成長期に差しかかった中国のアニメビジネス ~2017杭州アニメフェスティバルを訪ねて~ 第3回「WEBアニメの政府許諾はグレーゾーン」 | アニメ!アニメ!

成長期に差しかかった中国のアニメビジネス ~2017杭州アニメフェスティバルを訪ねて~ 第3回「WEBアニメの政府許諾はグレーゾーン」

実は華策を訪れて一番驚いたのは、そのスケールの壮大さではなく、チャン・イーモウのことであった。写真は外に掲示されていたポスターなのだが、見た瞬間バラエティ番組だとは分かったものの中心にいる人物が誰かは分からない。

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成長期に差しかかった中国のアニメビジネス
~2017杭州アニメフェスティバルを訪ねて~ 第3回「WEBアニメの政府許諾はグレーゾーン」
[増田弘道]

■チャン・イーモウ(張芸謀)がバラエティ!?の衝撃

実は華策を訪れて一番驚いたのは、そのスケールの壮大さではなく、チャン・イーモウのことであった。写真は外に掲示されていたポスターなのだが、見た瞬間バラエティ番組だとは分かったものの中心にいる人物が誰かは分からない。すると華策の知人がチャン・イーモウのバラエティ番組だと言う。よーく目を凝らして見ると確かにチャン・イーモウのようである。筆者は思わず「えーっ、これチャン・イーモウ?えーっ、バラエティって?」と声を上げてしまった。自分が持つ彼のイメージと余りにかけ離れていたので若干混乱してしまったようだ。チャン・イーモウと言えば『紅いコーリャン』であり、『菊豆(チュイトウ)』であり、『初恋のきた道』である。やや下って『HERO』や『LOVERS』といったエンタテインメント系に傾きながらも『単騎、千里を走る。』や『サンザシの樹の下で』などでバランスを保っていた。その間、北京オリンピックのオープニングとエンディングの演出を行う機会があり、文字通り中国の国民的映画監督となった。つい最近『グレート・ウォール』というハリウッドの大エンタメ作品(出資の大半は中国であるが)でメガホンを取ったばかりであるが、まさかバラエティを手がけているとは露ほども知らなかった。
聞けば2022年に北京で行われる冬季オリンピックに向けての『跨界氷雪王』(原題)というイギリスITVとの共同制作「強化バラエティ番組」なのだそうだ。日本で言えばバラエティの番組演出を黒澤明がやるようなものであろう。チャン・イーモウに対する認識が遅れているのかもしれないが、心底驚いた彼には実は「前科」があったのだ。中国で独身の日と言われる11月11日(ダブルイレブン)に行われたアリババ主催の中国EC祭『天猫11.11カーニバル』をバラエティ番組化したものがそれ。Tmall(天猫)という販売サイトで開催されたバーゲンセールをリアルタイムで追うものだが、昨年は11月11日の一日だけで何と1,207億人民元(1兆9,674億円)もあったとのこと。24時間テレビのEC版なのであろうが、ある意味「国民的番組」とも言えるそれを国民的監督のチャン・イーモウが演出したのである。もちろん製作は華策である。他にもジョン・ウーや先ほどのホウ・シャオシェンとも提携しているので彼らが演出するバラエティもあり得るかもしれない(ないと思うが)。

