米国で激化するアニメ配信ビジネス アクセス数が論争に

 インターネットを通じたアニメ動画配信ビジネスが国内外で拡大している。国内では現在、各話ごとの有料配信やテレビ放送と連動した無料配信など様々なサービスが見られるようになっている。
 アニメ動画配信サービスの量の拡大と多様化は、海外でも進んでいる。特に米国では2009年初頭にクランチロールによる有料配信開始をきっかけに、わずか1年あまりで日本アニメの動画配信ビジネスが急激に広がった。クランチロールのほかにファニメーション(FUNimation Entertainment)やVIZメディア、あるいは4Kidsエンタテインメントなど、アニメーション専門サイトだけでも数多い。
 そして、サービスの拡大と共に、ビジネスの競争も拡大している。そうしたアニメ配信ビジネスの激化を窺わせる出来事がこの5月に起き、米国のアニメファンや業界関係者の関心を集めている。

 ことの発端は米国の日本アニメビジネス最大手ファニメーション(FUNimation Entertainment)が4月28日に発表したプレスリリースである。このプレスリリースは、ファニメーションが2009年に立ち上げたアニメ配信サイトの急成長ぶりをアピールするものだった。
 リリースによれば、同社のアニメ配信の視聴回数は1年で3倍(200%増加)、過去3ヶ月間で平均15%の成長をした。今後も大きな成長を目指すという。ファニメーションは、日本アニメのDVDパッケージの最大手、市場の縮小が続く映像パッケージ事業からインターネット配信へビジネス領域を広げつつある。

 これに対抗するかたちで5月3日に、日本アニメ配信の大手クランチロールが、2010年第1四半期の事業報告としてプレスリリースを発表した。こちらは収入の大幅な伸びとアクセス数の大きさを誇るものだ。
 ただし、関係者を脅かせたのは通常のプレスリリースと異なり、ライバル会社であるファニメーションの名前に具体的に言及し、自社の配信サービスを誇示したことだ。クランチロールによれば過去6ヶ月間に同社のユニークビジター数は25%増加したが、ファニメーションの増加率は7%だという。さらにクランチロールの過去1ヶ月間の米国でのユニークビジター数が133万6000人に対して、ファニメーションのそれは15万7400人だとし、自社のサービスの優位性をアピールした。

 さらに5月7日には、ファニメーションが複数のアニメ情報サイトで、クランチロールの言及した数字に反論を行っている。ファニメーションは、大手動画サイトHulu、YouTube、アニメ専門サイトAnime News Network、さらにDISHやComcast、Time Warner CableをはじめとするIPTVなど180以上のサイトに番組の再配信を行っている。しかし、クランチロールの言及した数字にはこの再配信分は含まれていないという。
 またファニメーションは米国のみでビジネスを行うが、クランチロールは全世界でビジネスを展開する点を指摘する。そのうえで今年3月の視聴回数はファニメーションが米国だけで5500万回、クランチロールは全世界で2810万回だとする。

 こうしたアクセス数、視聴回数の比較は、実際には計測方法・ソフト、計測機関によってブレが大きい。本来はどちらのアクセス数がより多いと正確に判断することは難しい。
 むしろ、興味深いのは、こうした比較の難しい数字を持ち出して、これまでの米国アニメ業界であまりなかったライバル企業攻撃型のマーケティング戦略が採られたことだ。こうしたアピールは現地のアニメファン、それ以上に日本の権利者に向けたデモストレーションとみられる。つまり、自社サービスがより優れた番組プロモーション効果を発揮出来る、だからインターネット配信権利を自社に渡して欲しいというわけである。

 米国でのアニメのネット向けの配信ビジネスは、現状では利益が出ていないケースが多い。それでも未来のビジネスだけに、力が入る。一方で、インターネットのプラットフォームビジネスは単一企業が市場と利益を独占する傾向が強い。複数の有力企業が並列するアニメのDVD市場とは異なるビジネスだ。
 アニメの動画は新ビジネスで優位に立つためには、人気作品を独占的に確保することが重要となる。結果として昨年来、米国でのインターネット送信権の獲得競争が激化している。

 その中でクランチロールはテレビ東京の作品を中心にラインナップを充実させている。一方で、ファニメーションは、東映アニメーションから人気アニメ『ONE PIECE』、アニプレックスからは『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』を独占的に配信する権利を獲得した。両社は激しく競り合っている状況だ。
 日本の権利者にとってクランチロールの魅力は、有料視聴と広告からの収入でサイトを維持している点である。そうした事業活動から得た収入は、クランチロールと権利保有者の間で分けられ、収益が発生する。
 一方、ファニメーションの利点は、映像パッケージやキャラクターライセンスなどを同時に展開する力を持っている点だ。配信をプロモーションと割り切るのであれば、ファニメーションの総合的なマーケティング力は無視出来ない。両社の配信ビジネスの違いは、今後の米国でのアニメ配信の在り方、考え方の違いも反映している。その成否は、アニメ配信ビジネスの未来にも影響を与えるのかもしれない。