
(c) National Film Board of Canada, Copperheart Entertainment, Seneca College Animation Arts Center
第37回アヌシー国際アニメーション・フェスティバル、Annecy 2013
カナダから新アートディレクターを迎え、地球規模で拡大するアニメーション映画祭
自信強める、ヨーロッパのアニメーション
取材・文: 伊藤裕美(オフィスH)
■ 新アートディレクター、マルセル・ジャン氏、「新しいことに挑戦する」
アヌシーはコンペティションの一次選考を、昨年から内部でおこなっている。新アートディレクターのジャン氏にその理由を尋ねると、
「外部の審査員では、アヌシーに集まり、2週間程度で応募作品を見て選考という、厳しいスケジュールになる。内部でおこなえば、応募締め切りから3ヶ月掛けて選考できる。世界の映画祭で観ている応募作もあるから、さほど負担でない」と、今後も継続する。
一次選考でジャン氏は「世界のアニメーションのリアリスティックな面、多様性を重視した」。「毎回、新しいことに挑戦する」として、今回は特別賞「観客が選んだ、一番おもしろいショートアニメーション」を、アレクセイ・アレクセーフ監督の『KJFG No5』に贈呈した。
またAnimation Off-Limitsプログラムでは、アニメーションの定義/境界が問われる今日、ボーダーライン上の作品を選び、4つのテーマに分けて上映した。
ヨーロッパでは劇場公開作の3D立体視が多いものの、EUのアニメーション振興をおこなう民間組織CARTOON(カートゥーン)が運営する、新プロジェクトのピッチ「Cartoon Movie(カートゥーン・ムービー)」では今年、3D立体視のプロジェクトが減少した。観客に食傷感が出てきているのだろう。
テレビでも3DCGが大量に放映され、視聴者は「手作りアニメーション」も求めていると、フランスのプロデューサーは指摘する。1990年代から広がったCG技法は技術とアート性両面で成熟し、近年の傾向として、複数の技法の“ミックステクノロジー”が増えている。デジタル・コンポジット(デジタル合成)の利用が普及し、腕の良いデジタル・コンポジターは引く手数多と聞く。
短編部門最優秀賞を受賞した、クリス・ランドレス監督の『Subconscious Password(邦訳:意識下のパスワード)』(製作:National Film Board of Canada、Copperheart Entertainment、Seneca College Animation Arts Center)は3Dと2DのCGアニメーションに、ランドレス自身が登場するロトスコープ、カットアウトアニメーションも用いられた。
同部門の子ども審査員賞等を受賞した、ダニエル・スーザ監督の『Feral』(米国)は手書き背景と2Dキャラクター、初監督作品への特別賞のポール・ウィニンガー監督の『Trespass』(オーストラリア)は実写映像・写真と2Dの合成だった。受賞に至らなかったが、フランスのアメリ・アッロー監督の『Mademoiselle Kiki et les Montparnos』(製作:Les 3 Ours)は、20世紀前半モイズ・キスリングや藤田嗣治、写真家のマン・レイ等のモデルを務めた“モンパルナスのキキ”の一生を、手書きのさまざまな技法で描き、デジタル・コンポジットで仕上げた。
一方、ストップモーション・アニメーションでも、ストーリーテリングに優れた注目作が受賞した。同部門の特別賞を受けたエストニアのAndres Tenusaar監督は『Triangle Affair(邦訳:トライアングル・アフェアー)』(製作:Nukufilm)で、人の指が顔になっているパペットの掃除婦たちを大都会に隠れた“三角形と動き”の迷宮へ迷い込ませた。そして観客賞のオーグスト・ザノヴェロ監督の『Lettres de femmes』(製作:Pictor Media、Xbo _Films)はパペット、カットアウトのアニメーションに実写を加えたミックステクノロジーながら、「女性たちの手紙」というタイトルにつながる“紙”が強く印象に残った。
また手書きを主にした作品も目につき、“手でアニメートする”という原点回帰を感じた。来年のアヌシーは、「ストップモーション・アニメーション」をフォーカスする。