北米のマンガ事情 第24回 「アメリカのコミックス業界で活躍するジョー・チェンの日本デビュー」 中編

 

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情 第24回
「アメリカのコミックス業界で活躍するジョー・チェン(Jo Chen)の日本デビュー」‐中編‐

椎名 ゆかり

『Racer X』
『Racer X』

<ジョー・チェンのアメリカでのキャリア>

ジョー・チェンは1976年生まれの女性で、台湾に生まれた。幼い時から母国台湾や日本などアジアのマンガに数多く触れて育ち、姉の影響でマンガを描き始めて14歳の時に初めての同人誌を台湾で出している。1994年、19 歳の時にアメリカに移住するが、台湾でも活動を続け、1998年には台湾で商業デビューしている。

その同年、チェンのウエブサイトを見たWildstorm(バットマンやスーパーマンで知られるDCコミックスのインプリント)から声がかかり、チェンは2000年、24歳の時にアメリカデビューを果たす。その時の作品は『マッハ GO GO GO』、英語名『Speed Racer』のスピンオフ作品『Racer X』。アメリカでは、コミックブックの表紙とコマ割りのある中のページの絵を別のアーティストが担当することも多いが、『Racer X』でチェンは表紙だけでなく、中のページも手がけた。

この作品を皮切りとして、アメリカ、カナダの出版社からチェンのもとに次々に仕事が舞い込み、チェンは表紙を描くカバー・アーティストとしての地位をアメリカのコミックス業界に築いた。冒頭に取り上げた単行本の帯に「アメコミ超大手マーベル、ダークホース、DCコミックの大人気作家」とあるのは主にこのカバー・アーティストとしての仕事である。

表紙の絵を主な仕事にしていることについて、チェンはインタビュー(*2)に答えて、コマ割りのあるページの絵をやらないと決めているわけではないとしながらも、アメリカのコミックスによくある、下書き・ペン入れ・カラーリング等を別の人が行う分業の体制よりも、下書きからカラーリングまで自分ですべてを行えるカバーの仕事のほうを好むと説明している。

カバー・アーティストとしてのチェンの名を一躍有名にしたのは恐らく、マーベルの『Runaways』とダークホースの『Buffy the Vampire Slayer』だろう。人気ライターBrian K. Vaughanによる『Runaways』は、ヴィランを親に持つティーンエイジャーの逃走を描く群像劇。『Buffy the Vampire Slayer』は日本で『バフィー ~恋する十字架~』として知られるドラマのコミカライズである。特に後者は、キャラクターをドラマで演じる俳優たちに似せてリアルなタッチで描きながら、コミックスの表紙としての動きも両立させ、チェンのアーティストの力量を示したと言われた。

『Runaways』
『Runaways』

上記2作や『In These Words』の表紙からもわかるように、ペイント系(英語ではphotorealisticなど)とも呼ばれるリアルな絵柄でのカバー・アートで知られるチェンだが、以前はかなり日本マンガに近い絵柄で描いていたこともある。台湾で1998年に出版された『The Other Side of the Mirror』は、『In These Words』とは違って多田由美によく似た絵柄の作品だ。(後にこの作品は、アメリカの出版社TOKYOPOPから英語版も出版された。)チェンのサイト(⁂)によると、好きなアーティストとしてアメリカやヨーロッパのアーティスト(Scott Hampton、Frank Frazetta、Simon Bizley他)に並んで日本人マンガ家の安彦良和、多田由美、手塚治虫の名前が挙げられている。

上で取り上げた「ダ・ヴィンチNEWS」の記事では、“アメコミ”のイメージとして「原色のようなはっきりとした色のフルカラーに、太い輪郭線で描かれた筋肉ムキムキの男女の絵」を挙げている。しかし、チェンをはじめ当然このステレオタイプに当てはまらないアメリカのコミックスはたくさんある。現在のチェンのアメリカでの作品を日本マンガ的と捉えるか、そうでないかは人によると思うが、チェンのようなアジア系で、日本マンガに影響を受けたと思われる絵柄のアーティストはアメリカのコミックス業界で数々活躍してきている。

*2 http://vimeo.com/28598996
*3 http://jo-chen.com/engpage/engpage.htm

後編に続く