STEVE N’ STEVENはアニメ業界に何をもたらすのか 後編

アニメーション監督 神山健治も出資する新会社
『全ての顧客を観客に』
STEVE N’ STEVENは、アニメ業界に何をもたらすのか 後編

インタビュー
古田彰一氏(博報堂)/神山健治監督/石井朋彦プロデューサー



STEVE N’ STEVENの取り組み

STEVE N’ STEVENの新しさは一体どこから生まれて来るのだろう。いままでの会社、プロジェクト、組織とは何が違うのか?それは、これまで距離のあったコンサルティングとコンテンツがつながることで生まれるようだ。
古田氏の考える「コミュニケーション業界のスマイルカーブ」に、その秘密が隠されている。

■ コンサルティングとコンテンツがつながる そこから生まれるのは?

アニメ!アニメ!(以下AA)
ビジネスモデルがないというお二方の話ですが、リリースでは「コミュニケーション」というキーワードがあります。これは何を指すのですか?

古田彰一氏(以下古田) 
すごく簡単な話です。ここにスマイルカーブがあります。(図表1参照)コミュニケーション業界におけるスマイルカーブは、片方がコンサルなんです。そしてもう一方がコンテンツなんです。何を意味しているかというと、これはワークフローにおける利益率です。広告でも映画でも何でも、出資者に対してコンサルティングする業務は一番利益率が高いんです。

古田
もうひとつのコンテンツ、特にロイヤルティーが絡んでくるコンテンツは利益率が非常に高いです。

AA
そのコンテンツは制作でなく、コンテンツそのものということですね。

古田
はい。だから制作はスマイルカーブで言えば、コンテンツのやや下の部分です。スマイルカーブでいうと両側が非常に利益率が高いのだけれども、おそらくいまのアニメーション業界はこの制作の部分だし、広告制作はコンサルのやや下の辺なんです。

AA
厳しいですね。

古田
要するにここはプロセスなんです。プロセスは、簡単にいうと人数に置き換えられる仕事にどんどんなっていくので利益率が悪くなる。

AA
価格競争に陥りやすい場所ですね。

古田 
その通りです。ですのでコンサルとコンテンツがつながることが一番いいわけです。僕、実は、クリエイティブコンサルタントもやっているのですが、経営者や役員に直接、「困っていませんか」、「こういうCMを作りませんか」と2年間やってきて、それがだんだん限界にぶち当たってきたんです。

AA
なぜですか。

古田 
結局、広告会社のクリエイターだからです。つまり、広告会社にいる限り、それは宣伝部からの仕事を受けるものというビジネスのスキームが出来ています。
一方2年間やっている中で、アニメーション業界が持っているコンテンツパワーにすごいものがあることが分かりました。しかも、企業の方々がアニメーションが好きだという事例が非常に多いんです(笑)。
だとしたらコンサルとアニメーションをつなぐべきでしょう。広告のほうはコンサルに上がっていく作業につながるし、アニメーション業界もここにつながることで高付加価値な仕事が出来ます。

AA
例えば、神山監督が作品の中で近未来的ないろいろなアイデアを出しています。そうしたものを念頭に置いて、これはこの企業に当てはまるみたいなアプローチもありますか。

古田
もちろんあります。

神山健治監督(以下神山) 
例えば『攻殻機動隊』好きですという方がいらしたとしたら、それから派生したショートムービーを作ることが出来るかもしれないし、それを本編(映画)の方にもフィードバックすることができる。双方向になったと思うといいんですね。
たまたま僕は『攻殻機動隊S.A.C. SSS』で、日産と偶然そういうことをしたのです。別にタイアップでも何でもなくて、たまたまクリエイター同士で共感するところがあったから実現しました。
本来なら、他社のパソコンに入れることすら出来ない超極秘のコンセプトカーのモデリングデータを貸していただいた。しかも、それと引き換えに(映画に出す際には)必ず社名やロゴを大きく写してください的な御決まりの要求も一切なしです。それで、我々は日産デザインチームの心意気にこたえて、その車のナンバープレートを「2339(日産サンキュー)」にしてたりするわけです。でも、これはCMではできなかったことなんですね。互いにリスペクトしていることで、通常のCMよりもはるかにお客さんに好意的に受け入れられたわけです。

■ ふたつの入り口とふたつの出口

古田
それと今回のSTEVE N’ STEVENの役割は、ダブルエントランス、ダブルエグジットと捉えてもらえるといいと思います。コンサルとコンテンツ、どっちから仕事が入ってきても、どちらにも出せるかたちですね

AA
それは分かりやすいですね。

古田 
今までは片方の入り口しかなくて、こっちに来た人が「うちでは出来ません」と言われ、そのまま実現されなかった企画がいっぱいあります。その逆もいっぱいある。でもどっちかで受けて、どっちにでも組み合わせて流せるという回路が出来れば、無駄にならずに、しかも間にいるスタッフや製作委員会などで全員が仕事の量を増やせる。つまり、仕事の受けの歩留まりが高まります。

AA
入り口を増やすことで仕事が増えて、皆さん幸せになれるということですね。

古田
アニメーションと広告という見方だけでは、何か狭いニッチなものを間に作ったのかなと見えるんです。そうでなくてバスケットボールのゴールをぐーっと広げたという感じですね。

2ページ目 「共感市場」とコミュニケーションへ続く