歴史エンターテインメント新潮流で語られた『刀語』の伝染力

HISTORICA
- HISTORICA2010 歴史エンターテインメント新潮流で語られた『刀語』の伝染力-

 京都の東映太秦映画村で12月11日、クリエイターズサミット②「歴史エンターテインメント新潮流」がおこなわれた。これは歴史エンターテインメントの祭典、HISTORICA2010の1イベントで企画に太秦戦国祭り実行委員会が協力している。このような背景の中、歴史をテーマとした、アニメ、大作テレビドラマ並びにゲームのプロデューサーや監督が一堂に会すというシンポジウムが開催された。
 ここでは、その中で行われた講演内容について、講演の最後を飾ったアニプレックス『刀語』、鳥羽洋典プロデューサーの講演を中心にリポートする。

■ 最新技術を使いながらもアナログにこだわった『龍馬伝』

 冒頭は『龍馬伝』のチーフ演出である大友啓史氏が、同作品の舞台裏について解説。「『龍馬伝』はこれまでの大河ドラマとは違った仕掛けをちりばめたドラマだ」と自ら『龍馬伝』の特異性について実際の映像を見ながら解説した。
 制作者がまず念頭においたのが司馬遼太郎の『竜馬が行く』や武田鉄也演じる竜馬からの脱却と、大友氏。武田鉄也演じる龍馬像を打破するために、外観としてはま逆に位置づけられる長身で二枚目の福山雅治氏を起用。更に考えたのが龍馬を描く上での視点。龍馬を主人公としながらその存在に嫉妬する人物をあてるということで、龍馬との接点は歴史的にはかなり後にも関わらず大胆な解釈を試みて起用したのが岩崎弥太郎だったという。「弥太郎の視点から龍馬を描くことで、ドラマの中の登場人物が主人公を語っていく、まさに「龍馬伝」というメタフィクションをつくりだした。」(大友氏)。

 技術的視点でも大胆なアレンジが施された。疾走するシーンでの砂埃にコーンスターチを用いたことや、時代劇にも関わらず現代劇などにおける「スタイリング」という概念を取り入れたとのこと。例えば女性用かつらでも、出来るだけ地髪を使ったと大友氏。また、幕末当時の写真などを参考に、ひとりひとり、中ぞりの幅を変化させたり、限りなくリアルな居住空間を作り上げたセット等、往年の京都で撮影されていた時代劇のように陰影と奥行き、そして闇のある表現に立ち返ったと大友監督。長まわしも本作の特徴。3台のカメラを同時にまわす中、15分もの長まわしをすることでリアリティが生まれてきたと大友氏。最後の暗殺シーンにおいてもプランがまったくない状況で撮影に臨ませたとのこと。「暗殺なので突然殺される。登場人物はこの先何かおこるかを分かって生きているわけではない...福山雅治による龍馬は、まさにその生の感覚を描きとっていく。ある意味、デジタル時代にあって、非常にアナログで描かれた作品」(大友氏)。だと述べた。 
 最後は光と闇、仔細に渡るこだわりをもって作った作品なので、是非DVDが発売されたときは、もう一度見ていただきたいと締めくくった。

■ スーパー大河『坂の上の雲』は大河ドラマの予算規模ですら描ききれない壮大な叙事詩

 この次に登壇したのは、NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』のエクゼクティブプロデューサ、西村与志木氏。NHKとして、『坂の上の雲』の映像化についてアプローチをかけたのが、大河ドラマで『国盗物語』を放送中のとき。当時のプロデューサーが大河ドラマで是非ドラマ化を、と依頼するものの、司馬氏からは、「やめておく」との回答が。以降、数々の映画プロデューサや監督が司馬氏を訪れたが結果は同じだったという。

 これについて西村氏は、冷戦時代で思想的な戦いが進んでいたという時代背景と、映像化が不可能なほどのスケールの大きな物語であったことが理由と推測。大河ドラマでも90%をスタジオで、10%をロケで作成されているという事実に触れ、「映像化出来るレベルはそれで決まってしまう」と西村氏。従って、司馬氏の存命時に映像化の許可がおりることはなかったと当時を振り返った。その後西村氏は、同じく司馬氏原作の『菜の花の沖』をテレビ化したことをきっかけに司馬氏の妻であるみどりさんとの交流がはじまり、実際に「最近の若い人は映像から活字に入ってくる事もある」ということで『坂の上の雲』の映像化を01年に了承した。だが、その後長い間、調査を重ね08年10月から撮影を開始。放送は09年の11月27日から、第一部を5話、第二部、第三部は各4話づつの計13話で構成された。

 当初、『坂の上の雲』はスーパー大河という名のもとにプロジェクトがすすめられた。これは前述のように既存の大河ドラマの器に入りきらないということからだと西村氏。日清、日露戦争という二大戦争の描写からはじまり舞台が米国、英国、ロシア、中国と世界各地にわたるということもその理由だ。実は『坂の上の雲』はNHKにとってエベレストだったと西村氏。「なのでいまだに大河では、日清、日露戦争を描いたドラマを制作したことがない。今回はこのエレベストを乗り越えたいという思いで番組を制作してきた」(同氏)。

 その大きなスケール感を体現しているのが12月26日放送予定の旅順港での奇襲戦のシーンだ。これを再現するためにマルタ島の巨大なプールに実物大の船を浮かべたと西村氏。しかもこれから物語は更なる佳境を迎え、11年にはいよいよ、二百三高地、日本海海戦という劇中もっともスケールの大きい話をもって10年がけのプロジェクトを完結するという。歴史ファンなら涎水ものの展開はこれからも続くようだ。

2ページ(鳥羽プロデューサー、『刀語』におけるツイッター活用の極意を語る)に続く