北米のマンガ事情第14回 クラウドファンディング ―アメリカにおけるコミックスの自費出版 PART4

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情
第14回
クラウドファンディングによるコミックスの出版 ― アメリカにおけるコミックスの自費出版 PART4

椎名 ゆかり

■ クラウドファンディングで得られるもの

企画者であるアーティストが資金を求めてKickstarterなどにプロジェクトを掲載する時、できるのは資金を集めることだけではない。自分の企画しているコミックスを宣伝し、何をやりたいかというメッセージを潜在的な読者に向かって伝えることができる。その上、pledgeという形でbackerという支援者たちとコミュニケーションを取ることもできる。
今年の2月に『The Order of the Stick』というウエブコミックのアーティストが紙媒体で本を出すプロジェクトを立ち上げ、目標額の22倍のおよそ125万ドル(現在のレートでおよそ1億円)を集めた。このプロジェクトの成功要因を分析した人の多くが、その作品としての出来の良さに加えて、アーティストがネット上で読者とマメにコミュ二ケーションを取りながら、どれだけ多くpledgeを集められるかをイベント化して一緒に盛り上げていった点を指摘している。

つまり『The Order of the Stick』の作者は、Kickstarterにプロジェクトを立ち上げたもともとの目的「目標額を集める」を手段にして“イベント”(=祭り)化し、読者の参加を促して、本の宣伝と販売に成功した。
しかも、イベントの参加者であるbackerたちには読みたい本を買ってもらった上で、イベントにも参加したという満足感を与えることもできた。『The Order of the Stick』の成功は多くのコミックスのアーティストにクラウドファンディングの有用性を知らしめ、活用を促したと思われる。

クラウドファンディングについて、今後もますます利用者が増えると見る人もいれば、システムの目新しさに惹かれた一過性のブームと見る人もいる。
クラウドファンディングを、個人のアーティストではなく出版社が使うことに対して非難の声をあげる人もいる。ただし、出版社がファンに直接訴えて資金を得ることは過去に例が無いわけではない。
70年代から続くコミックス批評誌『Comics Journal(コミックス・ジャーナル)』を出しているFantagraphics Books(ファンタグラフィックス・ブックス)社は2000年代前半に財政危機に陥った際、ファンに助けを求めて自社の本を買うように呼びかけた結果、膨大な数の注文が舞い込み倒産を免れている。手塚作品を出したDigital Manga Publishingのようにクラウドファンディングをビジネスの一部として取り込んだのとは違うが、それでもコミュニティに直接訴えている面は同じだ。

「コミケット」や全国で行われている同人誌即売会、または同人誌を売る販売店の増加で既に自費出版の流通が確立されている日本では、今後個人でマンガを出す際にクラウドファンディングが使われることになると想像するのは難しい。
しかし言い換えると、日本ではまさに同人誌即売会や同人誌を扱う販売店がクラウドファンディングの役割を果たしている、と言いうことができるかもしれない。

(追記)
この原稿を入稿した直後に、マンガ家の赤松健先生が運営するJコミのサイトでクラウドファンディングの試み「JコミFANディング」のβ版が立ち上がり、開始直後に目標額に達して、成功を収めたようだ。
今後この試みが同人誌の市場にも拡大していくのか、日本の状況にも注目していきたい。

主な参考文献:
“A History of Webcomcis” T Campbell, 2006, Antarctic Press
“The Economics of Web Comics: A Study in Converting Content into Revenue” Todd Allen, 2007, Indignant Media
“Comics Journal” Fantagraphics Books 他

■ PART1 クラウドファンディングとエンタテインメント
■ PART2 クラウドファンディグによるコミックス出版
■ PART3 コミックスの出版にクラウドファンディングが使われるわけ
■ PART4 クラウドファンディングで得られるもの