STEVE N’ STEVENはアニメ業界に何をもたらすのか 前編

アニメーション監督 神山健治も出資する新会社
『全ての顧客を観客に』
STEVE N’ STEVENは、アニメ業界に何をもたらすのか 前編

インタビュー
古田彰一氏(博報堂)/神山健治監督/石井朋彦プロデューサー



4月1日、日本のアニメ業界とコミュニケーション業界で、新たなビジネスを目指す会社STEVE N’ STEVEN(スティーブンスティーブン)が設立された。二つの業界をつなげる、映像とコミュニケーションのコラボレーションというコンセプトの斬新さだけでなく、多くの人を驚かせたのはその出資構成だ。
博報堂DYグループに加え、『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズや『東のエデン』、『精霊の守り人』などで知られるアニメ監督の神山健治氏が出資者に名を連ねる。大手企業の出資する新会社にクリエイター自ら出資することになる。また、神山監督は博報堂のクリエイティブディレクター古田彰一氏と伴に、同社の共同CEOに就任した。自ら経営を執る二人のクリエイターにも注目が集まる。
STEVE N’ STEVENが目指すのは何なのか? 二人のクリエイターが経営を執る意味、そして戦略は?それを明らかにするべく、古田彰一氏、神山健治監督、そして、同社の取締役プロデューサー・石井朋彦氏にインタビューを行った。

株式会社STEVE N’ STEVEN(スティーブンスティーブン)
資本金 3000万円
出資比率 博報堂51%、博報堂DYメディアパートナーズ32%、神山健治10%、他7%
設立 2011年4月1日
代表取締役社長 共同CEO :古田彰一(※博報堂より出向)
代表取締役 共同CEO :神山健治
取締役プロデューサー : 石井朋彦


株式会社STEVE N’ STEVENとは何か?

誰もが疑問に思うのは、そもそもSTEVE N’ STEVENとは、どういった存在なのか? どうやって生まれたのかだろう。実は、その謎は「STEVE N’ STEVEN」という会社の名前で知ることが出来る。
そして、会社はまだきっかけに過ぎず、今後の新たな展開も準備中とのこと。共同CEOの古田彰一氏が、STEVE N’ STEVENについて語る。

■ STEVE N’ STEVEN: 映像と広告の頂点を目指す

アニメ!アニメ!(以下AA)
まず、一番聞きたかったことなのですが「株式会社STEVE N’ STEVEN(スティーブンスティーブン)」の社名の由来を教えてください。皆さん「かっこいい」と思っているのですが、どこに由来するのかは、これまでのところ明かされてないはずです。

古田彰一氏(以下古田) 
広告=コミュニケーション業界と、アニメーション=映画業界が融合する時、それぞれの頂点が交わるぐらいの志を持ちたいと考えました。神山さんと僕の世代にとって、コミュニケーション業界の世界最高峰はスティーブ・ジョブズであろうと。そして映画業界の最高峰はスティーブン・スピルバーグであろうと。もしこの二人が組んだらどんなワクワクするビジネスになるだろう、というドリームを社名に込めました。つまりスティーブ・アンド・スティーヴン、アンドを縮めてSTEVE N’ STEVEN。これが社名の由来です。

AA
そうした二人の出会いで始まったSTEVE N’ STEVENですが、設立のきっかけはどういったものですか。

古田 
そもそもは僕が神山監督の大ファンだったんです。憧れの神山監督とTwitterで仲良くなって、そこから会社設立に至りました。
Twitterを含めお付き合いをするようになり、いろいろ話しました。最初は、テレビコマーシャルで神山監督の演出、プロダクションI.G制作といった仕事になるといいなと思いました。ところが、お互いがコミュニケーションとかアニメーションという枠を超えて、もっと世の中に対して新しいエンタテインメントを目指す、ひとつ上の目的を見ていると感じました。だったらこれはひとつの仕事でなく、事業化し継続的に取り組むほうがいいんじゃないかと考えたんです。

AA
皆さん気になっていることですが、現在プロダクション I.Gに所属している石井プロデューサーは、どのような立ち位置で新会社に関わるのですか?

