電通エンタテインメントUSA  坂田雄馬社長に聞く 前編

- 米国で目指す アニメーションのマスマーケット戦略 -
電通エンタテインメントUSA  坂田雄馬社長に聞く

- 近年、「クールジャパン」の掛け声のなか日本アニメビジネスの海外展開が期待されている。しかし、国外最大のアニメ市場である米国では、2000年代半ば以降、日本アニメの市場はむしろ後退気味だ。
様々な理由はあるが、ビジネスの現場における日本側の交渉力の不足も理由のひとつだ。企業規模の大きな現地のメディアグループや大手放送局、量販店などとの交渉に力負けするケースが少なくない。そうしたなかで国内の大手企業が海外アニメビジネスにより積極的に関わることを期待する声もある。
2010年春に国内最大の広告代理店電通は、米国・サンタモニカにアニメーションとキャラクターのビジネスをグローバルに展開する現地子会社電通エンタテインメントUSAを設立した。テレビアニメ『デルトラクエスト』、キャラクター『豆しば』を展開、さらに米国の玩具会社JAKKSと業務提携し、新たな玩具『MONSUNO』を原案としたアニメーション制作を進める。世界有数のメディア・コミュニケーション企業である電通が、米国で目指すアニメーション事業の戦略とは何なのか?電通エンタテインメントUSA  坂田雄馬社長に伺った。-

■ 坂田雄馬 (さかた ゆうま)
1991年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。同年㈱電通入社。
テレビ局に配属され一貫してメディア、コンテンツ関連の業務に携わる。
数々のバラエティ番組、ドラマ、アニメの企画、プロデュースに携わり2003年より日本コンテンツの海外ビジネス展開に従事。
2010年4月よりDENTSU ENTERTAINMENT USAの社長兼CEOに就任。
好きなアニメーションは「CARS」、映画は「猟奇的な彼女」、漫画は「ドラえもん」

【電通エンタテインメントUSAの目指すもの】

アニメ!アニメ!(以下AA)
今回、坂田社長のお話を伺いたいと思いましたのは、米国の日本アニメのビジネスに日本の大企業、ビッグプレイヤーが必要とされているのでないかと感じることが最近多いことに理由があります。2000年代半ば以降、北米における日本のアニメ産業が後退を続けています。こうした状況で日本アニメを扱う会社の多くは比較的事業規模が小さく、例えばテレビ放送局、映画会社、ウォルマートのような大手量販店の交渉でなかなかよい条件を引き出せないことも理由のひとつでないかと思います。
そうしたなかで、グローバルで存在感のある電通さんが電通エンタテインメントUSAをこの春に設立され、大変興味を持ちました。

坂田雄馬社長(以下坂田) 
会社がどう考えているかは難しいのですけれども、個人的にはそうした側面はあると思います。弊社とかビッグプレイヤーが出てこないとアメリカのビッグプレイヤー、世界最大のエンタテインメント市場のビッグプレイヤーたちになかなか勝てないんです。
もちろん作品性や監督性だとかはあります。ただ僕らがプロデューサーという立ち位置でビジネスの相手として見たときには、エンタテインメントの世界ではやはりアメリカが世界一です。単純に輸出の量を見ても、あるいはアメリカのプロデューサーが一番お金を稼いでいます。アメリカのプロデューサーやエンタテインメントのビジネスマンたちに誰も勝てていない現状があります。

AA
そうしたビジネスマンはどんな人たちなのですか。

坂田 
プロデューサーたちは別にいやらしい人たちではないんです。日本の素晴らしい監督や作品があれば、何とかアメリカでもビジネス化したいなと考えます。基本的にはエンタテインメントが好きな人たちです。
ただ、それがいいか悪いかは別にして、ビジネスの世界なので彼らは基本的にあなたの作品でどれだけ稼ぎましょうかという人たちです。そうした時に日本の作品性や監督性だけを頼りにアメリカに乗り込んでビジネスをしようとしても、たぶん一瞬にして蹴散らされます。
我々も苦労する部分はあります。ただ余裕を持ってこうしたビジネスをしたいと臨み、正しいやり方を持ってすれば、決して太刀打ちできないわけではないですよ。

