北米のマンガ事情 第22回 「アメリカのコミックスは本当にスーパーヒーローばかりなのか」‐後編‐

 

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情 第22回
「アメリカのコミックスは本当にスーパーヒーローばかりなのか」‐後編‐

椎名ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員として勤務中。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

 

<スーパーヒーロー以外の作品の隆盛>

繰り返すと、筆者の仮説は以下の通りである。

80年代から徐々に高まってきたグラフィック・ノベルの認知度が、21世紀に入り一般書店で売られるようになって更に高まった。それにより、コミックスは新規の読者を獲得し、スーパーヒーロー以外のコミックス作品が一般に知られる要因のひとつとなった。

しかし、たとえこの仮説が正しいとしても、これまでの解説には検証すべき点はたくさん残っている。

例えば、新規の読者が本当に増えたのか厳密に調べる術はない。コミックス専門店でグラフィック・ノベルを買う読者と一般書籍でグラフィック・ノベルを買う読者がどの程度かぶっているのかもわからない。コミックス全体の市場規模は売上高で言うと年々上昇しているが、新しい読者だけでなく、以前からいるコミックス愛好者のひとりあたりの購入部数も増えた可能性も否定できない。

更に検証が必要な点を挙げると、スーパーヒーロー以外の作品への認知度が高まった理由には、実際に以前よりもスーパーヒーローでない作品が増えたからという仮説も立て得る。もしそうなら、アーティストの権利意識の高まりもその要因のひとつだろう。
大手出版社の既存のスーパーヒーロー作品を手がけることは多くの読者を保証し、ある種の名誉は約束してくれるが、自分の作品の著作権を放棄しなければならないことから、それを嫌ったアーティストが自分のオリジナル作品を積極的に出版する傾向が近年見られるようになった。
(オリジナルのスーパーヒーロー作品を手がけるアーティストもたくさんいる。)
しかも、Imageのように準大手のコミックス出版社がオリジナル作品の持ち込みを積極的に受け入れるようになったことも、オリジナル制作へのアーティストのモチベーションを高めただろう。
 

(C)Getty Images
(C)Getty Images

個人的に気になっているのは、コミック・ストリップだ。冒頭で「スヌーピー」を挙げたが、新聞に連載していた「スヌーピー」など、コミック・ストリップは2000代に入るずっと以前から、早いものは60年代から本にまとめられて出版されてきた。多くの場合、コミックスを専門にする出版社ではないところから出版され、よく売れていたらしいが、コミック・ストリップをまとめた本がグラフィック・ノベルとして語られているのを見るのは稀である。

ただし、コミックスの出版社として知られたところから出たコミック・ストリップの本はグラフィック・ノベルとして語られることもあるようなので判断が難しい。そこで推測すると、一般にコミック・ストリップはコミックスとして認識されていないのではないか。
つまり、コミックスを専門とする出版社から出た本を例外として、グラフィック・ノベルはあくまでコミックスの本のことであって、コミック・ストリップの本はグラフィック・ノベルとしてみなされない、ということなのかもしれないが、実際のところはよくわからない。

まだまだ検証すべき点はたくさんあるが、例示はここまでにしておこう。

最後に、スーパーヒーローを扱うハリウッド映画とコミックスについて少しだけ触れておこう。スーパーヒーロー映画がこれだけ隆盛なのに、どうしてスーパーヒーロー作品のグラフィック・ノベルの売上につながらないのか、と疑問を持つ人も多いだろう。

それは恐らく、これまで映画が作られても特定の作品が映画化されることはそれほど多くなく、映画のストーリーは映画オリジナルの場合が多かった点にある。逆に言うと、映画原作としてグラフィック・ノベルを売るのが難しかったのである。

既に人気作品だった『ウォーキング・デッド』がテレビドラマの成功で更によく売れている。2013年ではコミック・ブックとグラフィック・ノベルの両方で2冠を達成した。映像化の成功が原作のコミックスの売上に最も直結した作品と言われる『ウォーキング・デッド』は、その制作者に巨万の富をもたらし、コミックスの原作の商品価値に制作者と出版社の目をあらためて向けさせた。
これからは今まで以上に、スーパーヒーロー以外の作品でも、映像化権を売ることを狙ったコミックスが出版されるようになるのかもしれない。
 

(C)Getty Images
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