中国アニメ産業の展望杭州編:中国コンテンツベンチャー群(前篇)

中国アニメ産業の展望
杭州編:オリジナルにこだわった制作で生まれた中国コンテンツベンチャー群(前篇)


中村彰憲 (なかむら あきのり)
[筆者の紹介]
立命館大学 映像学部 准教授/博士(学術)
名古屋大学国際開発研究科修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センターを経て立命館へ。その間、一貫して海外(主にアジア、東欧)を中心としたゲーム産業の動向と国際分業の可能性について研究を進める。研究を継続するうちに、ゲーム業界とCG、アニメ業界との密接な関係を実感し、研究対象の領域も拡大。
最近の代表的な著作に『グローバルゲームビジネス徹底研究』(エンターブレイン)、『デジタルゲームの教科書』(第6章アジア圏のゲームシーン:ソフトバンククリエイティブ)などがある。
Gamebusinessjpでは、「ゲームビジネス新潮流」を連載中。

杭州の街並み

 ここ数年の間、中国アニメ産業の躍進が目立つのは周知のとおりだ。国家広電局は05年より中国国内での放映を視野にいれて制作されたアニメ作品の申請を制作会社に義務づけており以降毎年地域ごとの変遷を発表している。その中でも特に注目されるのが杭州だ。杭州といえば今やアジアでも随一ともいえる中国国際アニメフェアの仕掛け人というイメージが強いが、アニメ生産量においても最大を誇る、名実ともに中国アニメ産業において北京や上海と肩を並べる存在感を持ち始めている。本稿においてはその中でも杭州国家動漫基地の特徴を端的に示すStar Qについて紹介しよう。

沈楽平氏近影

 Star Qはブランド名で実際の企業名はHangzhou Xuanji Science and Technology Information Corporationという。上海に80名、杭州に50名を抱える新鋭のアニメスタジオだ。スタジオ自体はRobin Shen氏が01年、上海にて立ち上げ、以降ゲーム用グラフィックやアニメ作品の受託を専門におこなってきたが、05年に本社を杭州に移してからはオリジナル作品も製作。その中でも特に大ヒットを記録したのが全編CGによる大作『秦時明月』シリーズだ。杭州国際アニメフェのリポートで紹介したブースでのコスプレショーが観衆からの熱狂的な支持を得ていたあの作品(http://www.animeanime.biz/all/2010050901/)である。
 7部作に1億元(12.5億円)をかけて制作する予定で、10年08年の段階で3部作まで完成しており、中国におけるNHKにあたるCCTVや4大アニメ専門衛星放送を皮切りに国内600局が放送している。なお、最新作である第三部は2010年7月26日からCCTV1で放送されたばかりだ。また同作品は新放送とほぼ同時期に迅雷在線からオンライン配信がおこなわれ、最初の1週間で127万ビューを記録した。第一部、第二部については既にDVD販売もおこなわれている。第一部は10話のみだったが、第二部は18話そして第三部は、35話が製作されているところをみると、各部の内容に応じて話数を変えることが出来るようだ。このような臨機応変さも中国ならではと言えるだろう。

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ゲームオープニングCG並みのクオリティで全編
制作・Autodeskが選ぶAnimation Showreelにも選出

 作品もゲームのオープニングムービーを想起させる作りこみが全編にわたっておこなわれており、作り手の作品に対する思い入れを感じることが出来る。ゲーム的要素が感じられるのも総監督兼総経理を努める沈楽平氏がUbi-soft上海などをはじめとしたゲーム業界からキャリアをはじめているのと無関係ではないだろう。その結果、『秦時明月』シリーズは各部ごとに大小様々な賞を受賞した。特にに第三部である『秦時明月:諸子百家』はSiggraph2010の際、Autodeskより2010年度Animation Showreelのワンシーンに挿入された。「『欧米のトップクラスのアニメスタジオとともに作品が映し出されて本当に嬉しい」とエクゼクティブプロデューサーの楊智超氏が率直に語る。
 始皇帝による中国統一から項羽による阿房宮焼失までの30年間を中心とした群像劇という大河ドラマ的ストーリーは中国国内で著名な台湾の事業家にして作家である温世仁の小説が原作。かつて沈楽平氏も温世仁氏が経営する企業で働いた経験があり、独立する際に作品の二次利用に関するすべての権利について許諾を得たという。また展開に関しては温氏自身からも投資を受けたとのことだ。

 作品の対象を12歳から25歳のアニメやコミック、ゲーム好きと明確に絞り込んだ戦略を打ち立て、それに合わせてマルチメディア戦略をStar-Qの主導で打ち出しているのも本作品の特徴といえる。玩具など各種マーチェンダイズも国内5000店のコンビニエンスストアと連携し販売網を確立した。
 劇場作品化については2012の夏期にSMG配給により上映が決定している。これに加えオンラインゲームの開発も構想中で、これについては複数の主要オンラインゲームパブリッシャーと話し合いを進めている。
 
 これらの一般的なマルチメディア戦略に加えStar-Qは興味深い試みも同時におこなっている。まずはテレビでの放映権についてだ。同社は、作品が新しくなるごとにCGのクオリティを高めているが、そのたびに過去の作品もアップグレードしているのだ。そして既に放送権を購入済みのテレビ局に対しては以降、再放送する場合はアップグレード版の放送権を自動的に認めているという。さながら保守費をはらった業務用ソフトのアップグレードのようだがそのモデルをテレビ業界でも応用出来ないかとの発想で考案したのがこのモデルだという。

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ファンからの熱烈なサポートで広がる『秦時明月』ワールド

 更に重要な独自の試みはファンとの密接なコラボレーションだろう。自発的に組織された秦時明月全国秦迷聯盟(秦迷は熱烈なファンの意)に対し、Star Qが中国では初めてその活動を公式に認知したのだ。現在、杭州、上海、北京、天津をはじめとした11の都市及び省に点在する組織が小説、イラスト、漫画、コスプレ、音声ドラマなど多種にわたる同人活動をおこなっている。独自にゲーム開発までしてしまったチームもおり、これらすべての活動において自身で作り上げた作品の売買も含め許諾している。同時にコスプレイヤーの写真集や、同人イラスト集も自ら販売している。
 このような同人活動の「奨励」とも見て取れる企業側のサポートに関し沈氏は「日本やアメリカのような漫画やアニメ産業が成功している国においても作品が成功するにはファンのサポートが不可欠。『秦時』には同人活動をしているファンが数多くいるがこれらの人たちをサポートをすることで作品が盛り上がるのだ。最も貢献したファンにはエンドクレジットに名前を載せて感謝の意を示している程だ」とキッパリ。このようなファン意識を熟知しての戦略の打ち出しから、担当部局ごとに裁量権が分断されがちの大規模な企業では対応しにくい課題も克服していこうとするベンチャースピリットとトップの決断力を伺うことが出来る。
 グローバル展開も進めており、カナダ、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、ロシア、ポーランド、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、韓国と全世界34カ国、7種の言語での発売が進んでいる。中国国内で圧倒的な支持を得た同作品が他国で如何に受け入れられるか期待が膨らむ。
 このように杭州の動漫産業基地にはオリジナル作品の開発を進めることで中国国内での劇場公開や海外テレビ局での放送権などの販売に成功した企業が複数存在する。次回はそれらの企業の状況について更に紹介していく。

後編に続く 

周辺グッズ

*本調査には、浙江大学デジタルコンテンツ研究センターの夏瑛先生に多大な協力をいただいた。ここに感謝の意を表したい。