米国老舗コミック出版が日本マンガ発売 第1弾に萩尾望都

 米国コミックス、グラフィックノベルの老舗出版社ファンタグラフィックス・ブック(Fantagraphics Books)が、新たに日本マンガの翻訳出版に乗り出す。まず2010年9月に少女マンガの巨匠萩尾望都さんの短編集『A Drunken Dream』を、続いて12月に志村貴子さんの『放蕩息子』を発刊する。価格は未定だが、クオリティのある作品を重視するファンタグラフィックスらしいハードカバーとなる予定だ。

 萩尾望都さんの短編集『A Drunken Dream』は、1971年から2007年の間に発表された短編を集めたものとなる。多彩なジャンルで活躍する萩尾望都さんの豊かな才能を紹介する。
 ファンタグラフィックスは今回のマンガ出版の開始を記念して、萩尾望都さんを特別ゲストとして7月22日から25日まで行われる全米最大のポップカルチャーイベン サンディエゴ・コミコンに招くことも明らかにした。これは萩尾望都さんの初の訪米となるという。滞在期間中に萩尾望都さんは、講演会やパネルイベントなどに参加する。日本でも最も知られた少女マンガ家萩尾望都さんが、本格的に米国で紹介される。

 一方、『放浪息子』は女の子になりたい男の子と男の子になりたいことをテーマにした作品である。米国では関心を持たれることが多いジェンダーを扱っており、話題を呼びそうだ。
 志村貴子さんは、国内では『青い花』でも知られている。『青い花』は2009年にテレビアニメ化もされており、女子高生同士の恋愛を扱ったテーマで注目を集めた。

 ファンタグラフィックス・ブックは1976年に設立、コミックをアート、文学として位置づけた雑誌「The Comics Journal」と伴に出版事業を開始した。コミックス、グラフィックノベル、また成人向けのコンテンツでも定評がある。
 日本では米国のコミックス出版社としてマーベル・コミックスやDCコミックスの名前がよく知られているが、同国にはそれ以外のコミックス出版社は数多い。そうした出版社の多くは、よりコアでハイターゲットな作品を中心に発刊を行っている。実際にアイズナー賞など、米国コミックスの賞などを受賞するのもこうした出版社の作品が多い。
  
 ファンタグラフィックスも、そうした出版社のひとつだ。今回はそうした文化の多様性として、マンガを取り上げる面も強い。このため翻訳出版も、大手のVIZメディアやTOKYOPOP、デルレイとは異なったかたちで行われる。特徴となるのはハードカバーでの出版となることだ。
 米国のコミックス出版は、一般的にはパンフレット体裁のコミックスと書籍体裁のグラフィックノベルに分けられる。そして、このグラフィックノベルの中に、米国コミックスのハードカバー版、日本マンガの単行本に分けられる。
 同じグラフィックノベルだが、米国コミックスは高価格のハードカバーが多く、マンガはより廉価なペーパーバックが多いといった傾向がある。今回の発売はより高価なハードカバーとしており、『NARUTO』や『ONE PIECE』に代表される子供向けの出版とは一線を画す。

 こうしたハイターゲット路線は、同じくハードカバーで手塚作品や竹宮恵子さんの『地球へ』などを発売するバーティカル(Vertical Inc)の戦略に近い。また、大衆路線への志向が強いVIZメディアも、近年はVIZ Signatureのブランドでより年齢の高い層に向けたマーケティングを強化している。ファンタグラフィックスの今回のマンガ進出もこうした新たなトレンドを反映していそうだ。
 こうした動きが日本やアジア、ヨーロッパと較べて、少年層以外のマンガ市場を十分開拓出来ていない北米市場に新たな風を送りこむことになるかもしれない。米国の翻訳マンガ出版は最新作が好まれる傾向が強く、今回の萩尾望都さんに限らず、日本の名作、名作家が意外なほど紹介されていない。今後の展開が期待される。
 
ファンタグラフィックス・ブック(Fantagraphics Books)
http://www.fantagraphics.com/