中国アニメ産業の展望 杭州編:中国コンテンツベンチャー群(後篇)

中国アニメ産業の展望
杭州編:オリジナルにこだわった制作で生まれた中国コンテンツベンチャー群(後篇)

中村彰憲 (なかむら あきのり)
[筆者の紹介]
立命館大学 映像学部 准教授/博士(学術)
名古屋大学国際開発研究科修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センターを経て立命館へ。その間、一貫して海外(主にアジア、東欧)を中心としたゲーム産業の動向と国際分業の可能性について研究を進める。研究を継続するうちに、ゲーム業界とCG、アニメ業界との密接な関係を実感し、研究対象の領域も拡大。
最近の代表的な著作に『グローバルゲームビジネス徹底研究』(エンターブレイン)、『デジタルゲームの教科書』(第6章アジア圏のゲームシーン:ソフトバンククリエイティブ)などがある。
Gamebusinessjpでは、「ゲームビジネス新潮流」を連載中。

 前回は、STAR Q にスポットをあて、中国浙江省杭州市において積極的な展開を進めているコンテンツベンチャーについて説明した。杭州にはこのような創業して間もないアニメ製作プロダクションや、オリジナルアニメ制作の本格化をきっかけに同市に移転した企業が数多く存在する。杭州ハイテク区国家動画産業基地事務局主任の王軍氏 によれば中国でいう漫画やアニメ、ゲームなどひとくくりで指す『動漫遊戯企業』は100社強、うちアニメ制作関連は30社にも及ぶという。そこでここでは更にこの度、訪問が実現した企業を紹介していこう。

杭州ではじめて劇場アニメの公開まで実現した盛世龍図

 

盛世龍図 陳徳明氏。メディア業界出身者だ

 初作品でいきなり劇場公開へと結びつけた盛世龍図。その自らの志は、総経理室にも掲げてある。長文だがかいつまんで言えば、「中国文化の理想となりうる劇場アニメをつくりあげ、その夢をもって飛翔する」、といったところだろうか。
 今年7月に中国全国公開を実現したのは『夢回金沙城』(英語名『The Dreams of Jinsha』。現代の子供が子犬を拾ったことをきっかけに、3500年前の中国へタイプスリップし、幻の超文明、金沙城を訪れるといったファンタジーアドベンチャー。キャラクターデザインや、全体的なモチーフが非常にやさしい印象が強く、壮大な中華を思わせる巨大文明の城内と対照的だ。同社は04年に成都で立ち上がり、その後南京などを経て、杭州市が04年に国家動漫基地に選出されたのと同時に本社を設置した。
 「中国アニメのクオリティを高めたかったんです」陳徳明氏は当時を振り返る。「宮崎駿監督の作品に憧れる。彼らのようなチームをつくりたい。」(陳氏) 作品のテーマに動物保護や環境保護といったものがもりこまれているのも自身の宮崎監督からの影響だろうか。世界各地の映画祭への出展の準備も進めている。だが、次のプロジェクトはもうすこしファミリー層を意識した作品を構想中とのこと。理想と現実を双方見定めての戦略に今後の動向に期待が持てる。

Timax-創業時から3Dアニメにこだわり中国で最大規模の3D専門アニメスタジオに成長

 

Timax オフィス

 03年に創業したTimax。05年には『童話動物園』を発表。中国最初のフル3Dテレビアニメと言われる。以降、3Dにこだわり続け、現在150人もの3Dアーティストを抱える。当然制作する作品はすべて内製だと言う。これまでに制作したアニメシリーズはすべて中国のNHKとも言えるCCTVにて放映された。ただ現在のアニメや漫画に関するコミュニティが発展している状況を新たな商機ととらえ、コミュニティサイト『66動漫街』(www.66dmj.com)も立ち上げた。こういった素早い対応は、総経理が個人的な投資家として活躍していたころに培った能力であろう。
 現在は、日本アニメの古典にして杭州の伝説でもある『白蛇伝』をフル3Dで制作するべくプリプロダクションを進める一方で、フランスとの合作による劇場アニメにも取り組んでいるという。3Dを競争力の源泉として安定的に国内放送向けのアニメ作品を供給しながらグローバルな戦略も進めるしたたかさには舌を巻くばかりだ。

Magic Mall

 

Magic Mall ディレクター劉健中氏は中国アニメ業界のベテランだ。

 Magic Mallは、中国国内でも最大規模の生産量を誇るアニメスタジオだ。人民日報という中国大手新聞会社傘下で北京に所在するメディア企業から、オリジナルアニメ作品を作り上げるという目的で08年に杭州市に設立されたスタジオだ。ここまで素早い立ち上がりを実現したのものメディア企業大手がバックに存在していることもあるが中国国内で幅広い支持を得た公共道徳を啓蒙するキャラクター、洛宝貝の存在がひとつの要因としてあげられる。09年に中国紅十字基金会ブログ基金のイメージキャラクターに就任したのを皮切りに、様々な公共意識の啓蒙に関するポスターへ映像などに展開され好評を博しているのは国際動漫節の記事でも触れたとおりだ。以降その路線の展開が更に進み、今年の6月には北京市朝陽区のイメージキャラクターにも就任している。
 同社は制作する作品を2Dに絞り込み社内の共通ツールをAdobe Flashにしている。これについて「Flashはあくまでもツール。優れた作品をつくるには原画の描画が最も重要」と同社のディレクターを努める劉健中氏。これからより質の高い作品を生み出していくことに意欲を示した。

洛宝貝は、杭州や北京にサテライトショップを立ち上げるとのことだ

東方國龍

 東方國龍ももともとは北京に所在していたアニメスタジオだが、杭州が国家動漫産業基地に指定された05年に杭州に本社を移行した。同社は92年に設立されてからは、コミックやアニメや模型制作など青少年を対象とした書籍を発売しながら97年からCCTVの青少年部とともに映像作品を制作。
 その後、同局とともに教養的アニメ作品を複数制作してきた。杭州に本社を移した後、05年に上海金 糸糸(※中国語一文字)猴集団(Shanghai Golden Monkey Group Co., Ltd.)との合作でオリジナルアニメ『Golden Monkey Wanders in Animal Sign Kingdom』を制作。同作は国内各地域の放送局やインド、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナムなど海外の放送局などを含め300局にて放映された。以降は、数々のオリジナルアニメを制作し、10年には、熊をモチーフとした『Jamie Bear』を制作。欧米市場を意識した同作はデザイン、音楽などにも積極的に欧米的なモチーフを取り入れた。
本社は杭州だが、制作拠点を北京にも構えるという姿勢で北京時代から培われた制作ネットワークをそのまま継承している。

 以上、各社各様の戦略をそれぞれ展開しているが、「オリジナル作品」に対する想いを強くもっているのが各スタジオの特徴と言える。この他にも杭州の中でも生産量が最も多い中南※通、00年代に、『藍猫(Bluecat)』で中国国内の子供たちの間で人気を集めた中国三辰?通集団のCEOが立ち上げ新作『虹猫藍兔七侠伝』が中国国内で高い評価を得ている宏夢※通といった企業がある。
 だが、中国は広い。他の国家動画産業基地は杭州市の基地とは違った独自性をもっている。そこで次回は無錫の動漫産業基地をその特徴的なアニメスタジオの状況とともに紹介したい。
※は「上」下に「ト」