アヌシー2010とヨーロッパのアニメーションの現状 第1回

アヌシー2010とヨーロッパのアニメーションの現状 第1回
国際アニメーション・マーケット「MIFA」、浮上する3D(立体視)の行方

オフィスH 伊藤裕美
[筆者の紹介]

伊藤裕美 (いとう ひろみ) 現職 オフィスH(あっしゅ)代表。
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
1999年より毎年、世界最大規模のアヌシー国際アニメーション・フェスティバルに参加し、プチ・セレブ気分でアニメーション三昧の1週間を過ごすのが趣味。
http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp

 アヌシー国際アニメーション・フェスティバル(Annecy 2010 http://www.annecy.org/)が6月7日から12日まで、フランス東南部ローヌ・アルプ地域フレンチアルプスの麓、アヌシーで開催された。人口5万人の保養地に15万人以上の観客、7300人の専門家を集める“アヌシー”は「大きくなりすぎた」と批判されることがある。50周年を迎えた映画祭を特集した、ローヌ・アルプ地域のアニメーション情報誌「EN iMAGES.mag」でフェスティバル事務局長ティジアナ・ロッシ氏は「アニメーションは若者やこどもだけのものでなく、さまざまなテーマ、広範な世代の人たちへのメッセージを持つ。観客がそう変化させた」と語った。今日の“アヌシー”を形づけた、前フェスティバル・ディレクターの故ジャンリュック・ジベラ氏は、アニメーション作家の交流の場を理由に“アヌシー”の拡大を批判する人たちに、「確かに“アヌシー”は巨大だ。しかし、それはアニメーション界が欲する大きさなのだ。アニメーションが成長するから“アヌシー”も成長する」と予想した(Animation World Network、97年1月創刊号)。
 1960年、カンヌ国際映画祭の「アニメーション上映会」はアヌシーへ移った。60、70年代は“アニメーション作家の安らぎの場”であったが、83年、制作部材を売る数社の出展と、アニメーション作家との接点を求めるプロデューサーらによって、マーケットが小さな産声を上げた。そして85年、本格的な国際アニメーション・マーケット「MIFA」が500㎡の会場で始まった。ジベラ氏によると、国際マーケット構想を出した時代は、テレビアニメーションは日米の独壇場で、フランスにはプロデューサーがおらず、アニメーションの関係者は相手にしなかった。しかし、社会党政権のジャック・ラング文化大臣(当時)が「アヌシーが生き残るのに必要」と、映画祭関係者らの背中を押した。さらに、アニメーション産業振興の「映像計画」を掲げる外務省の支援を得た。“アヌシー”はテレビや長編の商業アニメーションに門戸を広げた。「60年代と比べると、今のアニメーション(界)は急激に変化している。フェスティバルとMIFAは、アニメーションの制作と産業が不可分のように、切り離させない」というジベラ氏の96年当時の言葉が残る。“アヌシー”は、わたしたちが想像するよりも官民が連携し、明確なビジョンで運営されてきたようだ。

■MIFA2010の特徴
 今年も会場内外で知り合いから「少し時間ある?今、こういう企画を準備している」と度々呼び止められた。制作会社やプロデューサーが企画を立ち上げるヨーロッパでは、彼らがMIFAの主役だ。MIFAは番組販売だけの場ではない。むしろ、“将来の制作を話し合い、パートナーを見つける場”だ。
 今年のMIFAは出展者が20%増え、400社を超えた。延べ床面積は3,500㎡、25年前の500㎡とは隔世の感だ。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは初めて本格出展した。
 フランス国内の地域経済体としては、パリ首都圏のIle de France Film Commission(イルドフランス、http://www.idf-film.com/)、アングレームを含む南西フランス ポワトゥ・シャラントゥ地域圏のMagelis – Pôle Image Angoulême(マジュリス – ポールイマージュ・アングレーム、http://www.magelis.org/)、ロワール河流域地域圏のCentre Images(サントル・イマージュ、http://www.centreimages.fr/)、アヌシーを含む南東フランス ローヌ・アルプ地域圏のImaginove(イマジノーヴ、http://www.imaginove.fr/)、北フランスのノール・パ・ド・カレ地域圏のPôle Image Nord-Pas de Calais(ポールイマージュ・ノール・パ・ド・カレ、http://www.pole-images-nordpasdecalais.com/)が出展した。

■中国の存在感上昇
 10年前、アヌシーに中国の存在はほとんどなかった。今年のMIFAでは中国が主役の一人となった。MIFA運営責任者のミカエル・マランは120名もの中国代表団と、最大規模のブース出展を誇らしげに発表した。マランは、数年に渡り日本に足を運び、日本企業を促したが、出展は増えなかった。一方、中国の動きは速い。長編部門コンペティションにJian LIUの『Piercing 1(悲鳴 1)』が出品され、2011年公開予定の中仏合作の長編『Da Hai(大海)』が披露され、コンペティションの学生・卒業制作部門に登場した『Kungfu Bunny 3 – Counterattack(カンフー・うさぎ 3)』(中国伝媒大学)はこども審査員賞を受賞した。
 ブース出展を見る限り、中国単独で制作するアニメーションが今すぐ通用するとは思えない。しかし今回の中国団は、低い制作費と中国アニメーションの文化を売りにして、共同制作につながるパートナーシップを強調する。中国は誰にとっても成長株だが、国内制作保護策はヨーロッパにも悩みで、市場進出の鍵は中国企業とのパートナー関係となる。『Da Hai(大海)』を共同制作する、フランスのPlanet Nemo(プラネットネモ、http://www.planetnemoprod.com/)は児童向けアニメーションで定評があり、香港やブラジルとも積極的な国際ビジネスを展開する。社長のフレデリック・プッシュ氏も、たびたび日本へラブコールを送ったプロデューサーであった。

2に続く 3D(立体視)とアヌシー