風通しの良さとその背後にあるもの―第18回シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭レポート

水江未来の『TATAMP』は映像と音との愉快なシンクロで会場を沸かせた。 ©水江未来

 なお、今年のコンペティション部門には、日本からは、短編部門に水江未来『TATAMP』、和田淳『春のしくみ』が、長編部門に佐藤信介『ホッタラケの島~遥と魔法の鏡』が、学生部門に和田淳『わからないブタ』、銀木沙織『指を盗んだ女』の藝大アニメーション専攻一期生の二作品が、それぞれ入選している。
 受賞作品を眺めてみると(審査員自体は、カナダ国営映画制作庁のプロデューサーや著名なインディペンデント作家など、短編アニメーションの歴史をふまえたかなりオーソドックスなメンツであった)、今年の短編部門ではデイヴィッド・オライリー『ジ・エクスターナル・ワールド』がグランプリを受賞した。1985年生まれのオライリーは前作『プリーズ・セイ・サムシング』が映画祭シーンを騒がせた新進気鋭の作家である。 
 『プリーズ・セイ・サムシング』においては、3DCGアニメーションに対する革新的なアプローチ――自然主義的な描画に背を向けつつ、観客の強い情動を誘う物語を導入し、さらにはアメリカン・カートゥーンの定型を現代的にアップロードする作業――が高く評価された。すでに昨年十月のオタワでグランプリを獲得している『ジ・エクスターナル・ワールド』は、キャラクター文化やテレビドラマを中心としたお手軽な「定型」表現を徹底的にパロディー化することで笑いを取りつつ、そういった単純化されたコンテンツの世界認識を内面化してしまった現代の観客に対して、最終的には強烈な一撃を喰らわせる挑発的な作品で、実際、他の作品と比べても際立っていた。

短編部門でグランプリを獲得したデイヴィッド・オライリー『ジ・エクスターナル・ワールド』 ©David OReilly Animation

 受賞作品のリストについては最後に一覧を掲載しているのでそちらをご覧になっていただくとして、そのなかで特筆すべきものをピックアップするとすれば、昨年のアヌシー短編部門グランプリ、米アカデミー賞短編アニメーション部門受賞と華々しい成果を挙げた『ザ・ロスト・シング』(ショーン・タン&アンドリュー・ルヘマン)が、ここシュトゥットガルトでも観客賞を獲得した。CG自体のクオリティはさほど高くないものの、『アライバル』等で日本でも人気が出つつある絵本作家ショーン・タンの担当したクリーチャーたちの奇妙で愛らしいデザインや世界観が圧倒的な魅力を放つ作品であり、ここでも3DCGアニメーション表現の「変質」の予兆を感じることができた。
 長編部門のグランプリはスペインとイギリスの国際共同制作『チコ・アンド・リタ』。1940年代後半から50年代前半のハバナ、ニューヨーク、ハリウッド、パリを舞台として展開するキューバ出身のピアニストと歌手の愛の物語は、キューバのジャズと輪郭線の強いコミック調の描線が印象的で、日本での公開も待たれるところである。

観客賞を受賞した『ザ・ロスト・シング』 ©Passion Pictures
アメリカのインディペンデント界を代表する存在、ビル・プリンプトンのワークショップ © Stuttgart Festival of Animated Film

 映画祭は一般的にコンペティション部門と特別上映部門に分かれるが、後者における今年のシュトゥットガルト一番の目玉はアフリカ特集だった。アフリカのアニメーション・シーンの先駆者ムスタファ・アラッサンの回顧上映やエジプトのアニメーション史を辿る歴史的なプログラムから、チュニジアのジャスミン革命を皮切りとする中東・アフリカでの革命をテーマとした作品(国際アニメーション協会のエジプト支部が作家たちに呼びかけてつくられたもの)まで、あまり知られることのないアフリカ・シーンについて幅広く紹介が行なわれた。(アラッサンは今回の短編部門の審査員も担当した。)
 また、「アニメーテッド・オスカー」と題された特集では、数多くの著名な短編作家と契約する広告エージェント会社アクメ・フィルムワークスのロン・ダイアモンド(彼はアニメーションに関する世界最大の情報サイトAnimation World Networkの創始者でもある)のキュレーションとプレゼンテーションのもと、米アカデミー賞短編アニメーション部門の「傾向」の調査が行なわれた。特集は、オスカー受賞作、ノミネートされたものの受賞を逃した作品、米映画芸術科学アカデミー会員向けの上映会で上映されたもののノミネートに至らなかった作品(自身もアカデミー会員であるダイアモンドは、会員向けの上映プログラムの企画者でもある)の3プログラムに分けられ、ヨーロッパの映画祭シーンとは異なる傾向を持ったアカデミー賞の特殊な文脈が浮かび上がってくるようなものとなっていた。
 ドイツ最大のアニメーション映画祭らしく、国内作品の特集上映もあった。ドイツの人形アニメーション界の巨匠クルト・ワイラーや地元シュトゥットガルト在住で現代ドイツ・シーンを代表する作家アンドレアス・ヒュカーデの特集上映、ロッテ・ライニガー『アクメッド王子の冒険』の生演奏付上映、オスカー・フィッシンガーを中心的に据えたヴィジュアル・ミュージック特集もまた組まれ、アニメーション表現の歴史的な多層性もまた体験できるような場が提供されていた。

東日本大震災のためのチャリティ企画として、広島出身の画家こだまこずえによるライブペインティングも行われた。  © Stuttgart Festival of Animated Film

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