AA
電通エンタテインメントさんの考える正しいやり方とはどういったものですか。

坂田 
我々は、日本のアニメビジネスの大きな流れから始めました。基本は海外番販です。これは単純な輸出ですよね。これも日本の売り手は市場分析以前の話で自分たちのお客さんはどういう人たちかすらよく分からないままビジネスをしているように見受けられます。何となく収入があるみたいなかたちです。そして、この日本のアニメの市場は非常に小さいんですよ。小さ過ぎて日本の大手メディアや電通が扱える市場ではないんです。

AA
小さなマーケットにはお金を出しにくいということですか。

坂田 
そこに矛盾があるんです。大きなメディア・コンテンツ企業がやらなければいけないんですが、アニメですと市場のサイズの問題があります。この小さなマーケットサイズに対してかかるコスト、つまり日本で作ったものをアメリカに持って来るコスト、そのコストに対する収入が合わない。市場が小さいから収入は少ないんです。けれども(2000年前後の)バブルの時はそこにとてつもない数の作品がアメリカに流入する現象が起きていました。アニメ中間業者達がそれを買ってくれていただけの話です。決してその先のファンが買っていてくれたわけではありません。
結論として、やっぱり見合わないですね。僕は日本の本社から来ていますが、駐在員を1人送り込むコストを考えてもです。
では、駐在員を送り込まないでやると、これでは日本の魂を持たない単純にアメリカ人たちのアニメビジネスになるわけです。日本企業から輸出されたものをこちらで受けて、単純にアメリカでさばいていく。番販・単純輸出ならそれはそれでありですが(笑。

坂田 
僕らはアニメの場合は13プラスと呼んでいるんです。つまり13歳以上です。アメリカでアニメといったときは、基本的には日本のアニメーションを愛するファンの人たちに向けた市場と作品です。

AA
コアターゲットですね。

坂田
そうですね。ハイエンドやコアターゲット。中学生以上の子どもたちがターゲットです。彼らは日本の言葉が好きだったり、日本の声優さんが好きだったりします。日本の演出を愛する人たちです。ヒットするものはほとんど日本と同じです。字幕をつけ、日本の声優さんの声でそのまま渡せば彼らは喜びます。
そういうかたちで収入が見込めるので、適性サイズのマーケットに適性サイズのプレーヤーがいれば、大きなビジネスではなりませんが回っていきます。

ただマスマーケットに出ていきたい場合は、これでは出来ません。アメリカ人、特にお子さんは他の言語で映像を見るということに慣れていません。それには英語版を作る必要があります。けれども英語版を作るのは結構お金がかかります。単純に翻訳すればよいと言うわけではありません。そうして英語版を作っても必ずしもヒットはしません。この作品は日本ではマスマーケットで売れたからと思って英語版を作っても、アメリカでマスマーケットに到達しないことが続くと会社が傾いてくんですね。

坂田 
ただ個人的には、僕はコアターゲット否定しているわけじゃないんです。10万人ぐらいのコアなファンがいて、目が肥えているわけです。さらに10万人プラスアルファと呼んでいるのですけど、ここにハリウッドのクリエーターですとかスタジオのクリエーターとか、カッティングエッジな目利きの人たちもいるんです。

市場としては10万人しかいないにもかかわらず、この人たちの発言力が大きいのです。スピルバーグがアニメがいいと言ったりします。すると日本のメディアはそこばかり言い、それを勘違いする人たちがいて、やっぱりアニメだと言います。ただスピルバーグは、演出の方法だとかカメラワークをすごいと言ったのであって、残念ながらアニメのビジネスは10万人なんです。ただ、小さいのですが非常に影響力があります。ここをつぶしてはいけないと思います。
ここをきっかけに会話が進むことって多いんですよ。何とかしてやりたいなという思いもあるんです。ただ、今はこの10万人に向けてだけやるにはまだ体力がない。こちらで1回勝ち名乗りを上げなければいけないなと思っています。

AA
そうした時にマスマーケットに届けるべき作品は、どういったものですか?

坂田 
一方で『ポケモン』があります。『ポケモン』は日本のアニメという意味ではアニメですが、アメリカ人はあれをアニメとは認識していない。『ポケモン』は少なくともビジネスをする方にとっては、完全にアニメーションです。キッズ、ファミリー向けにジャンル分けされています。ある意味ではディズニーのライバルなわけですね。

たぶん報道の問題もあったと思いますが、『ポケモン』がヒットしたことで、日本のアニメはすごいとなったわけですが、それとコアなアニメは全然別物なんです。
コアターゲットですと儲かっても大きくはありません。電通は株式会社なので、株主に対する視点に立ったときには、やはり儲かなければなりません。そうするとやはりマスマーケットです。マスマーケットとは、言葉はアニメではなくて、アニメーションです。

