アヌシー2010とヨーロッパのアニメーションの現状 第3回

アヌシー2010とヨーロッパのアニメーションの現状 第3回
ヨーロッパと日本の若い世代

オフィスH 伊藤裕美
[筆者の紹介]

伊藤裕美 (いとう ひろみ) 現職 オフィスH(あっしゅ)代表。
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
1999年より毎年、世界最大規模のアヌシー国際アニメーション・フェスティバルに参加し、プチ・セレブ気分でアニメーション三昧の1週間を過ごすのが趣味。
http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp



MIFAのAmkamaブース 撮影:伊藤裕美

■日本のマンガやアニメに憧憬と敬意を抱く、
ヨーロッパの“若い人”たち:Ankama Japan

 アヌシー2010で日本の影は薄かった。ジャパンパッシングが始まっていると感じることがしばしばあった。だからこそ日本を見放さず、日本のマンガやアニメに憧憬と敬意を抱く、ヨーロッパの“若い人”とも手を組もうではないか。
 中野区にあるAnkama Japan(アンカマ・ジャパン、http://www.ankama.jp/jp)は、北フランスのリールに拠点を持つ、オンラインゲームの制作会社Ankama(アンカマ、http://www.ankama.com/fr)が全額出資して昨年設立した日本法人だ。ジェネラルマネージャーのマチュー・ユナ氏は「日本法人はアジアの拠点。日本で、日本や韓国出身のアニメーターと一緒に、フランスのFlashアニメーションと日本の2D技法を活かした、新しいアニメーションを作りたい」と語る。スタジオディレクターの崔恩映氏は韓国出身で、マッドハウスで経験を積み、堪能な日本語と英語で、日本とフランスの混成アーティストチームを率いる。アンカマは、全世界で会員3,000万人/プレイヤー数1,400万人以上の大ヒットMMORPGゲーム「DOFUS(ドフス)」の開発会社として知られる。MMORPGと同じ世界観のFlashアニメーション「Wakfu(ワクフ)」(22分x 52話)を昨年からFrance 3で放映したところ、フランスの地上波アニメーション番組の今年上半期トップ10の5位に入る人気を得た。さらにコミックスやライセンスビジネスにも乗り出し、ゲームから始まった自主ブランド(キャラクター)をクロスメディアで普及しようとする。「DOFUS」は今年9月に日本語版ゲームをリリースするが、日本の放送枠にアニメーションを入れるのは容易でないと、ユナ氏は語る。
 ヨーロッパからテレビシリーズを日本に持ち込もうとすると「顔が違う」「テーストが日本向きでない」と拒絶される。日本は狭き門だ。しかし、日本アニメも海外展開で同じ壁にぶつかる。熱烈なファン相手でなければ、日本のアニメは「テーストが違う」「暴力的」と拒絶され、メジャーに登場できない。日本のテレビシリーズが売れた80年代までのヨーロッパはアニメーションの量産ができず、大量に出回る日本製を購入せざるを得なかった。今は事情が違う。各国でアニメーション産業が成長し、日本アニメとは異なる欧米流がどんどん制作される。しかも、制作費が高いとされるヨーロッパですら、競争力を持つ。世界不況で制作資金が回りにくくなったこともあり、ヨーロッパやカナダのプロデューサーは、相互の市場参入のために国際共同制作に熱心なのだ。

■日本の“失われた10年”

 日本アニメは “失われた10年”を過ごしてしまった。日本アニメに過去の栄光があったとしても、それにしがみつくだけでは復活を阻む。日本アニメが人気と伝えられるフランスですら、メジャーではない。テレビではヤングアダルト向けの専門チャンネルやVODで「MANGA」(日本アニメ)が見られるものの、表のとおりキー局での放送は極めて少ない。劇場公開では、スタジオジブリの宮崎駿監督作品がかろうじて「日本のアニメが強い」という名目を躍如する。
 現実を自覚して、なすべきことを考えるべきであろう。「一部の人たちの声だけでは動けない」と、政府系資金・助成金で事業を運営する組織の関係者は言うが、それは違う。動きの速い世界市場で日本が存在感を示し、各プレイヤーが相応の利益を生まねばならないのだ。“やる気のある人”を、日本の官民は支援すべきだ。ヨーロッパの活況は、やる気があり、過去に囚われない“若い人”たちがもたらした。

フランスの地上アナログ放送で2009年に放映されたアニメーションの国別時間数

フランスで2009年に劇場公開されたアニメーションの入場者数トップ10

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■日本の復活は、“若い人”に委ねよう

Ankama Japanジェネラルマネージャーのマチュー・ユナ氏(左)マーケティ ングマネージャーのジュリアン・ビュシェーレル氏、スタジオディレクターの崔恩映氏

 世界に出て、ビジネスを拓こうとする人たちに期待できると思う。ストップモーションスタジオのドワーフ(http://dw-f.jp/)は、受注仕事の傍ら自主制作で『こま撮りえいが こまねこのクリスマス ~迷子になったプレゼント~』を完成させ、プロデューサーがヨーロッパでの販路開拓に励む。あるいは、欧州や北米で共同制作の企画提案をする、CGアニメーションの実力ある制作会社の経営者やエグゼクティブプロデューサーがいる。『サマーウォーズ』でフランスの注目を浴びる細田守監督は「価値を共有すること」を心よいと言う。このようなセンスの監督なら、さまざまなパートナーと制作チャンスを広げられるだろう。
 日本には強みがある。たとえば、ライセンシングビジネスやマルチメディア展開のノウハウだ。日本が得意とする戦略的なグッツ展開やコンビニまで巻き込むプロモーション活動などは、ヨーロッパでは珍しい。このようなノウハウと共に、対等な共同制作スキームを提案していこう。あるいは独立系/アート系アニメーション作家の中にも、従来の商業作品の枠を破る、グローバルな感性を持つ逸材もいるだろう。
 グローバルな視野を持つヨーロッパの“若い人”たちが発する「日本と組みたい」というラブコールに、日本は応えようではないか。来年も“アヌシー”は、やる気のある“若い人”を快く迎えてくれることだろう。
(オフィスH 伊藤裕美)

2ページ フランスのVODと劇場公開アニメーション 資料編に続く