中国アニメ産業の展望 無錫編 

九久動画-BTO Entertainmentが誇る国際アニメ制作ネットワークにおける中国の総本山

 

王鵬総経理(左)、陸星程プロデューシングマネージャ(右)
王鵬総経理(左)、陸星程プロデューシングマネージャ(右)

  無錫九久動画有限公司(以下、九久)は、08年、三艾動画公司と新光線動画公司との合弁で設立された。もともと三艾は02年に設立され、新光線は、04年に創立されたアニメスタジオでそれぞれ主に日本のアニメスタジオTriple Aから業務を請け負っていたが、需要の拡大に合わせ、スタジオそのものの大規模化を進めたいという宋仁圭会長の意向から資本金2000万元(2億4000万円)で九久として新たに立ち上げられた。このような大規模化は無錫がアニメ産業の発展を推進していたというのも背景にある。
 九久は行政側からの支援も現在受けている。新光線の社長はもともと無錫に存在していた小さなアニメスタジオだったが合弁前までには100名程度の規模に拡大していた。三艾も大規模化が進んでいたこともあり、統合後は300名程度が勤務している。主な取引先としてはOLM DigitalやJC Staff、Bones、また数年前はGonzoなど、多くの日本トップクラスのアニメスタジオが名を連ねる。 
 同社が行っているのは主に動画と仕上げ。ときどき、ラフであがっていた原画を修正してより完成度の高いものにする第二原画までおこなっている。ただ、第一原画やVFXなどのより高度なスキルを必要としている業務はおこなっていない。近々の目標は、撮影工程を中国国内で実現することだとのことだ。Triple A自体が韓国に本社を置くBTO Entertainmentグループの傘下にあることもあり、第一原画を日本、第二原画を韓国、動画から仕上げまでを中国という三国連携で制作が進められることも多いという。世界不況のあおりをうけ、10年は09年比、8割程度に受注が落ち込んではいるものの、現場は、朝番、昼番それぞれ最低限必要な業務自体は確定しており安定はしているという。現在、ほとんどの業務はTriple A経由で日本のアニメスタジオから受注しているが、中国大陸で人気を博した中華圏オリジナルの『風雲』や、Star Qの『秦時明月』などを意識しつつ、BTO Entertainmentとしても積極的にオリジナルの制作を進めていきたいとの意向だ。
 現在プロモーション用に独自アニメを制作中とのこと。様々なジャンルを組み合わせこれまでにない作品を作り上げるべくそれに見合ったアニメ監督を探している最中とのことだ。ベテランというよりは、北京電影学院から卒業したばかりの若くて感性の鋭い監督を探していきたいという。下請け専門から中国独自の感性を描けるスタジオへと、九久は更なる高みを目指す。

慈文紫光-無錫動漫基地のフラッグシップスタジオとして創設された戦略的動漫プロダクション

 

慈文紫光 田亜江エクゼクティブプロデューサー

 慈文紫光は、無錫動画基地の特徴をもっとも端的に示す代表的な大手スタジオだ。同社 は慈文という中国国内大手の映像プロダクションと、清華大学系の校弁企業、清華同方グループでソフトウェア開発の大手、紫光軟件との合弁企業で09年7月に創立された。まず最初に手がけたのが『西遊記』。台湾に本社を置く群英社国際との合作だが、慈文紫光は、当初10名程度が北京の老舗アニメスタジオ出身者で残りが中国各地から採用された40名で構成され、主に企画とクリエイティブディレクションを担当。制作は群英社の上海スタジオにて行われている。全104話の制作費用に5000万元(約6億円)をかけた大作だ。

『チベット犬物語』現在、同社内で鋭意制作中の日中合作劇場用アニメ

 『西遊記』を進行させている中で同社が巡り合ったのがマッドハウスだ。現在プロジェクトとして進行している『チベット犬物語』(仮題)は、09年10月にマッドハウス北京から企画が提案されたことをきっかけとして進んでいる。マッドハウスの技術力や著名な監督の存在に惹かれたという。10年8月時点では、慈文紫光のスタッフは60名に達しているが、同プロジェクトでは、主に動画と仕上げを慈文紫光が、企画から原画までの工程、ポストプロダクション、並びに日本語版の音声収録をマッドハウス側が担当している。キャラクターデザインは『20世紀少年』で知られる浦沢直樹氏だ。動画工程は、慈文紫光側で10年4月から開始している。スタッフの主要メンバーは北京で日系企業とのアニメ制作を長年にわたって行っているということもあり特段課題は無いとのことだが、これからの目標として、海外向けでも耐え得る高い原画制作能力をあげた。そのためにマッドハウス北京や韓国企業からの技術供与を受けている最中だという。
 創立とともに経験豊かなスタッフ主導のもと、垂直立ち上げを実現し、一般的なアウトソーシングスタジオと同等の生産性を誇る慈文紫光。慈文の中国国内における堅固な流通網とマッドハウス北京との強力なパートナシップのもと、更なる成長に期待がかかる。

中国国内においてアニメの「質の向上」に対するニーズが高まれば、確実に更なる発展が望める「匠」の集積地、無錫

 このように無錫においては、歴史的にアニメ産業とのつながりが、とりわけアウトソーシング業務の経験が深く、結果として経験豊かな人材が海外との連携を進めながら競争力の高いアニメを生み出している。
 オリジナルという視点では杭州のように際立った作品や、上海のように商業的に成功した作品が生まれてきているわけではないが、動画や仕上げといった工程においてはある意味前述の地域よりも優れた能力を持つ人たちが数多く存在すると考えられる。いくつかの企業は中国市場の巨大化を目前に控え、まさにオリジナル作品創出の機会を伺っており、彼らの「創造力」が外資系パートナーからの理解や、国内アニメ産業における「質の向上」に対する需要の高まりとともに爆発したとき、その潜在能力が一気に発揮されることだろう。それはすなわち中国におけるアニメプロデュース能力の飛躍的な底上げにも繋がるであろうと推測出来る。

※1円=12円で換算