アヌシー2010とヨーロッパのアニメーションの現状 第1回

■立体視3Dアニメーションの実用化
 立体視3D映画/アニメーション(以下、3D映画)は実用期に入った。昨年12月から16週間、500の立体視3Dスクリーンを含む700館で公開された『アバター』は、人口6,300万人のフランスで延べ1,460万人以上を動員した。米国の3D映画がトレンドを牽引し、それがヨーロッパの制作者を大いに刺激する。
 アヌシー2010のスペシャルプレミアには、『シュレック フォーエバー アフター』、ユニバーサル・スタジオがフランスのMcGuff(マクガフ)と共同制作した『Despicable Me(怪盗グルーの月泥棒 3D)』、ピクサーの短編『Day & Night(デイ&ナイト)』、そして『トイ・ストーリー 3D』、『トイ・ストーリー 2 3D』が登場した。日本で『ナットのスペースアドベンチャー 3D』が昨年公開された、ベルギーの3D映画の第一人者ベン・スタッセン監督の新作『Sammy’s Adventures – the Secret Passage』は、8月のヨーロッパ公開に先立ち上映された。また、制作中の作品を紹介する「Work in Progress」には、ポーランドとノルウェーの合作『The Flying Machine』、メキシコの『Ana』、南アフリカJock Animationの『Jock of the Bushveld』が出された。南アフリカではアニメーション産業が熱気を帯び、3D映画化されたスクリーンが増えている。2本の3D映画(Character Mattersの『The Lion of Judah』、Triggerfishの『Zambezia』)が完成し、Triggerfish Animation Studioは次回作『Khumba』の準備に入っているという。
 CNC(フランス国立映画センター)の調査報告書「Le marché de l’animation en 2009: télévision et cinéma, production, diffusion, audience (2009年アニメーション市場:テレビおよび映画、制作、放送、観客の動向)」によると、ハリウッドの3D映画の公開が増えた09年は、ヨーロッパ各国のスクリーンのデジタル化が進んだ。08年の1,547スクリーンから、09年には4,580に増え、特に西ヨーロッパでは1,332から3,890となった。またフランスでは、平均の入場料金が3D映画では6.54ユーロ(約800円)で、一般の6.28ユーロ(約700円)よりも高い。このような流通ニーズもあり、制作が増える見込みだ。3月にフランスのリヨンでEUの非営利国際組織CARTOON(カートゥーン)が開催した、長編アニメーション映画のフォーラムでは51企画がセレクトされ、うち13企画は3D映画であった。
 CNC(フランス国立映画センター)は、映画とテレビの立体視3Dの技術開発への支援をはじめた。実績あるプロデューサーに対する選択的助成として、1社当たり上限20万ユーロ(約2,240万円)が支給され、長編映画のパイロット制作に利用できる。09年は、実写を含む24企画(長編20、テレビ4)に100万ユーロ(約1億1,200万円)が提供され、うち40万ユーロが立体視3Dの企画(長編1、長編パイロット4)だった。

■3D映画「ムーミン」
 フィンランドではムーミンの3D映画が今秋の公開を待つ。フィンランドのFilmkompaniet(フィルムコンパニエット、http://www.filmkompaniet.fi/)が、78年~82年制作のテレビシリーズの権利を譲り受けて、新たにファミリー向け劇場版に仕上げた。Filmkompanietは、ポーランドのSe-Ma-Forスタジオが原作者のトーベ・ヤンソンの細かい指示を受けて制作したフェルト人形のストップモーション・アニメーションのオリジナル版を修復し、2本の長編『Moomin and Midsummer Madness(劇場版ムーミン パペット・アニメーション ~ムーミン谷の夏まつり~)』と『Moomins and the Comet Chase(ムーミンズ・アンド・ザ・コメット・チェイス)』(http://www.originalmoomin.com)に編集し直した。
 オリジナルのアニメーションはガラス板のレイヤーを重ね合わせた撮影による奥行き感があり、保存状態が良かったため、1作目の『ムーミン谷の夏まつり』を見たプロデューサーらは2作目の『Moomins and the Comet Chase』を、人形劇のようなリアル感のある立体視3Dにすることにした。1作目同様の修復をした後、2D/3D変換は日本のクオリティエクスペリエンスデザイン(QXD、http://www.qxd.co.jp/)のソフトウェアを用い、細部の修正は手作業でおこなった。さらにフィンランドのUndoがデジタルエフェクトや3Dエレメントを追加した。テレビシリーズはナレーションだけだったが、キャラクターたちのセリフを加え、北欧のスターたちが声の出演をし、主題歌は、ムーミンの大ファンを自認する、アイスランドのビョークが作曲し、自ら歌った。30年の時を経て、北欧のメルヘンファンタジーが21世紀の映像技術で北欧初の3D映画として復活した。

■3Dテレビ
 立体視3Dはテレビへも広がる。薄型テレビの圧倒的な市場シェアを持つサムスン電子やLG電子、そしてパナソニック、ソニー、フィリップスが3Dテレビの発売を開始する。スポーツ観戦に向く3Dテレビはヨーロッパでも普及しそうだ。受信機が普及すればアニメーションの番組数増加は必然だ。フランスでは、Orange、EurosportそしてCanal+が3Dテレビ放送を表明している。
 3Dテレビでは、制作会社、放送局、そしてメーカーそれぞれの思惑が行き交う。メーカーは放送局へ番組増を迫るものの、France Télévisionsは慎重だ。こどもの身体的影響だけでなく、コスト高や制作期間が伸びるからだ。状況は制作会社も同様だ。さらに膨大な2D映像資産の立体3D化問題や、新規制作では2Dから3Dへの変換が良いか、最初から3Dで作るのが経済的かいう選択もある。

■3D映画の懸念
 3D映画は期待を集める一方で、ヨーロッパでも賛否が分かれる。過去のブームのように、今回も一時の騒ぎに過ぎないとする見方もある。3D映画があらゆる映画に適しているわけでなく、3D映画はスペクタルに過ぎないとする。また、目や心理などへの影響は未知なのに、成長途中のこどもに見せて良いのか?という不安だ。
 3D映画を活かす演出は新たな領域と指摘する声もある。立体視の制作環境に順応せねばならないアニメーターの負担も増える。立体視映像のエキスパート、“stereographer”という職種が必要になるという声もある。ヨーロッパでは、この20年間にCGを自在に操り、クオリティの高いデジタル・ポストプロダクションに手慣れた若い人材が育っているが、3D映画は新たな領域だ。ブームで終わるか、真の革新となるかは、これから数年の実績で分かれることになりそうだ。

第2回に続く