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■2016年中国テレビアニメ統計
この辺で2016年の中国アニメについての統計に触れてみたい。表2は毎年中国の国家広電総局発表のテレビアニメ制作分数である。これは国家広電総局が毎年発表する「国産テレビアニメ発行許可証」の作品リストに基づいて計算されたものであり、2016年でいえば261タイトル12万53分であった。しかし、タイトルに関しては同じシリーズでもシーズンによって別々にカウントされるケースが見られる。例えば中国の国民的作品である喜羊羊(シーヤンヤン)は6分×60話、6分×26話、6分×26話、15分×24話、15分×36話の5タイトルがリストに掲載されているので、実際はおそらく210~220タイトル程であると思われる。
そして制作分数は12万53分。これは日本のアニメ制作分数とほぼ同じである。しかしながら、実際はCFを除いた正味分数でカウントされているので、日本流の数え方だともっと多くなるが(注3)、グラフを見ても分かるとおり5年連続の減少となっている。2003年からアニメ制作に関する統計が発表されるようになった中国であるが、2000年代は政府主導のもと急激な伸びを示し、2011年にはなんと26万1200分と日本の3倍以上にもなった。ところが昨年のレポートでも書いたように、「安くてつくればたくさん売れる」という工業製品的発想の政府の旗振りは空振りに終わり、めぼしい実績が上がらないままに2012年から目に見えて制作分数が落ち始めた。一方で2010年代に入り徐々にアニメのビジネスモデルが浸透し(IPブーム)民間主導での成功例が生まれ始めた。要するに政府主導であった制作バブルの贅肉が取れたということであろうが、2014年から3年続く横ばい状態は中国における実需を示しているのではないかと思われる。


注3「日本流の数え方だともっと多くなる」:筆者が編集しているアニメ産業レポート(日本動画協会刊行)はCF含みの放送枠でカウントしている。一方中国ではそれを除いた正味分数で計算している(放送前に申請するため)。しかしながら広電総局のリストをみると、あるシリーズで年間25分×300話=7,500分も制作しているという記述が見られる。安徽省にある制作会社であるが、同じスタジオで異なるテレビシリーズを年間25分×250話=6,250分も制作している。また上海のあるスタジオは一つのシリーズを25分×150話年間3,750分制作しているとある。常識から考えるとこれほどの話数の制作は年間キャパ的にありえないのだが。果たしてどのようなシステムになっているのか機会があれば調べてみたい。

■アニメ製作の集積地

中国は国土も広いということもあり日本のような東京一極に集中といった状況は見られない。表3の中国各省テレビアニメ制作分数を見ると制作機能が各省に分散していることが分かる。といっても上位六省(広東省、浙江省、北京市、安徽省、上海市、江蘇省)でシェア79.6%になるので、中国のアニメはこの六大集積地で制作されているといっても過言ではないであろう。地理的には北の北京、長江デルタ(上海、浙江省、江蘇省)珠江デルタ(広州市、深圳市、香港)の三つの地域に集約されていると言える。


注4「日本のような東京一極に集中といった状況」:日本動画協会の調査によるとアニメスタジオ(背景美術や撮影、編集といったものを含む)の東京への集中は87.1%にもなる

■webアニメと政府の方針?
日本のアニメで育った中国の「80后(80年代生まれ)」「90后(90年代生まれ)」は大人になってもアニメを見続けるようになった。しかし中国は基本的にキッズアニメ中心で大人向けの作品はほとんどつくられていない。そのため日本のアニメがその間隙を埋めているのだが、最近中国でもその層を対象とした作品が制作されるようになった。日本のように深夜枠がないためそれらの作品は主にwebで配信されているのだが、果たして広電総局の「国産テレビアニメ発行許可証」を得ているのであろうか?これは日本のアニメにも関係してくることなのでちょっと探ってみた。
結論から言うと、イエスでもあり、ノーでもあった。なぜなら配信サイト大手の愛奇芸(iQIY)制作の配信のみの作品であっても、しっかり申請して許可証をもらっているのに対し(『聖戦ケルベスロ』も含まれていた)、テンセントなどの他の大手は何もしていない。ドラマの世界では2016年1月からweb配信作品であっても「国産電視劇(テレビドラマ)発行許可証」がなければネット配信ができなくなり、2017年2月から「広播電視番組制作経営許可証明」がなければ制作もできなくなったが、アニメに対してはそこまで明確な通達はまだない。今年に入って申請するサイト系の制作会社もそれなりに現れてはいるようだが、今のところアニメはまだ社会的影響力が少ないと見做されているため、政策面でまだ明確な指針が出ていない。したがってグレーゾーンに置かれているというのが真相のようだ。ただしwebであっても「備案号(登録番号)」必ず必要とのこと。いつこれが審査の対象となるかどうかは今のところだ誰も分からない。

第4回に続く

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]
《増田弘道》
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