ニコニコ動画で変わる ミュージカルの体験 片岡義朗プロデューサー インタビュー

ニコニコ動画で変わる ミュージカルの新しい体験
片岡義朗プロデューサー インタビュー

■ ニコニコミュージカルとは
ネットを通じた新しいエンタテイメントを創り出すニコニコ動画は、2009年12月に「ニコニコミュージカル」をスタートさせた。これまで劇場でしか観ることができなかった公演を、コメント付きで楽しめる「ニコニコ生放送」でライブ配信する。リアルの舞台、ネットでの経験とふたつの楽しみ方を提案する。
第一弾『クリスマス・キャロル』は元ライブドア社長の堀江貴文さんが主演、第二弾の『ニコニコ東方見聞録』はメインキャストをニコニコ動画で人気の有名ユーザーが出演、「ボーカロイド」をテーマとする。第三弾『ニコニコニーコ』では、声優たちの生活感溢れる楽しさを伝える。
「ニコニコミュージカル」では、ニコニコ動画特有のネットでの生ライブにより、これまで劇場に制限されていた演劇に全く新しいかたちを持ち込む。これにより演劇のビジネス構造をがらりと変えることが出来るとする片岡義朗エグゼクティブ プロデューサーに話を伺う。

ニコニコミュージカル 公式サイト  http://nicovideo.jp/nicomu/

■ 片岡 義朗(かたおか よしろう)
1979年に日本初のアニメファン向けラジオ番組『アニメトピア』を企画。メディアミックスとして成功させ「アニラジ」のジャンルを芽生えさせる。その後、旭通信社(現:アサツーディ・ケイ)に移籍。子会社の日本アドシステムズ(NAS)の役員として、テレビアニメの企画・プロデュースに携わる。1998年にはアニマックスの創設に関与、2000年にマーベラス音楽出版で代表取締役、その後マーベラスエンターテイメントの取締役を務めた。
2010年にドワンゴに移籍、執行役員としてアニメ・舞台プロデューサーを務める。現在は、ニコニコ動画とライブを融合させる「ニコニコミュージカル」の制作に携わる。
これまで『蟲師』や『タッチ』をはじめ数多くのアニメに関わるほか、アニメ・マンガミュージカルの分野でも知られる。SMAPが主演のミュージカル『聖闘士星矢』、一大ブームを巻き起こしたミュージカル『テニスの王子様』でこのジャンルを定着させた。


【なぜニコニコ動画でミュージカルだったのか】

アニメ!アニメ!(以下AA)
まず、ストレートな疑問なのですが、なぜニコニコ動画でミュージカルだったのでしょうか。ここから教えてください。

片岡義朗プロデューサー(以下片岡)
「なぜミュージカルか」、これは人間の五感を一番多く刺激する演劇がミュージカルだと思っているからです。つまり、ミュージカルには音楽、メロディーがあってリズムがあります。そして、歌があってダンスがあり、お芝居がある。それは非常に観やすい表現です。
いわゆる演劇はセリフのやりとりで、舞台上の人間の心理をくみ取る表現だと思います。音楽的な要素は非常に少ない。それに比べてミュージカルは、音、リズム、歌があり、目と耳で体感するので演劇的な表現の中では一番取っつきやすいジャンルです。演劇に慣れてない人でも、ミュージカルからだったら観てもらいやすいかなと思います。

AA
今のお話は非常に分かります。ただ、ミュージカルはとても体験的なもので、その場で味わうという意識が強いと感じます。それが動画配信であるニコニコ動画と結びつきました。なぜこの二つを結びつけようと考えたのですか。

片岡
僕はミュージカル「テニスの王子様」のようにアニメを舞台化するという発想で25年ぐらいやり、初心者に演劇を観てもらう入口としてのミュージカルを実現しました。それはジャンルとして定着したし、自分でも手応えがありました。
ところが次に、遠隔地の人は観に来られないという大きな問題がありました。遠隔地の人は生の舞台を楽しむチャンスがとても制約されています。それに対する縛りをなくす。リアルな空間には来られないけれども、ネットの同時中継であれば楽しんでもらえるのでないかと思っています。

それと、ミュージカルは演劇なので、劇場の中で騒いじゃ駄目だという大原則があるんです。拍手はいいけれども、立ち上がってはいけないし、叫んでもいけない。隣に他人がいるのが前提なのでモラルがあります。
でも、本来は叫びたいし、ギャーギャー言いたいはずです。それがネットだと実現出来ます。ネットで観る限りは、もう自由に「ギャー!」とも言えるし、もちろん「888」(パチパチパチ)も出来る。「orz」もありだし、限界はありますけど、何でもありなわけです。
ミュージカルを観ながら誰でも自分の感覚を表現できる、その面白さ。ニコ動の特徴であるコメント・オーバーレイという機能だとそれが非常に活きる。そういう意味で、ニコ動でミュージカルをやっていきたいと思ったんです。


【大原則は、世の中で今うけているもの】

AA
今、第5弾まで発表されています。ミュージカルへの入りやすさ、しかもアニメ・マンガの舞台化で実績のある片岡プロデューサーが乗り出すとなると、最初にもっとアニメ的な作品が出てくるのかなと思いました。そこに堀江貴文さん主演の「クリスマスキャロル」だったので、少しずらされたのかなと感じました。作品の選択はどの様にされたのですか?

