アヌシー2010開催(後編) 日本作品も活躍した短編部門

アヌシー2010、50周年記念開催
(後編)
日本からの作品も活躍した短編部門

オフィスH 伊藤裕美
[筆者の紹介]

伊藤裕美 (いとう ひろみ) 現職 オフィスH(あっしゅ)代表。
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
1999年より毎年、世界最大規模のアヌシー国際アニメーション・フェスティバルに参加し、プチ・セレブ気分でアニメーション三昧の1週間を過ごすのが趣味。
http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp

■優秀作が競った、短編部門
 アヌシーの華、短編部門賞では、グランプリのクリスタル賞はオーストラリア/イギリス合作、アンドリュー・ルヘマン(Andrew Ruhemann)とショーン・タン(Shaun Tan)共同監督の『The Lost Thing(忘れ物)』(Passion Pictures Australia)、審査員特別賞はノルウェーのアニータ・キリ(Anita Killi)の『Siina mann(Angry Man、激昂する男)』(Trollfilm)、Jean-Luc Xiberras最優秀初監督作品賞にトム・オゴマ(Tom Haugomat)とブリュノ・マニョク(Bruno Mangyoku)の『Jean-François(ジャンフランソワ)』(Cube Creative Productions)が受賞した。特別賞Special Distinction ex æquoは、カナダの逸材テオドール・ウシェフ(Theodore Ushev)の『Lipsett’s Diaries(アーサー・リプセットの日記)』(National Film Board of Canada)とトルコのトゥルグト・アカシック(Turgut Akacik)の 『Don’t Go(行くな)』(Anima Studios Istanbul)が受賞した。『Don’t Go(行くな)』は、こども審査員賞とダブル受賞となった。
 『The Lost Thing(忘れ物)』は、オーストリアのショーン・タンの同名絵本の3Dアニメーション短編。Passion Pictures(パッション・ピクチャーズ)は、アンドリュー・ルヘマンがロンドンで立ち上げ、ビデオクリップ、コマーシャルから長編映画まで制作する、ヨーロッパ有数の独立系スタジオの一つで、ドキュメンタリー映画『One Day in September』でオスカーを受賞している。『The Lost Thing(忘れ物)』は、複数の脚を持つ機械のような奇妙な生物を浜辺で見つけた少年がそれを誰かの忘れ物と思い、持ち主を捜すのだが、最後はそれにふさわしい場所に行きつく。タンの個性的な原画が活きるアニメーションだが、優秀作の多かった今年の短編部門にあっては、私感ながら、クリスタル賞としての説得力にやや欠ける気もする。ともあれ、2000年代になり短編部門と長編部門で各1回のクリスタル賞を獲得したオーストラリアの勢いは感じた。

 『Siina mann(Angry Man、激昂する男)』は、『Tornehekken(マレーネとフロリアン)』(2001年)で数々の栄誉に輝いた、ノルウェーの女性作家アニータ・キリの新作。こどもの目線で、未成熟な父親が暴力を振るい、家族に恐怖心をもたらす様をカットアウトなどの技法で描く。ノルウェーの牧場で羊とこどもたちに囲まれた生活から一つ一つ紡ぎ出されたアニメーションは見る者の心に染みる。観客賞とユニセフ賞も受賞した。
 『Jean-François(ジャンフランソワ)』は、パリのGobelins(ゴブラン)校を卒業し、ミュージックビデオの制作などに携わる、オゴマとマニョクが実写/写真を用いコンピュータで描いたアニメーション。そのグラフィックスセンスは群を抜いていた。
 短編部門には、今年のオスカーを受賞した『Logorama(ロゴラマ)』(フランソワ・アロー、エルヴェ・ドゥ・クレシー、ルドヴィク・ウプラン、H5)、ポーランド出身ベルリンで活動するイザベラ・プリュンスカの『Esterhazy(イースターハージー)』などの注目作が登場し、水準の高いコンペティションとなった。ヨーロッパでも人気の高い、押井守がGLAYのミュージックビデオとして制作した『Je t’aime』はカテゴリー違いの感は否めない。

 日本からの短編出品は増え、大山慶の『HAND SOAP』、ひだかしんさくの『恋するネズミ』、水江未来の『Playground』、長島敦子の『六畳と四畳半』が登場した。水江未来は、これまでもアウトオブコンペティションに選ばれており、不変のスタイルはヨーロッパにファンを得ているようだ。仔細にレタッチした写真素材から創るアニメーションが独創的で、新しいアニメーションアートを追求する大山慶は今後が期待される。
 日本作品では、Commissioned films(依頼された作品)部門の、川村真司、Hal Kirkland、ナカムラマギコ、中村将良による日米合作『日々の音色』が最優秀ミュージックビデオ賞に輝いた。世界のウェブカムから送られた“顔”のビデオをコラージュした短編で、世界中のアニメーション関係者が集うアヌシーの50歳の誕生日に適したテーマが評価されたようだ。

 コンペ短編部門の大賞にあたるクリスタル賞と特別賞の受賞作品は、翌年の米アカデミー賞にしばしばノミネートされる。アヌシーでの栄冠後にオスカーを手にした短編は、『Frank Film』、『Sand Castle』『Tango』、『A Greek Tragedy』、『The Man Who Planted Trees』、『The Old Man and the Sea』、『Father and Daughter』、『Peter and the Wolf』、『つみきのいえ(La Maison en Petits Cubes)』。今年の受賞作から、来年のオスカー作品はでるのだろうか。
 短編部門のプレゼンターはフランスの映画監督パトリス・ルコントが務めた。セレクションの基準にはユーモアセンスがあったようだ。Jean Teuleのベストセラー小説を原作に、『Dragon Hunters(ドラゴンハンター)』のTVシリーズと劇場公開版の監督を務めたアルテュール・クォック(Arthur Qwak)を招き、長編アニメーション『Le magasin des suicides(自殺用具専門店)』を制作するルコント監督は、「来年もこのステージに戻ってくる、受賞者として」と、Annecy2010を締めくくった。

2ページ(ヨーロッパが強い、学生部門)へ続く