す。
Netflixの提携を機に、今後ゴブランを通じて、海外から優秀な人材が日本のアニメ業界に入ってくるのかもしれない。
[河嶌太郎]

国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)