北米のマンガ事情第14回 クラウドファンディング ―アメリカにおけるコミックスの自費出版 PART2

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情
第14回
クラウドファンディングによるコミックスの出版 ― アメリカにおけるコミックスの自費出版 PART2

椎名 ゆかり

■ クラウドファンディグによるコミックス出版

様々なプロジェクトが並ぶKickstarterの中で、コミックスのプロジェクトは一見それほど成功しているようには見えない。
全部で13あるカテゴリー(3) 別に見るとプロジェクトが一番多く立ち上げられているのは「映画&ビデオ」カテゴリーで、「音楽」と「出版」(コミックスは含まれない)がそれに続く。集めたpledge金額の多い順でも、「映画&ビデオ」、「ゲーム」、「音楽」の順であり、「コミックス」は前者で11番目、後者で10番目となっている。

「出版」と比べても「コミックス」のプロジェクト数は22%、集めた金額は55%ほどに留まっていて、プロジェクト数でも集めた金額でも「出版」カテゴリーのほうが「コミックス」よりも多い。しかしこの数字を実際の紙媒体の市場に当てはめると、かなり多いことがわかる。

アメリカにおいてコミックス(日本産のマンガを含む)の売上額は多く見積もっても一般書籍・雑誌の売上全体の5%弱ほどである。(ちなみに日本において、マンガの売上は一般書籍・雑誌全体の売上の20%を超える。)つまり実際の市場では一般書籍と雑誌全体の売上の5%の規模に満たないコミックスが、Kickstarter上では55%にあたる資金を集めるのに成功していることになる。
プロジェクトの目標金額達成の成功率も「出版」は31%、「コミックス」は45%だ。「出版」とは別のカテゴリーとして「コミックス」が独立しているのも、その存在感の大きさの現れだろう。

先に述べたように、Publishers Weeklyに掲載された記事「Kickstarterは業界第3位の米独立系グラフィックノベル出版社か?」と「2位のグラフィックノベル出版社か?」が話題になったのには、そのセンセーショナルな題名にも原因はある。
前者は、コミックスの大手を除く独立系出版社の上位5社の、ある月のグラフィックノベル(4) 出版数と、Kickstarter上でその月に資金調達に成功したグラフィックノベルのプロジェクト数を比較したもので、Kickstarterのプロジェクト数が上から3番目になった、という内容の記事である。後者は、出版数ではなく売上収入でKickstarterを大手コミックス5社と比べ、Kickstarterが大手出版社Marvelに次いで2位となったと報じている。(ここで比較された数字は、ある3ヶ月間にコミックス出版大手5社がグラフィックノベルを取次へ卸した際に得た合計金額(売上上位300タイトルが対象)と、その3ヶ月内にKickstarter上で資金調達に成功したグラフィックノベルの全プロジェクトのpledge合計からKickstarterの手数料をひいた金額である。)

そもそも誰もが気づくようにKickstarterは出版社ではない。Kickstarterは資金調達のためのシステムに過ぎず、この記事の中でも述べられているように、出版社とKickstarterを比べるのは本質的には意味が無い。しかしそれでも敢えてこの比較によって強調されているのは、Kickstarterなどのクラウドファンディングが現在、驚くほど多くのコミックスの制作資金集めに役立っている、という事実である。

個人でコミックスの本を出すためにクラウドファンディグを使うのは、無名の新人アーティストとは限らない。ヒット作を手がけて既に人気のあるアーティストも同じように、Kickstarterを活用している。特に最近では個人のアーティストだけでなく、小出版社がクラウドファンディングで集めた資金でグラフィックノベル出版自体を行う例も多く出てきた。
日本のマンガの例を挙げると、Digital Manga Publishingが手塚治虫の作品『ばるぼら』『地球を呑む』『ユニコ』『海のトリトン』の英訳版(一部再販)を出すためにKickstarterを活用し、資金を得るのに成功している。

この傾向は今後も続くのか、一時的なものなのか今はわからない。しかし現在、クラウドファンディングはコミックスの出版においてかなり有効のようだ。どうして、コミックスの出版とクラウドファンディングは相性が良いのだろうか?

■ PART1 クラウドファンディングとエンタテインメント
■ PART2 クラウドファンディグによるコミックス出版
■ PART3 コミックスの出版にクラウドファンディングが使われるわけ
■ PART4 クラウドファンディングで得られるもの

3. Kickstarterの13のカテゴリーは、「アート」「ダンス」「コミックス」「デザイン」「ファッション」「映画&ビデオ」「食べ物」「ゲーム」「音楽」「写真」「出版」「テクノロジー」「劇場」。
4. 「グラフィックノベル」という言葉は文脈によって意味が異なる場合があるが、ここでは「単行本」という意味で使われている。