「中国でのネットアニメ事前検閲は今年中に開始か」中国アニメ産業の最新動向とケーススタディ


4月4日(水)から6日(金)にかけて、東京都港区の東京ビッグサイトにて開催された国内最大規模のコンテンツ関連の展示会「コンテンツ東京2018」。コンテンツに関わる様々な企業や個人のブース出展に加え、今後のビジネスを見通す視座を得るための特別セミナーも数多く開催された。
今回は4月6日(金)に開催された中国のコンテンツビジネスの最新動向を伝えるセミナー「中国アニメ配信事業の最前線と未来」についてレポートする。

本セミナーはコンテンツ業界の国内外での活動を支援し発展を促すための業界団体・特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)によるもので、モデレーターを同団体の専務理事・事務局長である市井三衛が担当した。
ゲストスピーカーは中国ビジネスのコンサルティングと法務を行う組織・IP FORWARDグループCEO兼代表弁護士の分部悠介氏と、中国を代表するIT企業3社のうちのひとつであるテンセントのアニメ・版権運営センターゼネラルマネージャーの何 子芸(He Ziyi)氏の2名。
なお、テンセントは日中で放送されたTVアニメシリーズ『霊剣山』『銀の墓守り』などを手掛けたアニメスタジオ・絵梦アニメーションを有しており、コンテンツ分野での日本への進出が目立つ中国企業のひとつだ。

セミナーはまず分部氏による中国のコンテンツビジネス動向の概要説明から始まった。
中国のコンテンツ市場規模は2016年で51億円、日本の約3倍の達している。そのうちアニメに関わる市場規模は日本とほぼ同等の約2兆2000億円だが、これも毎年2割増のペースとなっている。
中国のアニメ市場のフェーズは3つの期に分かれており、2000年以前は「盗る」、つまり海賊版の違法配信が主流だったが、10年弱前からは正式に「買う」フェーズに入り、2015年以降、ここ3年ほどは買うだけでなく消費者のニーズに合った作品を日本と「創る」時代に入った、という。

中国国内の映像配信におけるアニメの制作国別割合では、2011年では日本が92.1パーセントを占めていたのに対し、2017年では58.5%パーセントと、未だ主流ではあるものの割合を大きく減らしている。これには2006年にテレビ放送において17時から22時のゴールデンタイムに海外作品の放送が禁止されたことや、中国国産アニメの制作体制が整い本数が増えたことなどが影響しているという。
また、日本産アニメに関しては過去作が多いのに対し中国は新作が多くリリースペースも早いことから「配信でもここ2年が勝負」と見る。

続く何氏のプレゼンテーションではテンセントのコンテンツビジネススキームが説明された。
テンセントはPCをベースとしたSNS企業として1998年にスタートしたが、現在はクラウド、金融の他、ゲーム、アニメ、漫画など様々な分野の企業を有するITホールディングスとなっている。
中国で主流なメッセージアプリの一つ「WeChat」を提供する他、上述の絵梦や映画部門のテンセント・ピクチャーズ、日本の動画配信投稿サービス・ニコニコ動画を模して作られ2018年3月にNASDAQ上場を果たした「ビリビリ動画」、モバイルゲーム『クラッシュ・オブ・クラン』を運営するゲーム会社・スーパーセルなどもその傘下である。また漫画分野では角川や集英社と提携しており、独自のデジタルコミックのメディアやユーザー投稿サイトも有する。

現在のテンセントのデジタルコンテンツのメインユーザーは「在学生から社会人2、3年目」の10代、20代であり、何氏は彼らを「中国のネットカルチャーに最も大きな影響を与えた世代」と評した。ユーザー全体のPC利用率は現在約1/3となっており、スマートフォンが主流となっている。
デジタルコミックの分野では漫画家がプラットフォームごとに契約をして作品を発表し、ヒットすれば書籍化され、その後小説やアニメ、ゲームなどにIP利用されるという。日本とは書籍版とデジタル版の順序が逆である点が印象的だ。
また漫画がヒットすればその後小説、アニメ、ゲーム、実写映画・ドラマなど様々なメディアに展開していく点は日本と同じだが、違うのはテンセントが巨大なホールディングスであり、同社の系列内でそれらの展開が可能であるという点である。そのためメディアごとの広告タイアップやコラボレーションなど、IPの管理体制は強固であるという。

市井から「日本の製作委員会方式に近い印象を受けるが、発言権のある人が増えることで管理が難しくなることは?」という質問に、何氏は「IPはホールディングス内で一元管理されており、多メディア展開しても決裁権を持つ人が増えてばらつくことはない」と答えた。
漫画原作アニメの日本展開については、『一人之下』ではストーリーやキャラクターに中国色を色濃く出してしまったことを顧みつつ「今後はローカライズにも注力していく」と述べた。最
後に「『NARUTO』のような素晴らしい作品が今後出てくれば」と抱負を語り、説明を締めくくった。


最後は日中コンテンツビジネスに関するケーススタディと最新動向に関するセッションとなった。
分部氏が日本と中国でのライセンスに対する認識の違いについて「例えば漫画であれば、日本では原作者へのリスペクトなどがありライセンスを得ても完全に自由に使用できるわけではないのに対し、中国ではライセンスを獲得したら完全に獲得した人のもの。原作者に確認を取らずに作品展開されるケースもあり、日中のコンテンツビジネスの障害となることがある」と事例を挙げると、何氏は「日本では漫画産業の歴史が数10年あるのに対し、中国ではまだ5年であることを理解してほしい。また、日本では相互の説得による理解を重視するが、中国では例えば政府の判断などは動かすことができず、話し合っても解決できないことも現状存在している。政策の違いなども留意してほしい」と中国側の事情を説明した。

産業構造の違いについて、何氏は「TVがコンテンツの主流である日本に対し、中国では政府によるTV番組の事前検閲が厳しかったため、アニメや漫画などのコンテンツはIT分野で発展してきた。そのため意思決定が早く権利関係も整理されている」と述べた。
それを受けて日本コンテンツの中国展開については「(日本の)製作委員会方式で作られた作品の権利は権利者が多く意思決定のスピードの点で中国と足並みが揃わないケースがある。事前に権利関係を整理しておくことで、中国での展開がしやすくなる」と注意すべきポイントを挙げた。

分部氏は中国のアニメのネット配信の最新動向について「TV番組には事前検閲がある一方、これまでインターネットアニメにはそれがなく自主規制に任されてきた。だが、今年中に法改正され、ネットメディアでも事前検閲されるようになる見込みが強い」と述べた。
それによる日本アニメの中国展開への影響については「これまでも『進撃の巨人』や『デスノート』など、放送開始後に文化部(日本の文化庁にあたる行政部門)のブラックリストに入り、放送できなくなることはあった。そのため中国進出しても途中で展開ができなくなるおそれがある不安定な状況だったが、事前検閲されることで逆に安定する面もある」という。

検閲の具体的な内容については「これまで暴力、セクシャル、宗教、グロなどの表現が検閲の対象だったが、これは変わらないだろう。審査に要する期間は現状全くの未知数だが、海外アニメや映画の例を元に考えると3か月から6か月かかるとも考えられる。一方、製作に中国企業が入ることで審査が甘くなる傾向があるため、その場合は審査機関が短くなることがあるかもしれない」と予見し、何氏も全面的に同意した。
アニメのネット配信の中国展開を考えるに際し、検閲がどのタイミングで始まるのかには注視が必要である。
[いしじまえいわ]