幻の萌え株市場

 株式市場で萌え関連銘柄が熱い。多少でも『萌え』、『オタク』をイメージすれば、どんな企業でも買いという感じである。『萌え』、『オタク』は、新しい時代の新市場というわけである。投資家がそれを信じているのか、それとも単なる意味づけに過ぎないかは判らない。しかし、実際は期待されるほど『萌え』や『オタク』の市場に未来の市場が広がっているわけではない。

 考えてみれば簡単な話である。もし、『萌え市場』、『オタク市場』を今まで以上に広げようとすれば、『オタク』の数を今まで以上に増やすか、普通の人が『萌え』商品を買うようになるか、あるいは、現在の購入者の購買量を増やす方法のいずれかに限られている。
 『オタク』の数がこの先2倍、3倍になるとか、普通の人が美少女ゲームやフィギアを日常的に買うようになる未来はあまり実現の可能性はなさそうである。さらに、現在、極限まで趣味にお金を投じている多くのマニア達が今まで以上に関連グッズを買うようになるのも、あまり現実的ではなさそうだ。
 だから、こうした市場の5年先、10年先の売上げが2倍、3倍になるとは考え難い。『萌え』にしても『オタク』にしてもそれが888億円あろうが2900億円であろうが、実際は限られた市場でのパイの奪い合いでしかない。だから、萌え志向やオタク志向を持った個別の企業の成長はあったとしても、市場全体の急拡大は非現実的でしかない
 『萌え』や『オタク』に特化した企業やそういう指向を持った企業の意外な好業績に注目することは面白い。しかし、これからは萌えの時代とかオタクが市場を変えるといった論調は飛躍である。そして、ビジネスとして考えるのであれば、実際は大衆市場こそが本当に儲かる市場であり、ビッグビジネスの場所である。それは、ディズニーアニメの商業的な成功をみることで理解出来る。

 ディズニーを初めとする米国アニメーションが面白くない、オリジナリティがないとの指摘がされるが、それらが商業的に成功している事実は無視出来ない。単純すぎるように思われているそうしたストーリーもよく見てみると非常に練られた結果の産物で、単純すぎると切り捨てるのは早計である。むしろ、『萌え』や『オタク』に代表される日本アニメやマンガ、ゲームはあまりにも計算された枠の外で、そうしたものに飽き足らないファンの需要を満たしている。

 だから、マニア向けの市場で生まれた企業であっても、自社のさらなる成長を考える会社はこのマニアの枠を超えた大衆市場や子供市場に進出せざる得ない。そうでなければ、遅かれ早かれ時代の流れが変わり、新しい感覚を持った企業に現在の地位を奪われることになるだろう。
 もし、『萌え』や『オタク』関連の企業に長期的に投資するのであれば、むしろそうしたマニアな市場から大衆市場に進出しようとしている企業に投資することの効率がいいだろう。しかし、新市場への進出は常に大きなリスクを抱えていることは充分理解しておく必要もある。
[数土直志]