カート・ハスラー氏に聞く 電子書籍はマンガビジネスを変えるのか?

■ [電子書籍の価格設定とマーケティング]

AA
先程、書店の減少の話しがありましたが、電子出版はその代替になりませんか?

K・H
デジタルだと書店を持つ必要は無いし、iPhoneやiPadで読むことができます。だからこそデジタルに投資することは重要なのです。
それでも、デジタルが十分な市場になるのはまだ難しい。デジタルの売上はどんどん伸びて、伸び率が大きいという意見に反対はしません。でも、現在の市場サイズを考えれば2倍、3倍は実は簡単なのです。デジタルのビジネスから収益があがるようなるにはあと5年はかかると思っています。

AA
そのなかで現在明確に定まっていないのが、電子書籍の販売価格です。デジタル販売の適正価格はあるのでしょうか?

K・H
これについてはすべての出版社が独自の意見を持っています。私は、多くのマンガ出版社が紙と比べて電子書籍をかなり低い価格で作品を売っていると懸念しています。マンガのデジタル販売の価格はアメリカンコミックスの価格を比べるとかなり低くなっています。これはビジネスを維持していくには低すぎる価格です。
まるで消費者に「マンガはアメリカンコミックスに比べて価値が低い」と言っているようなものです。アメリカンコミックスのデジタル販売は、紙の本と同日発売され、さらにほとんどが紙と同じ価格です。3ドル99セントの本は電子書籍でも同じ3ドル99セントです。

AA
そこにはコミックス専門店、小売店を守る意味もありませんか?

K・H
私は必ずしもそうだとは思っていません。彼らは自分たちの利益を守ろうとしているのです。確かにどの出版社も小売店を守りたいと考えています。同時にコミックス市場そのものも守りたいはずです。
つまり出版社はこれまでどおり利益を出せるシステムを維持したいと考えています。
もしアメリカンコミックスのデジタル販売を99セントにしたら、紙の読者がデジタルに取られてしまいます。そうなると本の制作にかかったコストをデジタル販売で回収しなければなりません。しかしその販売額は本に比べるとかなり少ないので、これではとてもビジネスは成り立ちません。
私は日本マンガの出版社はデジタルに乗り遅れまいとして、読者に低い価格でデジタルのマンガを提供していると考えています。でもこれでは長い目で見ると、ビジネスを維持していけないはずです。

AA
実際にYenPressの価格設定はどうなっているのでしょうか?

K・H
Yen PressがiPhoneのアプリで売っているタイトルの1巻はすべて2ドル99セントです。プロモーション価格は別ですから。他は全部8ドル99セントです。この価格設定は、出版社として紙とデジタルのバランスを取る必要があるからです。これが適正価格だと思っています。
デジタルに重きを置き過ぎて、紙の本のビジネスを弱体化させないことはとても重要です。とても微妙なバランスを維持しなければいけません。だからこそ、紙と電子出版は緊密に連携する必要もあります。

AA
デジタル時代にマンガを売るのに、これまで以上にマーケティングが重要になりますね。

K・H
とても重要になります。なぜなら読者に作品を見つけて貰わなければいけません。紙の本は本屋の店頭に並べ、宣伝用のフロア・ディスプレイを作り、店に入ってきた人の目を惹きます。それはある意味では分かりやすい方法です。
ところが、デジタルになると、何が出版されているかを人々の前に提示しなければいけません。読者の注意を惹くのはより難しくなりました。
ただ、一旦読者の注意を得るころが出来れば、新刊情報を読者に直接伝えることは、デジタルのほうが簡単ですね。

AA
Yen Pressの作品は、Comixologyといったような他社のアプリでは提供されていませんが。

K.H
国内のデジタル出版社からかなり声は掛っていますが、いまはしません。問題は彼らがモアレといったマンガ特有の課題に取り組むことが出来ないことです。
日本のマンガは白黒なのでデジタルにするのがより簡単と思われますが、スクリーントーンなどの濃淡をデジタル化するのは、実際にはアメリカンコミックスよりも難しいのです。
試したことはこれまでにもありますが、思ったとおりの美しい画面は実現出来ませんでした。そこで、結局は自社ソフトを開発し、自社アプリで販売することにました。

PART3 YenPressのマーケット戦略に続く