北米のマンガ事情 第16回 海外マンガ出版と「バンド・デシネ」 -2- by 椎名ゆかり

フランスのバンド・デシネ政策

最後に、筆者が過去数年ヨーロッパのマンガの出版に注目してきた中で気付き、驚いたことに少しだけ触れておきたい。それは、「バンド・デシネ」普及に対するフランスという国の熱心さである。
すべての本の出版はそうであるように、日本ではこれまであまり需要が無いと思われてきた海外の作品の出版には、出版社を含む出版に関わるすべての人々の情熱や様々な尽力がその背後にある。筆者が驚いたのは、日本における「バンド・デシネ」出版のキー・プレイヤーとしてのフランスの存在だ。

一例を挙げると、アーティストの来日がある。既に述べたが、昨年の11月の「海外マンガフェスタ」に前後して複数のフランスのアーティストが来日した。しかし「バンド・デシネ」アーティストの来日は2011年に限ったことではなく毎年コンスタントに数人が日本を訪れている。そして何日か滞在し、トークショーに出演したり、美術系大学でワークショップを行ったりしている。その多くが母国フランスの援助で来ているようだ。

アーティストの知名度によってはただ来日するだけではあまり話題にはならないこともある。しかし、トークショーやワークショップなどイベントが行われればメディアが記事として取り上げる可能性も高まるし、邦訳があって日本にも読者がいれば、なお注目度も上がる。昨年の「海外マンガフェスタ」のように有名な日本のアーティストがイベントに参加すれば更に良い。
年間数人というアーティストの来日はフランス文化「バンド・デシネ」の日本でのプロモーションとして考えると、かなり地味なやり方に思えたのだが、積み重なるとその効果は想像以上に大きいというのが、個人的ではあるが正直な実感だ。ただし、この場合プロモーションの成否は日本側のコーディネートにかかっているが、それも日仏双方の事情を熟知した人々が上手く運営している印象である。

先述したように、フランスでは「バンド・デシネ」が「第九芸術」と呼ばれるようになったのは1960年代前半で、「バンド・デシネ」という言葉も1950年代後半~1960年代前半に使われるようになった。その「バンド・デシネ」がフランスで国の支援対象の文化となったのは1980年代初頭である。
1981年、左派の社会党が政権を取り30代の若さでジャック・ラングが文化大臣に就任すると、様々な革新的な文化政策を打ち出した。その中のひとつ、「文化の定義の拡大」で、ラングは文化をハイブロウなものに限定せず、ロック音楽やファッションなど大衆文化に広げることを提唱し、「バンド・デシネ」も支援対象の文化に含まれるようになった。
1983年、ラングは第9回アングレーム国際マンガ・サロン(後のアングレーム国際マンガ・フェスティバル)において、「マンガについての15の政策提言」を発表する。そこで打ち出された15の政策には、「若い作家に奨学金を給付する」「マンガのプロモーションを支援する」「フランスの書籍を海外で普及させるための援助システムを、マンガの単行本にも適用する」「マンガの国立センターをアングレームに設置する」15などがあった。
日本では2009年に「国営マンガ喫茶」「アニメの殿堂」と揶揄された「メディア芸術総合センター」構想が補正予算案に盛り込まれたが、上記でラングの提言のひとつとして挙げられたマンガの国立センターは1990年にアングレームに設立されている。

海外マンガのこれから

スーパーヒーロー作品は10年周期でブームが来るという見方もあり、近年の海外マンガの盛り上がりを一時的なものと見る人もいる。海外のマンガは日本のマンガから見ると異質なものが多く、読みにくいとも言われてきたが、逆に日本の作品とは異質だからこそ受け入れられるという状況も見えてきた。
あくまでマンガ好きとしての個人的な見解だが、海外にも面白いマンガは山のようにあるので、日本の市場に更なる多様性が生まれ選択肢が広がるのは単純に嬉しい。

今年度の文化庁メディア芸術祭で『闇の国々』の贈賞理由の中に「日本マンガは世界に誇る文化だと打ち出すならば、世界のマンガのレベルを知る必要があるだろう」という一文が出てくる。16このコラムでも度々書いているように、世界のマンガ文化との日本のマンガ文化の双方向の交流は、両者にとってネガティブな意味を持つことは決してないはずである。

15. 河島伸子 「ヨーロッパの文化政策」、野田謙介 「マンガとイメージの国際都市調査報告」『平成23年度メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業報告書』(平成24年3月)参照
16. 文化庁メディア芸術祭サイト マンガ部門受賞作品 贈賞理由
http://j-mediaarts.jp/awards/gland_prize?locale=ja&section_id=4

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■ 「バンド・デシネ」