
[取材・構成 オフィスH 伊藤裕美]
ブラジルのアニメーションに注目が集まっている。世界最大規模のアニメーション映画祭であるアヌシーで今年、ブラジルの長編アニメーション『Rio 2096: A Story of Love and Fury(訳:リオ2096年:愛と激怒の物語)』が長編部門の最優秀賞クリスタルを受賞した。
リオデジャネイロとサンパウロの2都市では、8万人近い市民を集める、アニメーション映画祭がある。21回目を数えた「Anima Mundi(アニマ・ムンディ=世界のアニメーション)」だ。親子連れでも気軽に世界のアニメーションを楽しめる市民参加型映画祭であると同時に、ブラジル・アニメーションの成長を支えるビジネスフォーラムの顔を持つ。
■ ブラジル経済界が注目する、アニメーション映画祭
8月2日に始まった映画祭は、リオデジャネイロで10日間、その後サンパウロに移り8月14日から18日まで、延べ15日間開催された。初日から会場にはこども連れが目立った。
1,406本の応募作品から選ばれた、短編と長編の最新アニメーションがコンペティションに並び、名匠の回顧上映があるのは他と変わらないが、市民に開かれた映画祭の工夫がある。こども向けの特別編成が充実しており、親子連れが買い求めたチケットは5万5,000枚近く売れた。

アニマ・ムンディは4人の若きアニメーター、Aida Queiróz(アイーダ・ケイロス)氏、Cesar Coelho(セザール・コエーリョ)氏、Léa Zagury(レア・ザブリィ)氏、Marcos Magalhães(マルコス・マガリャンイス)氏が始めた。4人は1985年、カナダ国立映画制作庁(NFB)とブラジル映画制作庁(Embrafilme)によるアニメーションのマスターコースで出会った。彼らはNFBの短編名作を知り、ブラジルのアニメーションの未来を語り合った。7年後に再会し、ブラジル市民にアニメーション文化を広めようと、「Anima Mundi(アニマ・ムンディ)」を立ち上げた。
以来、フェスティバルは市民の間に広がり、ブラジル文化省、リオデジャネイロとサンパウロ両市といった行政組織だけでなく、ブラジルの大手企業であるペトロブラス(ブラジル石油公社)やブラジル電力、そしてブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)もスポンサーに名を連ね、経済界も注目する。
■ ブラジルのアニメーション産業
ブラジルのアニメーションはこの10年で産業化した。そのためアニメーターが不足していて、「教育の整備は急務」とコエーリョ氏は指摘する。今活躍しているアニメーターや監督の多くは、美術・デザインの教育を受け、アニメーションは独学だ。実写の制作会社がアニメーションへ参入したり、アニメーションの制作会社との共同製作も増えている。
アニマ・ムンディに参加したアニメーション監督・作家5名にインタビューをした。Marão FilmesのMarcelo Marão(マルセロ・マラオン)氏、Diogo Viegas(ディオゴ・ヴィエガス)氏、2D LabのAndrés Lieban(アンドレス・リエバン)氏とAndré Breitman(アンドレ・ブリーチマン)氏、そしてCopa StudioのZé Brandão(ゼ・ブランダォン)氏は、二十代後半から三十代前半で、独学でアニメーション技法を身つけ、テレビシリーズや広告宣伝のアニメーションを制作する。Marão Filmesと2D Labは長編も手掛ける。

彼らはカナダと組むことが多い。英語圏・フランス語圏と関係が強く、公的支援が整備されているカナダとは出資、脚本、英語の声優など、組むメリットがある。英国やアルゼンチンとの関係も強めている。英国は配給も強く、映画とアニメーションの歴史があるアルゼンチンはブラジルに来て働くアニメーターが増えているという。
アニメーション放送は、2008年に開局したターナー・ブロードキャスティング・システム傘下の「Tooncast(トゥーンキャスト)」が筆頭で、ポルトガル語とスペイン語で放送するラテンアメリアのケーブルテレビだ。アメリカンカートゥーンの新旧アニメを24時間ノンストップ放送する。米国の専門局Disney Channel(ディズニー・チャンネル)、Discovery KIDS(ディスカバリー・キッズ)もある。
日本アニメはマニアの間では人気があるが、こどもたちはディズニーやカートゥーン・ネットワーク、あるいはピクサーやドリームワークスなどのアメリカンカートゥーンで育つ。ブラジルでは最初からリップシンクを英語でおこない、自国のポルトガル語の音声をつける。