プロダクションI.G 石川光久社長インタビュー

2. 誰でも石川光久になれる

アニメアニメ(以下AA)
プロダクションI.Gさんがすごく面白いなと思うのは、非常に慎重なところがありながら、時として大胆な決断をするところがあって、このバランスが不思議だなとずっと思っていました。

石川光久氏(以下石川)
大胆なところは大胆にいかないと生まれないですよね。だから大胆な作品が生まれると思う。そういうときに悩んでいたら絶対にやめた方がいいだろうと。だからそこはすっきりといくんですよ

AA
先程お金の話が出たんですけど、プロデューサーのたぶん肝となる部分はその交渉のところだと思います。
これもまたプロダクションI.Gさんの凄いところで、カートゥーンネットワークやドリームワークスとかといった非常に大きなプレイヤーと次々と交渉を成立させてしまいます。これはなぜなんですか。

石川
あんまり理屈をしゃべらないからかなと思うんです。よく自分もこういう交渉ができたなとか、よくこんなお金になったなとか、後で気付くときはあるんです。
けれどもそのときは変に説得しようとか思ってないんじゃないかな。自分の気持ちをまず伝える。熱いものを伝えることが大事。この作品がいかに面白いんだとか、これがすごいんだということをどんどん言う。
あとは相手に時間を与えないですね。交渉ごとは時間を与えないことだと思うんです。考えさせないこと。外人に対しても、だいたいその手は使いますね。

AA
そのときに石川社長が何か信頼感を醸し出すというか、相手に伝える技があるのかなと感じるんですが。

石川
まず相手を好きになることじゃないですか。この人と付き合いたいなと。
付き合って契約を結ぶ人はだいたい好きになって、結構、すぽーんといって、向こうの家がどこだろうが遊びに行くというか、そういう身軽な感覚じゃないかな。
懐に入るというかね。相手に一瞬ほれるんですね。

AA
例えば優秀なアニメのプロデューサーにジブリの鈴木敏夫さんや小プロで「ポケモン」などをプロデュースする久保雅一さんとかいらっしゃると思うんです。皆さん、ざっくばらんに素直に発言してとても好感の持てる人物なんです。
けれどそういう誠実さは誠実さとして、別にビジネスの駆け引きもしているのでないかと思えるのです。石川社長も駆け引きは考えるものなのですか。

石川
鈴木さんとか久保さんは駆け引きですよね。すごく戦略的に相手に言わせて、それで自分の意見を言って、何というかすごく頭がいいですよね。
僕はどちらというと駆け引きというよりは周りを疲れさせないようには気をつけていますね。駆け引きの交渉をするのではなく、周りが自然と自分の力を最大減出せるように気を使っていますね。

AA
これまでのお話を伺っていると、非常に簡単そうに話されています。でも、実はとても難しいことと思うんです。
じゃあ、プロデューサーに誰かがなりたいと思ったときに、石川社長のようになれるのかなと考えると、やはり難しいような気がするんです。

石川
僕はなれると思います。十分なれますよ。ただなれないのは、みんなブレーキをかけちゃうんですね。ブレーキをいかにぽんと離せるかどうかだと思いますね。
アニメーションもそうだけど、プロデューサーとか、経営者とか、なりたいと思ったこともなければ、自分が今、社長というのもあんまりぴんとこないときもあるんです。自分が社長でいいのかなとか、プロデューサーと言っても何か中途半端だなとかね。

石川
自分が弱いというのは常に分かっているので、プロデューサーをやるにしても、社長をやるにしても、たぶん自分1人ではできないというのを知っているんですよ。自分の弱さは自分では埋まられないから人の力を借りる。それを常にすごく考えているから成長していくんじゃないかと思うんです。

自分の最大の欠点が何か分かっているから吸収する。どんどん相手から吸収したいというのがあるので、その力がすべてを生んでいるというか、それが人を呼びつけているというかね。
自分が必要としてなければ向こうだって来ないし、信用しているから相手も信用してくれる。これは当たり前のことなんですけど、みんな当たり前のことに関して疑心暗鬼になったり、そこで踏み込めなかったりブレーキをかけちゃうんですよ。

AA
そうするとリーダーシップというよりは、むしろ協調型ということですか。

石川
そこは自分でも分からないんですよね。協調型とリーダーシップって、自分でも分からない。狂気みたいなところがあるんです、何かかーっとくるという、これが自分でも分からないんですけど、それだけは譲れないみたいなものがあるんですよ。

これをいかにぐっと抑えつつ、常に爆発させていくようなところがある。協調性は自分では本質的には悪いんじゃないかと。
でも、協調性が悪いからその協調性をよくするように、いろいろ協調する自分を演じきっているのかもしれない。それも分からないんですよ。
だからすごく人と協調してやっていますけど、でもそれだけでもない、すごく熱くなるところがあるんですよね。かーっとこれでいいのかという。これは言葉にできないことです。

AA
最後に石川社長はアニメのプロデューサーとして非常に成功しました。それは間違いないと思うんです。
でもご自身としては、これから現在の成功からまだまださらに伸ばして行きたいというのはあるのですか。

石川
成功しているというのは、自分の感覚ではまったくないんです。けれどこういう場所(「劇的3時間SHOW」)を提供してくれたとか、例えばEOY(アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー)に選ばれる、どう考えても自分が選ばれるわけがないだろうと思っているんです。
それが選ばれるということは、たぶんこれは何か他の人が断ったから穴がすっぽり急に開いちゃったんだとか、そういうことを常に考えるんです。でもそれを逆にチャンスにしてやろうと思うんですね。

石川
選ばれたということは逆にチャンスだと。目標はどっちかといったら、他人がどんどん決めてくれるのをいかにつかむかだと思うんですね。だから、すべてが次のチャンスを生むための積み重ねだと思いますね。
あとは、働いているスタッフたちが嫉妬はしない気はするんですよね。何でうちのばか社長みたいなやつが、こんなところに選ばれたんだ、不思議だなと思っているぐらいの、この感覚が面白い。
だからうちの会社は面白いし、成長していくんじゃないかな。変なかたちにならないし、見栄も張らないし、だから面白いんだと自分はそう思っている。
成長の秘訣があるとしたら、常に自分は成長したいと、持ち続けるパワーは落ちてないこと。

成功については過去のことに関しては何の興味もないんだけど、これから成長したい気持ちは大きいですね。大きくしたいとはあんまり思わないけれども、成長はしたいんですよね。刺激を持ちたいんですよ。
だから周りの人間も成長したいという、そういう共同体にしたいんです。

AA
いいお話をありがとうございました。本日はありがとうございました