風通しの良さとその背後にあるもの―第18回シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭レポート

メイン会場となるグロリア1の上映の様子。短編のコンペ上映の際には通路にまで人がごった返した。 © Stuttgart Festival of Animated Film

 シュトゥットガルトの上映作品は実に多彩である。産業とのあいだに有機的連関を作り上げようとするネットワークづくりも機能しているように思える。狭義のアニメーションに縛られない自由さ、商業/非商業に垣根を設けない風通しの良さはこの映画祭の魅力であると言えるだろう。
 ただ一方で、キャラクター・アニメーションの原則が自明視された作品が多いなど、作品を成り立たせる原理の面においては、似通ったものが多い印象を受けたし、世界各国から集まった指折りの作品であるのだから当然のことかもしれないが、作品があまりに洗練されすぎているように思えたのも確かである。

 ハーバード大学のアニメーション・コース(伝統的に北米のアンダーグラウンド・アニメーションの世界の巨匠が教鞭を執っている場所だ)のレトロスペクティブ・プログラムを観て素直に思ったことは、アニメーションは、過去、もっと豊かだったのではないかということだ。ここで言う豊かさとは、作品から濃厚に漂ってくる「土着性」とも呼べるようなものである。(ハーバードのプログラムでいえば、アメリカのアンダーグラウンド・シーンの歴史性が濃密に感じられた。)ある時期のアニメーション表現が持っていたこの「泥臭さ」は、シュトゥットガルトが押すような洗練とは真逆であるだろう。しかし、映画祭が市場とは異なる基準を打ち立てる場として機能してきた歴史を考えてみれば、「土着的」で、それゆえに他の地域・時代に暮らす人々にとっては異質に見えてしまいかねないユニークな歴史性の刻まれた表現が、ある意味での豊かさとして感じられるのは別におかしなことではない。単純に言いかえれば、この豊かさは未知のものに出会う喜びである。

 今回、パノラマ上映に、『オオカミと雌ヒツジ』というイランの作品があった。パステル画を用いた力作のアニメーション作品なのだが、その絵のスタイルや物語は、とても2010年制作のものとは思えなかった。(良く言って1970年代?) ただ、その「洗練されなさ」、「土着性」を強く感じさせるご当地デザインのなかに、(エキゾティズムとはまた異なる)途方もない魅力を見出すことができたのも確かである。もちろんそれは、短編インディペンデント作品に対して、マジョリティに回収されることのない多彩な視点の存在を忘れさせない可能性を見出している人間だけが感じる、社会的にはあまり有益でない見方なのかもしれないのだが。ともかく、シュトゥットガルトのあまりの風通しの良さが、逆に、すべてが市場の物差しに載せられることへの疑念を浮かばせたこともまた、確かな事実なのである。個人的には、旧社会主義圏においていまだアニメーション制作に国からの潤沢な支援があるエストニアから届けられたマッティ・キュット初の長編作品『スカイ・ソング』の異様さ――物語の定型は郵便局員のトレーニング・ビデオのような陳腐なものなのだが、それを構成する細部があまりにも異常すぎる――が、賞レースにはかすりもしなかったものの、最も印象に残るものであったことを、最後に記しておきたい。

長編部門入選の『スカイ・ソング』はエストニアらしい奇怪さ満載の44分。 ©Nukufilm

主な受賞作品のリストは以下の通り。

国際コンペティション(短編部門)
○グランプリ(賞金15000ユーロ、バーデン・ヴュルテンベルク州およびシュトゥットガルト市の後援による)
『ジ・エクスターナル・ワールド』The External World (デイヴィッド・オライリー、2010、ドイツ)

○ロッテ・ライニガー奨励賞(賞金10000ユーロ、バーデン・ヴュルテンベルク州映画基金の後援による)
※一般短編部門にコンペインした学生作品のなかから最も優れた作品が選ばれる、
『ライオンになりたかった少年』The Boy Who Wanted to Be A Lion(アロイス・ディ・レオ、2010、イギリス:国立映画テレビ大学)

○観客賞(賞金6000ユーロ、SWRの後援による)
『ザ・ロスト・シング』The Lost Thing(ショーン・タン&アンドリュー・ルヘマン、2010、オーストラリア)

○人道的作品に贈られるレナ・ワイス賞(賞金5000ユーロ、レーベンブロイの後援による)
『取り替え子』Changeling(マリア・シュタインメッツ、2011、ドイツ:コンラート・ヴォルフ映画テレビ大学)

○最優秀音楽賞
『ハンバーガーになりたかった子牛』The Cow Who Wanted to Be A Hamburger(ビル・プリンプトン、2010、アメリカ)

学生部門
○グランプリ(賞金2500ユーロ、バーデン・ヴュルテンベルク・コミュニケーション・センターおよびバーデン・ヴュルテンベルク州映画基金の後援による)
『ボトル』Bottle(キルスティン・レポー、2010、アメリカ:カルアーツ)

トリックス・フォー・キッズ(子供向け作品部門)
○グランプリ(賞金4000ユーロ、ニコロデオンの後援による)
『アヒル、死神、チューリップ』Duck, Death and the Tulip(マチアス・ブリュン、2010、ドイツ)

アニムービー(長編部門)
○グランプリ(賞金2500ユーロ、SUPER RTL局の後援による)
『チコ・アンド・リタ』Chico y Rita(フェルナンド・トルエバ、ハビエア・マリスカル、トノ・エランド、2010、スペイン/イギリス)

アニメーテッド・コム・アワード(依頼作品部門)
○グランプリ(賞金10000ユーロ、コルベンシュミット社、マッケヴィジョン社、フラウンホーファー・インスティテュートの後援による)
『アムネスティ・インターナショナル:“死刑”』Amnesty International:”Death Penalty”(プレクス、ウォーム&ファジー製作、2010、フランス)
○広告部門優秀賞
『市場を比べてみよう――野心溢れる通り』Compare the Market: “Compare the Market “Streets of Ambitiousness””(ダレン・ウォルシュ、パッション・ピクチャーズ製作、2010、イギリス)
○技術部門優秀賞
『フィラクシス・ゲームス/2Kゲームス シヴィライゼーション5』Firaxis Games / 2K Games: “Civilization V”(イストヴァン・ゾルコスキ、ディジック・ピクチャーズ製作、2009、ハンガリー)

受賞作のすべてのリストは以下のページで見ることができる。
http://www.itfs.de/en/competitions/award-winner-itfs-2011.html

シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭公式ホームページ(英語)
http://www.itfs.de/en/