北米のマンガ事情第14回 クラウドファンディング ―アメリカにおけるコミックスの自費出版 PART1

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情
第14回
クラウドファンディングによるコミックスの出版 ― アメリカにおけるコミックスの自費出版 PART1

椎名 ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員として勤務中。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

クラウドファンディングとエンタテインメント

米国でクラウドファンディング最大手として知られるのはKickstarter(キックスターター)

いつもはこのコラムでは北米における日本産マンガの状況について書かせていただいているのだが、今回はアメリカで最近話題のクラウドファンディングによるコミックスの出版について取り上げたいと思う。

出版業界の情報サイトであるPublishers Weekly(パブリッシャーズ・ウィークリー)のサイトで昨年(2011年)6月にクラウドファンディングの大手サイトKickstarter(キックスターター)について、『Kickstarterは業界第3位の米独立系グラフィックノベル出版社か?』(1) という記事が掲載された。そして今年の7月には『Kickstarterは業界第2位のグラフィックノベル出版社か?』 (2)と題した記事が載り、大きな話題となった。
これらの題名の示唆することの真偽はともかく、昨年から今年にかけてアメリカのコミックスやマンガ関連のニュースサイトやブログではKickstarterなどのクラウドファンディングによる出版に関して数多くの記事が書かれ、その影響力が業界やファンの注目を集め続けている。

クラウドファンディングについてごく簡単に説明すると、「ファンディング」という名前が示す通り、資金を募る方法のひとつである。
最近は日本でも見かけるようになったシステムだが、このシステムで資金を募る相手は「クラウド(群衆)」。不特定多数の個人からお金を集めてプロジェクトの実現を計る。

例えば、クラウドファンディングの米最大手サイトKickstarter上で資金を募るプロジェクトは、ベンチャー企業の設立から、アプリ開発、音楽アルバム制作やコンサート開催など様々だ。プロジェクトの企画側が募集期間、最終目標金額を決め、更に個人から募る金額を何段階も設定した上で、それぞれの金額に応じた“見返り”を決める。
例えばある音楽アルバム制作のプロジェクトなら、募集期間は1ヶ月間、目標金額は3万ドル。そして5ドル提供者にはバンドのステッカー、15ドルなら発売2週間前にアルバムをダウンロードできる権利、40ドルならそのCD1枚、100ドルならサイン入りCDに加えて資金提供者の名前がクレジットに入る、という具合である。

この例からもわかるように、資金の提供と言っても見返りは単純に金銭的、物理的なものというよりはプロジェクトに対する“支援”の側面も強く、それはKickstarterで資金を提供する人をbacker(後援者、支持者)、提供する資金をpledge(寄付、またはその約束、愛情の印)と呼んでいることにも現れている。

集まった金額が目標金額を超えても期限まで募集は続く。超えた後も募集側は更に高い目標額と新たなpledge金額(+その見返り)を設定することも可能だ。
ただし、期間中に目標額に達することができなかった場合、Kickstarterではbackerからお金を徴収しない。この規定により、backerは目標額の資金を集められなかったプロジェクトにお金を出してしまうリスクを避けることができるので、出資に対する心理的敷居が低くなっているとも推測できるが、プロジェクトの企画者が目標額を集めてもその企画を当初の予定通り遂行する保証はどこにも無く、お金を提供する側には常にリスクがある。そのため過去に実績のある人物によるプロジェクトのほうが多くのpledgeを集める傾向にあるようだ。

Kickstarterでは2009年の4月に運営を開始してから、2012年9月8日付で7万を超えるプロジェクトが立ち上げられ、現在進行しているプロジェクトを除くと、ほぼ43%にあたる2万9千強が資金集めに成功した。
これまでに延べ260万人から3億4千万ドルを超える資金提供の申し出があり、そのうち2億9千万ドルが集金されプロジェクトの企画者の手に渡っている。しかも100万ドル(現在のレートで7千8百万円ほど)を集めるのに成功したプロジェクトは10にものぼる。

■ PART1 クラウドファンディングとエンタテインメント
■ PART2 クラウドファンディグによるコミックス出版
■ PART3 コミックスの出版にクラウドファンディングが使われるわけ
■ PART4 クラウドファンディングで得られるもの

1. ”Is Kickstarter the #3 U.S. Indie Graphic Novel Publisher?” Publishers Weekly, Jun 07, 2011
http://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/book-news/comics/article/47545-is-kickstarter-the-3-u-s-indie-graphic-novel-publisher-.html

2. “IsKickstarter the #2 Graphic Novel Publisher?” Publishers Weekly, Jul 10, 2012
http://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/book-news/comics/article/52925-is-kickstarter-the-2-graphic-novel-publisher-.html