■ 正直に誠実にビジネスの目標を共有
AA
スクエニさんの一番の特徴は、出版とゲームとアニメと、全部三拍子そろっていることですね。多くのエンタテイメント企業は、アニメと出版はあるけどゲームはないとか、ゲームとアニメはあるけど逆に出版がないといった状況です。
三拍子そろっていることはやはり強みですか?
田口
会社のいろいろな状況というのは、強みにするのも弱みになるのも考え方次第だと思います。
例を挙げると、テレビで放映するためにはスポンサーが必要です。ただし、我々はゲーム事業も行っているからといって、必ずしもゲーム化を含めたクロスメディア展開を前提とする必要はないと考えています。
当社が得意なジャンルだったり、開発ラインの状況とも合っていれば当社で開発しますが、そうでない場合やスポンサー獲得のためにゲーム化のライセンスを他の会社にライセンスする場合もあります。
AA
アニメのビジネスも変わりつつありますが、これについてはどうお考えですか。
田口
実際にアニメビジネスというものが、最近はもうからなくなっていますよね。DVD販売の収益で稼ぐというスタイルが、いまは厳しくなっているというのがあります。そして、ここも難しいところで、DVDが売れるアニメを作ればいいのかという話だけではないはずですよね。
それを明らかに狙いにいったアニメももちろんあります。一方でそうじゃない少年マンガの王道的なものもあります。
正々堂々とした少年マンガが、じゃあ、DVDの収益、映画の収益でそんなに稼げるかというと、実はそうではないですよね。それはデータを見れば分かる通りです。
こうした中で作品のテイストを生かしつつ、見合ったかたちをつくっていくしかないと思いますし、我々の考え方に賛同してくださる方々としかやはり仕事は出来ないですね。とにかく正直に誠実に、我々としてのビジネスの目標はこうですということを皆さんと共有させていただいて進めています。
■ スタジオさんや製作委員会の方とは徹底的に話合う
AA
先ほど、前期8タイトル、今期10タイトルをおっしゃいました。ヒット率がかなり高いような気がしますが、それはどうしてなのですか。
田口高いんでしょうか。僕はそれほど高いとも思ってなくて。
AA
ここ1年でいえば、『ハガレン』は当然あるとして、『黒執事』や『咲-Saki-』も当たっています。他にも『天体戦士サンレッド』等話題作が非常に多く、盛り上がっているように見えます。
田口
アニメになった時のイメージを前提として作っているからじゃないですか。アニメになったときの面白さ、感動も含めて全体として考えています。スタジオさんや製作委員会の方とは徹底的に話しますからね。
AA
先ほどの話に戻ってしまうんですけど、連載を選ぶときに、相当アニメ化を吟味しているためかなと感じました。
田口
アニメ化のタイミングだけでなく、連載スタートのときでもそうですし、出版物の場合はその連載をしていく中でどんどん変わっていく部分も当然あります。
編集と作家、それから我々経営サイドとして考えた場合に、経営サイドというのはマーケティングを徹底的にやりますよね。作家はやはり自分の作りたいものを作りたい。そのブリッジを果たすのが編集だと思っています。
その編集の中に、アニメ化した時の快感を味わう人間がいます。それを横目で見ていて、そうなりたいと思っているという人間がいるということです。『東京アンダーグラウンド』と『鋼の錬金術師』、それから『とある魔術の禁書目録』、この3作品の編集者は同一人物です。
『スパイラル~推理の絆~』、そして『ソウルイーター』、これも同一人物です。
つまり作品がヒットするための勘所というものが存在するようです。彼等は、編集部の中で、個人的に月に1~2回飲み会を開いて、若手を育成するということをやってくれています。
■ 編集にはセンスもある
AA
人材育成という話ですが、そういうかたたちが優秀なのはどういう資質によるものなんでしょうか。
田口
営業、宣伝系の人間はトレーニングです。OJTの中で教えることはできると思います。かなり僕自身はスパルタでやってきました。
ただ編集は残念ながら、トレーニングだけではどうしようもない部分がある。やっぱりセンスがあるんだろうなと思います。同じ人がこれだけ当て続けているということを考えるとですね。それはもう彼らに任せるしかないですよね。
任せる中でも、やっぱりタイプというのがあります。萌え系が得意な人、女性向けが得意な人、少年マンガの王道が得意な人。
これはアニメというよりもコミック編集部の話ですけれど、編集長とは別にその成功した人たちをリーダーにしてエースプレーヤーが育っていくしかないだろうなと思いますね。
AA
その編集のセンスは上に立つものとして分かるものなのですか?
田口
いや、僕は分からないですね。結果論です。当たったやつが勝ち、当てたやつが勝ち。ただ、データを取っていくと同一人物に集中している。
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