石井朋彦プロデューサー(以下石井) 
僕は出向及び兼務という形で、プロダクションI.GとSTEVE N’ STEVEN双方の業務を担当する形となっています。これまでのように、主要業務であるアニメーション制作を、神山監督と共に、プロダクションI.Gで行うことに変わりはありません。

古田 
実は先日(4月5日)の会社設立発表リリースが第一弾で、もう1度、2段目のロケット、展開を用意しています。ただまずは、神山監督と古田というふたりのクリエイターが新しい会社を設立したという事と世の中に知ってもらった上で、現在進行しつつあるプロジェクトを、ひとつひとつ、進めてゆきたいと考えています。

石井 
既に複数のプロジェクトを、STEVE N’ STEVENとを中心に進めています。企画段階の作品や、広告業務も多く、まだ発表できないものも多いのですが、我々のTwitterアカウント等で、適宜発表してゆきます。

AA
共同CEOが二人、広告のクリエイターであり、アニメのクリエイターである。そうなるとマネジメントは、石井プロデューサーに比重が大きくかかるのですか?

古田 
今回のSTEVE N’ STEVENは最強のプロデューサー陣です。日本のアニメーション業界の今後を背負っていくプロデューサー石井さんと、博報堂側からも、優秀なクリエイティブプロデューサーがついています。それぞれの業界から最高のプロデューサー陣がバックアップに入っているわけです。少人数の会社ですが、相当高密度な人材が揃っています。

AA売り上げ目標はあるのですか。

古田 
一応ありますが、売り上げよりはクリエイティブの内容が大切です。規模よりは高品質な業務で、そして業界全体がもっと潤うような、そういう発生点になっていく会社になるといいなと考えています。

■ ビジネスモデルはない、それがビジネスモデル

AA
当初の新聞報道では広告のコンサルティングとされていました。でもリリースを読むとそれとはやや違う感じもします。実際の主な事業は何になるのでしょうか?

古田 
抽象的な話と具体的な話があります。抽象的な話では、「STEVE N’ STEVENのビジネスモデルは何か」と問われると、簡単に言うとないんです。毎回、ビジネスモデルをつくるのがビジネスモデル、ぐらいの話です。クライアントさん、または観客が求めているものに応じてやりかたを変えていきます。
それを具体化したものでは、例えばいま劇場で上映されているNTTドコモさんの広告『Xi AVANT(クロッシイ・アバン)』です。3分半の作品で、神山監督演出、プロダクションI.G制作です。

AA
『Xi AVANT』の意味についてもう少しお願い出来ますか?

古田
『Xi AVANT』は、近未来をアニメーションを通して描くことで、サービスのリアリティを感じて頂けるのではないかと考えて作りました。アニメーションは未来のワクワクを描くのに適している表現手法なんです。
実写ではリアルに描くと、どんどん逆に嘘に見えてくる。現実にないものを描こうとするので、どうしても存在の芯が外れてくるんです。
アニメーションはすごく不思議で、もともと嘘の世界なので、その中でリアルなものを描けば描くほどより本当らしく感じます。近未来における企業のビジョンや人々の生活の新しさを可視化する作業では、アニメーションが果たす役割はこれまで以上に大きくなると見ています。

AA
それはアニメーションの手段だけに限ると考えていいんですか。

古田 
限りません。アニメーションの描き方は、「表現」と「物語構想」の2つに分けられると思います。ひとつは表現自体がものすごく緻密でアクティブでクールに見える。もうひとつは物語の創作能力、作家性です。
いまは「新しい商品が出来ました、いいでしょう」と言ってもみんなが昔ほど拍手しなくなっている。それが自分の生活の中でどう組み込まれて、商品を買うことで自分の生活がどうよくなるかの物語が描けないと、手が伸びない。
その物語創作能力において、日本のアニメーション業界の発想や物語を組み立てる力は世界有数です。そうした物語能力をコンサルティングに活かしたいと思っています。制作する時にはセルアニメーションもあれば3DCGもあれば、実写の中に組み込むCGを含めていろいろな手法があるはずです。

2ページ目 「監督 神山健治の挑戦」へ続く