AA
その「アニメーション」のビジネスはどう展開されているのですか

坂田
日本のアニメーションの制作技術は高いと思っています。制作する人たちの力というのは本当にすごい。さらに言うと、低コストです。ただ、低コスト自体は、最近それを前面に出すのはどうなのかなと思うようになりました。同じものを3000万円で作って、500人のスタッフを食わせるプロデューサーがいて、こっちはそれを3分の1で作って、もしかしたらみんながそれほど豊かでない暮らしをしているとしたら、それは違うんじゃないかなと思います。それであまり低コストと言わないようにしています。
ただ、アメリカで勝負するうえでは、同じ金額だったらアメリカのプロデューサーは自分たちで仕切るので、多少はコスト競争力売りにしなければいけないというジレンマみたいなものがあるんです。
ただし基本は制作技術の高さ一点に絞って、うちは日本のアニメーション技術を使って、アメリカのマスマーケットに向けて作品をプロデュースしていこうというスタイルです。

もう1つは、基本、原作にはこだわりません。つまり、マンガにこだわりません。やはり日本のアニメーションはマンガですね。ただ日本人とマンガの様な関係性、これはアメリカにはない。マンガに対する愛みたいなものはアメリカにはないので、マンガを核としたエンタテインメント、アニメーションビジネスは非常に難しいなと思います。

AA
その難しさについてもう少しお願いします。

坂田 
マンガをアニメーションにすると、アメリカでビジネスをするうえでいろいろな弊害もあります。ひとつは、マンガは連載です。週に1回、次号にご期待、来週どうなるんだろうとわくわくします。日本のテレビも週1回の放送ですね。週1回の連載に週1回の放送は、非常に親和性が高くてウィン・ウィンな関係です。
日本では放送局はアニメーションに限らず、1年間53週にすべて新作を流します。一部を除けば基本は再放送をしません。しかし、アメリカでは放送局はそうした編成になっていません。何度もリピートします。すると、次週にご期待というのは、アメリカではやりづらいんです。3話と7話と2話、どれを観ても理解できるようにしないといけません。日本のマンガを原作にするとこれが無理なんです。

AA
確かに金曜日に見て、土曜日にまた同じ番組を観たときに、それが話数の離れたリピートだったら話は分らなくなりますね。

坂田 
そうですね。全然分からなくなったりするんです。アメリカでも地上波の場合は編成をして、週1回土曜日だけ子供の枠とか作ったりします。けれども、これではビジネスとして全然だめになってしまいます。週1回だけの放送だと、その後のビジネスが展開しづらいんです。

AA
それは露出の問題ですか?

坂田 
露出が少ないということです。ところがケーブルテレビですと、人気を取れば新シリーズの初回放送を応援するために大量に再放送をかけてブームアップを作ります。分かりやすいですね。朝に観る子もいれば、夕方5時に観る子もいる。ともかく流しておく。これでは次週にご期待というかたちが出来ません。コアターゲットはいいのですが、マスマーケットでやっていくには、日本のマンガを原作とするときついんです。

AA
そのマスマーケットのボリュームは、どうのような属性になるのですか。

坂田 
子供をターゲットにした12歳以下です。それなので原作は小学生までをターゲットにした全世界の子供たちに受け入れてもらえるものであれば、ゲームコンテンツ、マンガ、小説、キャラクター、何でも構いません。
その代わり日本のアニメーションです。そこを取ったらうちは日本の会社なんで何も残らないので、日本のアニメーション技術の高さをきちんと使いこなし、うちでプロデュースします。あともうひとつあって、脚本はアメリカ人でいきます。これは絶対にうちの方針です。

AA
なぜアメリカの脚本家なのですか?

坂田 
日本のマンガ家さんが競争を経て連載を勝ち取るように、アメリカの脚本家の人たちもすごい熾烈な争いをしています。アメリカは、エンタテインメントは脚本という国です。プロデューサーも脚本と監督で選んでいます。そういう視点です。日本の脚本家は、アメリカのスタイルとかペーシングが分からないと思うんです。これはしょうがないと思います。
それでWRITTEN IN US, ANIMATED IN JPNと言う方針があります。基本はアメリカのシナリオライターと日本のアニメーション技術。さらに言うと、原作は問わない。これがうちの基本のピースです。

■ デルトラクエストの米国放映とそのビジネスに続く