161万人もの人々を集客した、中国国際アニメフェア。 現地アニメスタジオの実力は如何の程に?

161万人もの人々を集客した、中国国際アニメフェア。
現地アニメスタジオの実力は如何の程に?

中村彰憲 (なかむら あきのり)
[筆者の紹介]
立命館大学 映像学部 准教授/博士(学術)
名古屋大学国際開発研究科修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センターを経て立命館へ。その間、一貫して海外(主にアジア、東欧)を中心としたゲーム産業の動向と国際分業の可能性について研究を進める。研究を継続するうちに、ゲーム業界とCG、アニメ業界との密接な関係を実感し、研究対象の領域も拡大。
最近の代表的な著作に『グローバルゲームビジネス徹底研究』(エンターブレイン)、『デジタルゲームの教科書』(第6章アジア圏のゲームシーン:ソフトバンククリエイティブ)などがある。
Gamebusinessjpでは、「ゲームビジネス新潮流」を連載中。

5月初旬の国際アニメフェアでは、161万人ものひとが会場に押し寄せ連日人の荒波の中で圧倒されたがその多くの観衆は国産コンテンツを求めて集まってきた。前回の特集で紹介した、「秦時明月」に加え、今年最新作を上映し、1億元以上の興行収益をたたきあげた「喜羊羊と灰太狼」も掲示されてい大ポスターのもとで記念撮影をする人が後を絶たないなど人気を博していた。
中国向け国産アニメの生産量は05年以降、不断で増加している。国家広電総局は09年度に制作された国産アニメは322作品17万1816分であると発表した。今でこそ空前のアニメ制作ブームといも言える中国だが、そのような状況になる以前からアニメを作り続けてきたスタジオもある。しかも創業時から一貫してアニメに対する強い思いをもって制作を進めてきているのがその特徴だ。そこで、ここではVasoon Animationを紹介したい。
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一人の女性のアニメに対する強い思いが起業につながった-Vasoon Animation

Vasoonアニメションは北京に所在する100人規模の老舗アニメスタジオだ。ただ、中国版NHKであるCCTV傘下の大手アニメスタジオなどとの違いはアニメをつくりたいという同志たちの思いで設立されたというころだろう。同社は96年に武寒青さんが北京大学時代及び映像プロダクション時代の職場での仲間を集めて組織したスタジオなのだ。創業前は、北京電影プロダクションに在籍し、数多くのテレビ番組を手がけていた武氏。当時から、テレビ番組において子供向け番組が少なかったことを痛感していたという。そこでVasoonアニメーションを創業後、まず最初に取り組んだのが子供向けのアニメ『飛天小猿王』だ。だが、驚いたのは、視聴者の反応だったという。「作品を見てくれたのは子供たちだけではなかったんです。大学生の人にも見ていただいていました」。
ただし、中国における一般的な認識は、アニメ=子供向けという事実は変わらなかった。従って、Vasoonとして制作するアニメも子供をメインターゲットとして意識し、教育を意識した作品である『学問猫教漢字』を制作。だがその意識に大きなインパクトを与えたのが90年代末。知人が日本からのお土産としても持ち帰った、レーザーディスクだったという。「宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』と『海がきこえる』には特に驚きました」武氏はそう当時を述懐する。「アニメが表現として藝術になるんだ、より高い年齢が視聴することを想定した作品制作が出来るんだ。」

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宮崎駿監督からインスピレーションを得て、一般の客層を意識したテーマのアニメも制作

この経験を反映するかのようにVasoonも98年には中高学生層以上を対象としたアニメ『透明盾:Secret War』を制作した。同作は、国家安全法を啓蒙するスパイ同士の熾烈な戦いを描いた作品だが、これは中国アニメ史最初の青年向けアニメであると言われているという。以降は、『学問猫』シリーズ第二弾、『学問猫説歴史』や『小明和王猫(明くんと猫の王)』いった子供向けアニメを制作しつつ、中高生もターゲットとして意識したファンタジー冒険アニメ『英雄七個半』を制作。そして現在満を期して制作中なのが、西遊記を近未来的冒険アドベンチャー、霊山王』と、同古典をモチーフにしながらより高い年齢層を意識した『Diety Hunter』、この作品は、主人公の孫悟空は青年という設定。一方、『地蔵』は死と救いをテーマにした野心作だ。「いまは産業のバリューチェーンを連携させたコンテンツが少ない」と武氏は現在の中国におけるアニメ産業の課題を指摘する。「だが、どこかの企業が下請けになるというのは望まない。全ての関連企業が利益を得る必要がある。新プロジェクトのために玩具企業などとの接触をはじめた。PCゲームやオンラインゲーム開発スタジオとの連携も進めていきたい。」
国際動漫フェアの動向を見れば、中国の人々は、より豊かな生活とエンターテインメントを求めるようになってきている。そのような中で今カンヌ出展も果たしたVasoon Animation。中国国内並びに世界のアニメファンが如何に受け入れていくのかが注目される。そして、クリエイターの意識の覚醒が進む現在こそ、中国コンテンツ産業における革命期なのかもしれない。