ガンダムUCの挑戦 変わるアニメのウィンドウ戦略

数土直志

【脱テレビ?『ガンダムUC』の驚き】

 少し早いが2010年のアニメ界を予測してみて欲しい。2010年の注目の作品は何だろうか?数ある作品の筆頭に、『機動戦士ガンダムUC』が加わることは間違いないだろう。何しろ「ガンダム」は、いまや国民的キャラクターブランドである。その最新作、しかも人気の高い宇宙世紀のシリーズと来れば、アニメ雑誌でなくても取上げたくなる興味あるタイトルだ。
 しかし、2010年に『ガンダムUC』が注目されなければいけないのは、作品それ自体だけでない。むしろ、『ガンダムUC』が現在進めるビジネス戦略のほうが、アニメ業界全体にとってより重要でないだろうか。

 2007年からアニメ業界が下方トレンドに入ったことは、既にたびたび指摘されている。その理由には作品の過当競争や特にマニア向けの作品の収益を支えてきた映像パッケージ市場の売上げ不振がある。こうした混迷を抜け出すべく、様々な企業が様々な試みを行っている。
 その最もドラステックな挑戦が、『ガンダムUC』である。『ガンダムUC』の挑戦、それはすなわち「脱テレビ」である。長年テレビというメディアに深く依存して来たアニメ業界の中で、これまでのビジネスの在り方に真正面から挑戦するかたちだ。

 これまでアニメ作品は、例外は多いとしても地上波テレビ、あるいはその代替としてのU局ネットから作品の公開をスタートしている。アニメ公開の第1ウィンドウは地上波でのテレビ放映、その後にインターネット配信、有料ケーブルチャンネル、映像パッケージの発売などが続く。
 ところが、10月25日にバンダイナムコグループが発表した2010年の『ガンダムUC』のメディア展開には、テレビ放映が含まれない。Blu‐Ray DiscとDVDの発売日、PlayStationStore(PSS)での配信開始、さらに劇場イベントでの先行上映が組み合わせられる。少なからぬ人が、「テレビ放映はないのか?」と考えただろう。ガンダムほどの大型シリーズの展開には、テレビ放映こそが相応しいと思えるからだ。
 現状で全てのビジネス戦略を発表していない『ガンダムUC』が、今後テレビ放映を発表することはあるかもしれない。しかし、それは二次的なものに過ぎない。劇場とネット、そして映像パッケージと海外マーケットを同時展開するストラテージを組む『ガンダムUC』のビジネスの中心に、テレビ放映は位置していない。

 テレビ放映がない一方で、イベント上映と名を打って全国5都市で2週間限定の劇場公開(発表では上映としか述べてない)を行うのが今回の展開の大きな特徴だ。
 その変則的な公開もさることながら、劇場上映とネット(PSS)の同時配信、それに期間を置かない映像パッケージの発売は、これまでにあまりないウィンドウ戦略となる。

 つまり、これまで一般的だった「テレビ→映像パッケージ」or「映像パッケージ発売単独」であったウィンドウ戦略が、「劇場上映+ネット有料配信+映像パッケージ全て同時」という新しいかたちに移行している。ここでは劇場とネットの重要性が増している。
 劇場公開の重視は、2008年からアニメ業界を覆う大きなトレンドである。そして、一方でネット発の有料展開は、これまで多くの試みが行われ、必ずしもうまく行っていないビジネスである。
 劇場=イベントというオールドメディアとPSSでの配信という最も新しいメディアが結びつくことで新たなビジネスを生み出したい、バンダイナムコグループはそう考えているようだ。

2に続く