風通しの良さとその背後にあるもの―第18回シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭レポート

風通しの良さとその背後にあるもの
―第18回シュトゥットガルト国際アニメーション映画レポート

土居伸彰
1981年東京生まれ。早稲田大学演劇映像学連携研究拠点研究助手。ユーリー・ノルシュテイン作品を中心とした非商業系短編アニメーションの研究を進める傍ら、世界の優れた短編アニメーションを紹介・上映するアニメーションズ・フェスティバル、日本の短編作家のDVDの製作・配給を行なう自主レーベルCALFなどの活動にも携わる。共著に加藤幹朗編著『アニメーションの映画学』(臨川書店)、訳書にクリス・ロビンソン『ライアン・ラーキン やせっぽちのバラード』(太郎次郎社エディタス)など。

 
 

会場となるシネコンGLORIAとMETORPOLE。大きな建物のうちに数個のシネコンが同居している。 © Stuttgart Festival of Animated Film

 ドイツ・シュトゥットガルトにて毎年五月上旬に開催されるシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭は、世界最大規模のアニメーション映画祭のひとつである。18回目の開催となる今年は、2011年5月3日から8日の6日間にかけて行なわれた。メイン会場となるのは街の目抜き通りに面したシネコンGLORIAとMETROPOLE(100~500程度の席数の5スクリーン)で、すぐそばに位置する宮殿広場にも巨大なスクリーンが設営され、映画祭の参加者だけではなく、一般市民もまた、日常生活のあいまに映画祭の特別な雰囲気を味わうことができる。シュトゥットガルトはポルシェなどいくつかの自動車メーカーが本社を設置する街でもあるが、映画祭期間の後半の週末には自動車の展示会も重なり、会場周辺は非常に多くの人で賑わった。今年の映画祭の総入場者数は6日間で7万人を超えた。アヌシー、ザグレブ、オタワ、広島は一般に世界四大アニメーション映画祭として呼ばれるが、シュトゥットガルトは規模的にいえばアヌシーに次ぐものとなっている。日本人のアニメーション関係者にとってはそれほど馴染みのある映画祭ではないかもしれないが、過去の受賞者を見てみれば、山村浩二が2008年に『カフカ 田舎医者』で短編部門グランプリを受賞し、宮崎駿も2010年に『崖の上のポニョ』で長編部門グランプリを獲得している。

 シュトゥットガルトの特徴としては、アヌシーやオタワと同様に、FMXと呼ばれる見本市が併設されていることが挙げられる。アニメーションに関する幅広いトピックを扱う会議が行なわれるのと同時に、世界の主要なアニメーション・スタジオや教育機関がブースを出展し、商談や学生向けの進学・就職相談を行なっている。映画祭本体は毎日夕方5時から本格的に上映が始まるのだが、それ以前の時間帯には商業スタジオや教育機関の上映付プレゼンテーションのプログラムが組まれ、他の映画祭と比べても、連携はかなり密であると言える。
 日本においては特にそうだが、一般的に短編アニメーションと商業シーンの関連は薄い。しかしここシュトゥットガルトにおける印象は異なる。この映画祭においては、短編と商業分野のギャップなどそもそも存在しないかのように、自然な接合が行なわれている印象なのである。短編作品、学生作品は、教育分野も含めた広義のアニメーション産業の一端を担うものとして、ここでは自然に組み込まれているように思えるのである。

入場無料の宮殿広場での野外上映には数多くの市民が集まった © Stuttgart Festival of Animated Film

 むしろ、短編作家・学生に対する積極的な後押しが行なわれていると考えるべきか。同様に商業シーンへの目配せを行なっているアヌシーが長編に対してかなりの比重を置くようになってきつつあるのと比較すると、シュトゥットガルトの花形はやはり短編部門である。この映画祭は、豊かな工業都市という背景を反映してか、賞金額がかなり大きく(それぞれの賞のスポンサーも公的なものから私企業に至るまで実に多彩である)、しかも短編に対して手厚い。長編のグランプリが2500ユーロである一方で、短編のグランプリは15000ユーロと破格である。短編部門には学生作品であっても応募可能で、ノミネートされた学生作品からも受賞作品が選ばれ、10000ユーロが与えられる。戦前に活躍したドイツ・アニメーションの巨匠ロッテ・ライニガーの名が冠されたこの賞は、「奨励」を目的としたものであることが明記されており、賞金額からしても、「次」を作るベースの資金として充分なものとなっている。(学生部門もまた別に設置されており、グランプリには2500ユーロが与えられる。)
 こういった短編・学生に対する手厚さは、おそらくドイツ最大の映画学校フィルムアカデミー(シュトゥットガルトの隣町ルートヴィヒスブルクにある)の方針とも関わっている。世界最大のアニメーション映画祭アヌシーとフランス最大のアニメーション映画学校ゴブランとのつながりはよく知られている。(たとえば上映プログラム開始前に流れるオープニング・フィルムはゴブランの学生の手によるものだ。)シュトゥットガルトとフィルムアカデミーの関係はさらに密であると言っていいかもしれない。コンペティションの一次選考を担当するのは同アカデミーの教授陣がほとんどであり、この学校の方向性は、他のアニメーションの教育機関と比べても、かなり商業シーン寄りの色彩が強い。映像産業の次代を担う才能を輩出するという目的が明確で、学生作品であっても、「プチ商業作品」とでもいえるような様式に則って作られていることが多い。結果として、コンペティションにおいても、アニメーション産業において通用しうるような短編が多く上映された印象を受けた。 

コンペティションの受賞者たち © Stuttgart Festival of Animated Film

 ただし、ここでいう「産業」とは、テレビや長編に限ったものではない。ゲームやモーショングラフィックス、もしくはショートフィルムといった分野にまで広がるような意味での「アニメーション」をサポートし促進するという意志が、この映画祭には働いている印象があった。「アニメーション」という言葉が捉える幅が広いのである。それゆえに、少しでも「アニメーションらしさ」を感じさせる作品であれば、(たとえ他の映画祭では「これはアニメーションではない」と切り捨てられるものであろうとも、)上映のチャンスはある。 
 一例を挙げよう。2007年の『トゥトリ・プトゥリ夫人』において、実写映像と質感ある素材をハイブリッド的に合成することで革新的な人形アニメーション表現を作り上げていたクリス・ラヴィス&マチェック・シェバウスキの新作『ふふふんへへへんぽん!―もっときっといいことある―』(モーリス・センダック原作で、日本ではスパイク・ジョーンズ監督の『かいじゅうたちのいるところ』のDVDの特典として収録されている)は、基本的には人形劇であり、アニメーション技術を用いたシークエンスはほんの一部である。しかし、ここシュトゥットガルトでは、問題なくコンペに入ってくる。他にも、パノラマ(コンペ落選作品が上映される場)で、実写映画内でにCGが使われているだけの短編映画も入ってくるなど、この映画祭が上映するアニメーションの幅は非常に広く、いくつかのアニメーション映画祭に参加している自分のような人間にとっても、かなりの新鮮さがあるセレクションであったことは確かである。ただしもちろん産業との自然な連携が行なわれている場であるので、ほとんどの作品は物語のあるものに限られている。(むしろ、物語を語るメディアとしてのアニメーションに特化した作品が強かったというべきか。)抽象・実験系作品は2、3作しか見ることができなかった。

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