シッチェス映画祭 ディレクター アンヘル・サラ氏に聞く

シッチェス・カタロニア映画祭 スペインポップカルチャーと日本映画
映画祭ディレクター アンヘル・サラ氏に聞く シッチェスの戦略

21世紀に入り、ポップカルチャーの持つ文化力がますます注目されるようになっている。注目されると同時に、その文化発信地も世界各国・地域に広がりつつある。文化の発信地のひとつが、スペイン・カタロニアである。カタロニアからは様々な映画やアート、イラストレーション、そしてゲームが生み出され注目をされている。
そうしたスペイン・ポップカルチャーの活動を象徴するのが、毎年秋に開催される国際映画祭 シッチェス(SITGES International Fantastic Film Festival of Catalonia )である。ファンタジー、ホラー、SF、アニメーションなどを幅広く取り上げ、この分野を代表する映画祭として世界に広く知られている。
日本のアニメファンには、シッチェス映画祭は日本のアニメ作品を積極的に上映する場所としても知られている。なぜシッチェス映画祭は、日本映画、日本アニメに注目するのだろうか。
スペインのポップカルチャーを紹介する「スペイン:新時代のアーバンカルチャー2009」ため、2009年12月に来日した映画祭ディレクターのアンヘル・サラ氏にお話を伺った。

■ シッチェス・カタロニア映画祭 
スペイン・バルセロにシッチェス映画祭は、1968年にファンタジー映画・ホラー映画に特化した映画祭として始まった。
2000年代に入り、作品のフィールドをアニメーションやジャンル映画に広げることで急激にその存在感を増している。現在、世界で最も評価されているファンタジー映画、ジャンル映画の国際映画祭である。
また、2000年以降は、日本のアニメ、ホラー、SF映画を積極的にチョイスすることでも知られている。2009年に細田守監督『サマーウォーズ』が最優秀アニメーション映画賞を受賞したほか、『時をかける少女』(細田守監督)、『東京ゴッドファーザーズ』(今敏監督)、『鉄コン筋クリート』(マイケル・アリアス監督)、『死者の書』(川本喜八郎監督)、『座頭市』(北野武監督)など日本からの受賞作品は数多い。

シッチェス・カタロニア映画祭 公式サイト(スペイン語・英語)
http://sitgesfilmfestival.com/

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■ アンヘル・セラ
オフィシャル・ファンタステック部門をはじめ9部門にも及ぶシッチェス映画祭を指揮するディレクター。今回は2009年12月に開催された「スペイン:新時代のアーバンカルチャー2009」のために来日。
ホラー映画、ファンタジー映画はもちろん、日本のアニメにも造詣が深い。インタビューの際には、胸につけた村上隆デザインのピンバッチが印象的だった。

■ 「シッチェス映画祭躍進の秘密と日本映画

アニメアニメ(以下AA)
まず、シッチェス映画祭について伺わせてください。非常に世界的に知られた映画祭で、いわゆる3大映画祭とは別に、世界で最も知られる映画祭のひとつだと思います。
特に2000年以降に急成長したのですが、シッチェスの背景と成長の秘密についてお話いただけますか。

アンヘル・サラ氏(以下サラ)
私たちの映画祭は、ファンタジック映画のための交流の場です。ただ、ファンタジック映画といっても、広範なファンタジック映画と理解して貰えるとよいと思います。
特に2001年以降ぐらいからは、伝統的に人々がファンタジック映画として理解する吸血鬼といったホラー映画だけでなく、より広範な意味でのファンタジック、新しいメディアとしてのファンタジック映画を取上げることを目的としています。

そうした観点から映画祭を開催するようになったことで、それまでよりも多くの観客を集めることができるようになりました。新しい視点を映画祭に盛り込むことで、これまでの伝統的なファンタジック映画だけでは飽き足りなかった人々の期待に応えることが出来ました。

AA
その中で日本の三池崇史監督、黒沢清監督ですとか、日本のホラー画、ジャンル映画、そしてアニメを非常に積極的に取り上げています。これはなぜなのでしょうか。

サラ
私たちは、1990年代、まさにこのジャンルにおいて、日本で革命的な動きがあったことに気づきました。その革命的で新しい動きを私たちはもっと認識して、育てる必要があると感じました。
例えば中田英夫監督、黒沢清監督、三池崇史監督、塚本晋也監督といった方々の作品を含めて日本からの波を紹介することが重要であると考えました。

同時に2002年からは、そこからもっと昔にさかのぼったかたちで日本映画を紹介しています。毎年、黒沢清監督、三池崇史監督など重要な日本人をシッチェス映画祭に招待しています。
その結果、一般の人々も新しい波があることを知るなどよい反応が出ていきます。これはアニメについても同じことが言えます。

AA
日本ではそういったホラー、アニメ、特撮というものは、一般的な映画と較べて偏見を持って見られることも少なくなくありません。
そうした作品を取り上げることに対してスペインの映画界、それから一般の人たちはどういうふうに考えているんでしょうか。

サラ
スペインでもこうした映画はやはり若干低いものと考えられていました。
しかし、そうした認識は変わってきました。以前よりもその重要性が知られるようになり、現在はその認識は変わっています。例えば黒沢監督、三池監督などのステータスは非常に向上しています。

同じことはアニメ映画にも言えます。アニメについても、以前はそれほど重要性が置かれてなかった、あるいは芸術性が低いというような認識もあったかもしれません。
しかし、現在ではそれは非常に変わりました。特にここ10年で、アニメ映画に対しての認識は変わり、宮崎駿監督、押井守監督などの優れた作品が評価されています。

このため日本映画のプレステージは非常に高まっています。これはまさに映画祭を通じて評価が高まった結果だと考えています。
スペインだけでなく、フランスなどでもやはり映画祭を通じて評価は高まっています。

AA
フランスなども含めた全体的な動きとの話がありましたが、そうは言ってもシッチェスは明らかにどこよりも早く注目の作品を取上げます。
先端を走っているという意識はあるのでしょうか。

サラ
映画の進化を考えた場合、やはり重要なのは新しいものを考えていく必要性です。その意味で、例えば日本のアニメは私たちにとっては非常に革命的なことだったのです。
90年代半ばにいろいろなアニメの手法が、『ANIMATRIX』などが取りいれられたり、例えばスピルバーグやキャメロンなどいろいろな人たちに対して大きな影響を与えました。

それがカンヌやベネチア、ベルリンの映画祭においても反映され、アニメやホラーはひとつのジャンルとして認められたわけです。カンヌ映画祭での宮崎監督作品への評価や、あるいは三池監督の評価です。私は視聴覚の芸術においては、何か勇気を持って新しいものに取り組んでいくことが非常に重要なだと思っています。
私たちは北野武監督の『ICHI』と黒沢清監督の『CURE』を非常に革新的であると高く評価しています。新しい言語を使って大きな影響を与えている作品と考えます。韓国や香港の映画についても、同様の重要性があると思っています。

私はシッチェス映画祭だけでなく、映画祭には常にそのようなイノベーションを起こしていくことが重要な役割があると考えています。
私たちは過去10年間そうした革新的な取り組みに焦点を当て活動して来ました。

例えば今年について言いますと、私が最も革新的で素晴らしいと思った映画2本ありました。それはやはり日本映画で細田守監督の『サマーウォーズ』と松本人志監督の『しんぼる』です。

2へ続く

2009年12月9日、10日 東京・スペイン国営セルバンテス文化センター東京で開催された「スペイン:アーバンカルチャー2009」から。
2009年12月9日、10日 東京・スペイン国営セルバンテス文化センター東京で開催された「スペイン:アーバンカルチャー2009」から。

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