片岡
第1弾の「クリスマスキャロル」は、社会的なテーマで打ち出したいと考えました。それは私がプロデューサーとしてニコ動でミュージカルを作る時に、娯楽ではあるけれど社会情勢に対してテーマ性を投げかけたい気持ちがあったからです。格差社会や金権主義社会ですね。そこで「クリスマスキャロル」を堀江貴文さん主演で上演したんです。
アニメタイトルの舞台化は当然、頭の中にあります。それは私がやり始めたことではありますが、既に大勢の人がいろんなものを作っている。あえてニコ動の最初のミュージカルをそのジャンルでやる必要はないと思ったんです。

AA
それは、例えばミュージカル「テニスの王子様」のような作品とは手法は違うのですか?

片岡
手法的には同じですね。大原則は、世の中で今うけているものです。うけているものは、必ずその時代の、その瞬間の社会の旬を捕まえているものだと思います。それは必ず舞台化すべきです。方法論としては同じですよ。
金権主義社会とか格差社会は、世の中のある種の現在のテーマであるわけだから。それを娯楽作品にして見せる。旬のテーマということに関しては舞台じゃなくてもアニメでも同じですしね。

AA
去年の12月から始められて非常にスピーディーに次々に作品が出ています。今のお話を伺って思ったのですが、そのスピード感も時代を捕まえることにつながっているのでしょうか?

片岡
本当はもっとゆっくりしたいんだけど。(笑)
ニコ動ユーザーは、今までそれほど演劇、ミュージカルに親しみがない方たちだろうと思っているので、タイトルをたくさん出して視聴習慣を持って欲しいという狙いがあります。どれかひとつ観てもらう。「あ、これ面白そうだ」と思う人たちを増やさないと。市場参入する時にはおそるおそるでなくて「行くぞ!」と。そういう発想です。


「ニコニコ東方見聞録」から
「ニコニコ東方見聞録」から



【「物語そのものをニコ動にしよう」が「ニコニコ東方見聞録」のアイディア】

AA
第2弾の「ニコニコ東方見聞録」を拝見したのですけれど、ニコニコ動画自体がテーマになっており、まさに時代を掴んだという感じです。あのアイデアは、どの様に生まれたのですか?

片岡
ニコ動アーティストといわれるジャンルの人たちがいて、ボーカロイド楽曲をカバーして「歌ってみた」というカテゴリーの動画を自分でアップして人気になっているんです。彼らは基本的にはアマチュアの人たちが多いんですが、歌うという表現はミュージカルと割と近いところがあるので、活動の場の一つとして舞台に出てきたらどうでしょうかという提案です。
それとニコ動が持っている音楽コンテンツの強さ、広がりですね。音楽業界におけるニコ動ボーカロイド楽曲、歌ってみた系のアーティストの力です。

AA
何かちょっと不思議な体験だなと思いました。ニコ動でもともと出ていたコンテンツがライブになって、それがまたニコ動に跳ね返って来ます。

片岡
そうですね。実は途中で大きく路線変更があって、それが「物語そのものをニコ動にしよう」というアイデアでした。出演者が全部決まって別のストーリーを用意していたんですが、それよりニコ動そのものを舞台にした方が面白いねと路線変更をしました。

AA
その第2弾もそうですし、第1弾もかなりニコ動のユーザーさんにとってつっこみどころが満載でした。あれはかなり意識されているのですか?

片岡
しましたね。堀江さんは世間的な大メディアでは非常にバッシングされている方なんだけれども、ネット上では非常に支持する人たちが多いんです。ネット上での堀江さんの影響力、あるいは堀江さんを分かっているネットユーザーがたくさんいることは十分に意識しました。
その人たちに堀江さんがこの舞台にどれだけ真剣に取り組んでいるか、あるいはこの舞台のテーマ性に対してどれだけ自分も今まで生きてきた過程、考え方を合わせていく。その中で堀江さんなりに、どういうふうにこの舞台の中から新しいテーマを見つけていくかを発信し続けました。そういうところも含めてのつっこみどころですよね。

AA
逆に言うと、実際のリアルの舞台だけじゃなくて、その前、後ろも全て楽しめるといことですか?

片岡
そうですね。それは第2弾も同じです。オーディションをニコニコ動画で公開したんですよ。公開オーディションってたぶん常識的にはしないと思います。
オーディションで落ちるかもしれない、落ちる姿を生中継でさらされるっていうのは嫌だろうと思います。それでも、そのオーディションに来てくれる人がいたというのは、僕の中ではとてもうれしかった。
そういう裏を同時に公開してしまうのもニコミュならではだと思います。
最近では、twitterで役者さんがつぶやくこともあるし、スタッフもtwitterしちゃう。裏表を制限するってどういう意味があるのかなって。僕にとっての原則は「全部あり」。

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